祈り姫

花咲蝶ちょ

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願いと妄想の夢違え

9☆妖と神の宣言と誓約

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 狐の妖怪の夜子は絵を媒体として喋り出す。
「おおっ!凄い!君をぜひ僕のコレクションにしたいよね!」
 中務の宮は瞳をダイヤモンドの光のように輝かせ、喋る絵の状態の夜子に心が踊る。
「喜んでいる場合ではないぞ!中務の宮!」
 畏れ多くも晴房は手に持つ檜扇で、中務の宮の後頭部をぶっ叩きそうな勢いなのを瑠香は静かに止めた。
「呼ばれたついでに、この夢の最大のルールを教えてあげる。これは『宣言』よ……」
 瞳を赤く煌めき夜子は言う。
 その瞳は禍々しい感覚をその場のものに伝えるほど強い。
 それほどの力のあるあやかしだということに、皆は息を呑む。
『夜明けの目覚めまでに、皇女殿下が悪夢から目覚めたら夢は実現するわ……』
 声が二重になって響く。それは強い呪詛だった。
『これはゲームだけど、現実になるわ』
『ならば、李流を遣わし、よき夢に目覚めたならば、皇の世は久遠に存在するであろう!
 これは、誓約だ!』
 晴房はすぐさま言霊を打ち消すように、そう言い放つ。
 ハルの神の声が晴房に重なり、牽制と威圧をその場に与えて邪気を祓う。
『私が誓約と宣言を見届けてやろう……』
 瑠香はルカ神を降ろして審神者の青い瞳で夜子を睨む。
 本来だったらすぐさまに消滅させてやるのが一番の方法だが、法子の魂を人質にされているのだから『宣言』と『誓約』に則って李流を勝たせれば最大限の善き言霊になる。

「いいだろう。私が見込んだ李流が全てを収めてくれるのは間違いないからな」
 ふんっ!と晴房は偉そうに鼻息荒い。

「私は縁結びの神でもあるの。
 だから誰にとっても、最高のエンディングになることを私は望むわ……ふふ。
 ねぇ、坊や全てはあなたにかかってるのよ。せいぜい楽しませてね♡」

 李流を見つめて不気味に微笑んだ。

「さぁ、楽しいゲームの始まりね……ふ、ふ、ふ、ァハアハアハアハア!」
 夜子はあまりの高揚に口を耳まで避けて大いに笑う絵姿は思いっきり化け物じみていて人を食い殺しそうな牙を覗かせていた。
 それを見た李流はゾクッと背筋を凍らせた。
 本来、こういう霊的な出来事は大っ嫌いだ。
 これこそ夢ではないのだろうか?ここは現実か?と疑問に思っている所、晴房に檜扇で頭をバン!と叩かれて、

「現実だ、バカもの!しっかりせい!」
「は、はい!頑張ります」
 晴房の檜扇は邪気や弱きを跳ね飛ばす力があるらしく改めてシャキッとした。



「李流君!夢の中の男の恋愛エンディングだけは回避するでつよ!現実の世界にとって全く良くないエンディングでつ!」

 野薔薇はゲームの趣旨を理解して李流にすぐさまアドバイスする。
「皇族以外の男子が皇女と結婚して子供を作ってそれが皇になっちゃうゲームでは最高でつけど、現実では皇室の血が途絶えてしまうんでつから!」
 野薔薇も必死だ。
 宮中に使えるものは基本
【皇室第一!皇室命!】
 の考えであるからだ。
 その事は夢でも神に告げられたことを改めて思い返してゾクッとする。
「とにかく、李流くんは従者エンディングを目指すでつ!」
 野薔薇は真剣にそう叫ぶ。
「むしろ、身重じゃなかったら私が無事にそのエンディングに導くことできたのにぃぃっ!」
 と、興奮気味だった。
 そんな野薔薇を中務の宮は、
「まぁまぁ、お腹の子に悪い影響になるから落ち着いて」
 と宥める。

 野薔薇が目指すエンディング通りに進まねば、目が覚めて、陛下以外の皇族殿下がたの性別が変わっていたなんて、悪夢どころじゃない。
「むしろ、徐々にそういう呪いが掛かるのが現実的だな……」
 瑠香は顎に手を当ててそう想像する。
 中務の宮も考える仕草をして、
「我が娘、法子の未熟の祈り姫の力を媒介にしているということは、あやかしは法子の李流君の想いを使って夢誓いをしているわけだね。法子の望み通りもダメってことだね?」
 悪夢の反映を打ち壊すことが出来なかったら、日和国に女性宮家が出来て、新たな王朝が始まってしまう現実になってしまう。

「だけど、夢の中の法子殿下は男の子だから恋愛にならないのでは?男の子の法子殿下を目覚めるまで守ることが先決になるのかな……」
 弓削隼人も真剣に案を出す。
 ベースは恋愛ゲームだとしても、あの縁結びの神のあやかしの異界なのだ。
 ルールを変えてくることもあるだろう。
 
「だが幸いにも夢の中の法子は男の子なのだろう?恋愛には絶対ならないから安心だね?」
 中務の宮は何故か満面の微笑みで言った。
「それって現実でも叶わないってことにならないでつか?」
 それは李流君が可愛そうでつ……と思ったら、

「それはそれで仕方ありません。国のため、皇室のために出来ることならばオレはやり遂げます。」
 そう中務の宮に真っ直ぐな瞳でハッキリ言い切った。
 李流の強烈な忠義に嘘はなかった。
(まだ子供の二人には将来をかけるほどの恋愛の実感がないのも幸いしたな……)
 と中務の宮は密かに苦笑した。
 ちょっと将来の花婿に意地悪したのに李流は意に介さない。

「ふふ、頼もしいね。さすが陛下とハルの神に認められただけあるね……私も認めなきゃかな?」
「お、恐れ多いです……」
 李流は中務の宮のお言葉に顔を真っ赤にしてかしこまった。
「殿下、私の真似していじわるはダメですよ。」
「本気で可愛い子にはいじわるしたくなっちゃうね。昔の瑠香みたいにね」
「おわかり頂いて光栄です」
「李流をいじめるものは中務の宮とはいえ許さぬぞ!」
 むっとして、ぎゅっとまた李流を抱きしめ守る晴房だった。

「長く現世に居すぎても支障がある。さっさと李流を夢に送ってくれ。瑠香頼むぞ」
「ああ」

 瑠香から煙が漂うと、李流はそのまま、現の記憶と意識を保ったまま夢の中に入った。



 李流は曖昧な魂ではなく、己自身使命をもって、意識知識を保ちつつ皇室を守るため、法子を命をかけて守るため西洋風の宮殿を法子を探して駆け出した。

(法子様を亡きものにしようとする男を誅殺して、皇女と結婚を阻止できるなら、手を汚すことだって構わない……たとへ夢ではなく、現実でも……)
 と李流は本気で思っている。
 夢の中の李流は伝統衛士の装束で刀は飾りではなく本物の刀で重みをしっかり感じる。
 それば自分の覚悟と同じ重さに感じる。
 いや、もっとこれ以上に李流の覚悟は思い。
 国を皇室を尊ぶ心は誰にも負けないと自負し、これから自分が行うことを全うしようと、脇に下がる刀の鞘をしっかりと握った。
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