あやかしと神様の昔語り

九尾の復活

6☆変えられない運命

　威津那は橘を掴んでいる焔の手を切り落として、橘を奪い抱き締める。

「橘！橘……遅くなってごめん……」
　橘は、パクパクと、唇を動かしている。
　口の動きは弱々しく「威津那」と呼び微笑んだ。

　顔の痣もひどく呪詛で喉を潰されているためにもう一生声が出せなくなっていて、そんな橘に威津那はやるせなく悲しく涙が溢れる。
　もう目も虚ろで生きているのがやっとのようだ……
　威津那は痛みが消えるように優しく頬を触る。

　希望を失わず威津那に抱きしめられて気が緩みそうになるのをこらえる。

（このまま死ぬわけにはいかない…まだ…生きたい…だから……）

　橘は力の限り威津那と向き合い、一生懸命口パクをする。
　威津那にはわかるのだから……

殺して……威津那がいいの…
そして、あなたのものにして…
眷属として…妻としてずっとそばにいたい…きっと…菊が助けてくれるから……大丈夫……

「嫌だ……いやだよ……」
　白狐にしたいと思っていた時と違い、橘を一時期でも失うのは嫌だ…

　私、結構、計算高いのよ……

　そう言って弱々しく微笑む。

　橘の命は本当に数分しかない……
　これが橘の宿命なら魂はすぐに黄泉へ逝ってしまうだろう……

　死は誰にでも訪れる宿命なのだから…けれど《運命》ならば……

「逝かせない……」

　威津那は決意する…しなくては本当に橘を失う……

「ごめん…僕なんかが、君を好きになって……不幸にする未来が見えていたのに……
　君を白狐する運命は変えられないんだね……」
　ボロボロにされた黄色狐耳に囁く。

　威津那は橘に、血の混じったキスをして息を吹く。
　これは縛りの呪術。
　白狐…九尾を縛るための取って置きだった。
　今は菊が早く橘の命を救うように願うように祈る。

　カラスの呪詛で橘の心臓を止めた。

　橘は力無く威津那の腕から滑り落ちた。
「嘘……橘をあなた…殺したの……？なんてことしてんの！あんたやっぱり大っ嫌い！」
　咲羅子は青ざめて叫ぶ、今すぐ刀を抜き焔よりも威津那を先に殺しそうな勢いなのを季節は止めて橘が光っているのを指差す。

　闇の世界で白狐の御霊の菊が真白に光り、橘の中に入った。
　そして、橘の体は光出す。
　威津那の闇の世界で希望のように光り、橘の体は神秘的…いや奇跡を起こしている。
　橘の体は真白に光り輝き浮いている。
　ひどい虐待痕も何もかもわからない、生まれ変わろうとしているようにも見える。
「やった！でかしたぞ威津那！これで九尾が目覚める！」
　アハハハハハハ！と焔は歓喜の喜びの声を上げる。
「これも餞でくれてやるよ！」
　床に置いてあった袋を変化する橘に向かってぶつけた瞬間、八匹の白蛇に変化した。
　九尾の尻尾は蛇の式神に変化して高良の方に帰る。
　焔は一瞬何が起こったかわからなかったが、高良と目が合う。

「お前……！」
　高良は紺太の尻尾を手に持っていた。
　こっそり蛇の式神を操り尻尾を奪い偽物に変えて仕込んだのだ。
　最大限にバカにしたように意地悪げに鼻で笑ってやった。