祈り姫

花咲蝶ちょ

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願いと妄想の夢違え

3☆二つの意識と異世界

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「ここは……日和宮殿、自分の部屋……か?」

 宮殿の一室を陛下から与えられていたが、少し雰囲気が違う。
 法子の部屋はピンクを基調にした可愛らしい部屋だったが、この部屋は淡いブルーを基調とした男の子らしい部屋と作りになっていた。

 体が男子になっていること自体衝撃的驚くことだったが、これがいつもの自分だと納得してしまう……

(これが、私……僕だ……)

「陛下のおわす宮殿までズケズケと入ってくるとは…………」
 と、つい憎々しげに、ため息を吐くように呟いてしまう。

 そうすると、今までの本来の法子の記憶にない記憶が蘇るようだ。
「僕はやつに命を狙われている……将来、皇になる僕が邪魔だから……」
 命を狙われていると、自覚してきた……それは空恐ろしい記憶だと、俯瞰している感覚の法子は思う。

 夢なので夢の中のストーリーは記憶になくても植え付けられるような感覚だ。
 やはり、普通の夢ではないと感じる……
 夢だと自覚しているのに、目覚められない……
 これはとても不安なこととも思う。
 神の世界ならば、夢の中でも己を保てるのに、己を保ちながらも違う記憶や感情に支配されて自我をギリギリ保っている危うい状態だ。
 禍々しいものがつくりだした世界に魂を夢の中に閉じこめられたからか……?

 法子の直感は当たる。
 自我よりも、夢の中の皇子の法子の焦りに感情が優先されている。

 たしか、皇太子殿下の皇女殿下が一目惚れした男を皇族として初めて皇室に迎えることになってしまった……

 長女である皇太子殿下の皇女が次なる皇になる訳では無いが、男子皇族は法子一人。
 それを憂いた時の売国政府が、女性宮家なるものを作った上に、皇位継承順まで皇族減少の危機として男女区別なく継承を議論中だ。

 もし、皇太子殿下の皇女が一般人の男との子を産んだら今まで続いた、男子万世一系が途絶えて、皇族と縁もない男の血筋が日和国の皇になることになる。
 今までの日和国の滅亡も同然だということを、恋に狂った皇女殿下は気づかぬ振りをしているようだ……

 日和国の皇の役目たる国民のために祈る儀式も伝統の尊さも解さぬ無知で怪しい男……
 それに皇女も無知だった……
 それ故に皇女に手を出した……

 いずれは自分が皇になれると信じて……

 国民はみんな不安に思っていた。

 周囲からの強烈な反対の中、無理やりでも結婚をしてこうして宮殿に住まっている。

 という、記憶が夢の中の設定にあった。

 そして、今後、唯一の後継者であろう私の……僕の命を狙っている……帝の地位を狙っている……

 現実の記憶を法子は俯瞰して記憶を手繰り寄せる。
 それが現実の自分だと言う自覚に通じると思うからだ。

 現実は男子皇族が沢山いらっしゃって、式部宮の双子の皇子は前年、成人皇族になられたばかりだ。
 皇太子殿下の一人息子の光継も五歳だ。
 皇統順位は確定されて安定している。
 ただ女性皇族が法子一人という祈り姫の継承が法子が成人して何年も現れなければ結婚することが出来ないのは法子が困る。
(降嫁して李流と結婚できなくなってしまうのはいやだな……)
 と不安に思って、母の春子に宿られた皇女でありますように!と祈っている毎日だ。
 一般人の李流との結婚を夢見ていたし、今もそれを希望している……

 …………そこに付け込まれたのかもしれない…………

 と確信すれば、祈り姫巫女として不貞な考えで今は誰にもこの本心を知られたくなかった。
(この世界の皇女と同じ……いや!違うぞ!)
 この世界の皇女と同じ無知なものとは違うと思う。
 自分には李流に叩き込まれた皇族たる所以の知識がある!
(自分の役目をおろそかにはせぬ!)
 と、己を鼓舞するようにエイエイオー!のポーズをして、
(私の望みは、降嫁して李流と幸せになるのが人生の夢なのじゃ!
 後継者がいないなら、祈り姫として一生務める覚悟はあるのじゃ!……いや、皇女が産まれたら、いずれ速攻バトンタッチ予定じゃ!)
 法子自身そのように前祈り姫から受け継いだようなものだった。

……だが、この夢の世界は、自分以外みな女性皇族しか生まれなくて、仕方なく女性宮家まで設立された。

 その婿を法子は色々な嫌悪感を抱いていて、相手にも伝わっている。
 それほど険悪の設定だ。

 自分はその男に嫌悪を抱いていた。
 殺意を抱かれるほどに……
 夢の中なので感情が剥き出しなので法子は恐怖をいつも以上に感じて影響されるのだった。
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