140 / 161
九尾の復活
3☆目覚めの悪夢
しおりを挟む
な……威津那…助けて…威津那…。
「橘?」
神と酒を組み交わしている中で橘の声が聞こえて不安に胸が締め付けられる。
ハルの神は黄金の雲からトンっと肩を押して突き落とす。
「本来なら陛下のために使う力だが、思う存分我の力を試してみるが良い……」
ハルの神は不敵に笑う。
その不敵さが現世で起こる不吉なことに感じた。
「威津那さん!起きなさい!」
威津那の着物の襟首を掴み両頬を流花がパンパンと平手打ちする。
「お、義母さん……?」
流花の顔は青ざめ不安に駆られているようだ。
その後ろに息を切らせて、なぜかボロボロの咲羅子と高良に皇太子殿下と護衛の季節と槐寿まで不安そうに見ていた。
「神誓い中に無理やり起こすと魂が帰って来れなくなることあったから心配でしたけど……威津那さんですわよね?」
真剣な瞳で流花はじっと見つめる。
「は、はい…あの…状況が飲み込めないのですが…」
神誓いして、神と酒を酌み交わし語らいでいたことは思い出せるが、勢揃いして儀式の褥に集まっている状況がわからなかった。
「橘があんたのお兄さんにさらわれちゃったのぉ!お願い!助けに行って!」
うわーーーーんと咲羅子は子供のように突然泣き出した。
そんな咲羅子を季節は背をさすり落ち着かせる。
「焔に……さらわれた…!?」
行きは異界を通ってこれたが、帰りは案内する能力者がいないと帰ってこれないので、咲羅子と高良は牡丹の折り紙の式神で宮中まで送ってもらっても三十分以上経ってしまって、不安で不安で黒御足の本拠地なんかわからない。
威津那も神誓いしてしまったならば、橘のために力を使えないんじゃないかと不安に思っていたら、皇太子殿下が、
「陛下ご自身は、大切な一人を守る為に力は使えなくても、私の為の神の化身ならば、私の大切な大御宝である民一人を助ける為の力を使えるなら使えとおっしゃられたよ」
と言って許可を得た。
「それに、レッドスパイは日和を滅ぼそうとする不定の輩だ。ハルの神も言っておったじゃろ?」
晴綛は険しい顔をして威津那に告げる。
「神の力を存分に試せと……こんな機会大戦のときにはなかったわ…」
むしろ、神誓いを失敗してしまったが……
「晴綛様、怪我は大丈夫なのですか?」
高良は晴綛の怪我を心配する。
「まぁ、この通りな…わしを負かした焔を婿にしたくないから早くやつを倒しに行け」
「負かした…?」
晴綛は小指をみせる。
小指の根元から切られた傷痕が残っている。
血が止まって指がくっついたから異界から出てきたようだ。
威津那の首もとの縛る呪術が解けているのを感じる。
神誓いしたせいではない……
晴綛の術を破るには小指を切り捨てるということをすればすぐだとはわかっていたけれど、できなかった。
することもなかった……
阿部野の婿入りする気満々だったから……
甘さに溺れた……
黒御足は裏切り者に容赦は無い一族だということを忘れていた……
それに長の命令に忠実だ。
そんな一族に橘が攫われればどんな酷いことをされるかは自分が一番わかっている……
焔は父の命令を実行するための人形も同然…橘を白狐に……九尾にする為に橘を殺すつもりだ…いや、もう手遅れかもしれない…焔の手の速さ、非人道をよく知っている……と思考の絶望の淵に落ち込んだ時……
《まだ橘は死んでいない……早く助けに行け……お前の助けを望んでいるのだ…》
眠る狐の菊は半透明で現れる。
《橘が、希望を捨てない限り……本来の我は復活はせぬのだから……》
「それは………」
菊の言葉は意味深で引っかかる。
普段は眠っている菊が半具現化している意味に運命が不吉を物語っている。
「威津那!早く助けに行きましょう!私たちも連れてって!」
咲羅子は橘は無事だという希望を持って威津那を促す。
「紺太の仇は絶対オレが打つ!」
「お前らだけでは不安だから季節と、槐寿も連れて四神の依代にしろ。」
晴綛は冷静にそう命じる。
威津那は晴綛はどことなくこういうことになることを知っていて放置したのでは無いのかと不審に思った。
だが、晴綛はハルの神の分御霊をいただく特殊な存在のため晴綛自身がどうにかしたくても動けない事があることを《ハルの神の依代》になった威津那には理解する事ができた。
そんな晴綛に妻である流花は寄り添って晴綛のやるせなさを慰めるのだ。
季節は事情を飲み込めば早く橘どんな事があろうと救いに行きたいと進み出る。
「俺には力はないと思うが、できる限りの力は全て貸す。」
季節のどっしりとした力強さは頼りになる。
「あなたの生まれ持っての祈り姫の加護はきっと役立つわ…自信を持って」
流花はそう言って季節を励ます。
槐寿は殿下と離れるのが不服だったが、殿下に「僕の友人をどうか助けてきておくれ」と、お願いされて精一杯頑張る事にした。
「で、橘が攫われた場所がどこだかわかる?黒御足の本拠地?」
「本拠地も点々として呪術がかかってて検討は難しいけれど……」
威津那は素早く着替えながら,首にかけた小さな巾着袋から髪の束を取り出して食べた。
「それ、橘さんの……?」
槐寿は嫌なことを思い出す。
「これで橘の居場所がつかめる。みんな乗って!」
威津那はカーちゃんを具現化させてみんなを乗せる。
力は神の力とは別に自分の中の生まれ持っての能力が使えるようだ。
呪詛の力もだ。
どうやって、神の依代の力を使えばいいかは実践しろということかと納得は行くが……早く橘を救いたい。
この腕に抱きしめて……言葉にできない思いを伝えたい……
その為にも……
「どうか……無事でいておくれ……」
威津那は切実に願うのだった。
「橘?」
神と酒を組み交わしている中で橘の声が聞こえて不安に胸が締め付けられる。
ハルの神は黄金の雲からトンっと肩を押して突き落とす。
「本来なら陛下のために使う力だが、思う存分我の力を試してみるが良い……」
ハルの神は不敵に笑う。
その不敵さが現世で起こる不吉なことに感じた。
「威津那さん!起きなさい!」
威津那の着物の襟首を掴み両頬を流花がパンパンと平手打ちする。
「お、義母さん……?」
流花の顔は青ざめ不安に駆られているようだ。
その後ろに息を切らせて、なぜかボロボロの咲羅子と高良に皇太子殿下と護衛の季節と槐寿まで不安そうに見ていた。
「神誓い中に無理やり起こすと魂が帰って来れなくなることあったから心配でしたけど……威津那さんですわよね?」
真剣な瞳で流花はじっと見つめる。
「は、はい…あの…状況が飲み込めないのですが…」
神誓いして、神と酒を酌み交わし語らいでいたことは思い出せるが、勢揃いして儀式の褥に集まっている状況がわからなかった。
「橘があんたのお兄さんにさらわれちゃったのぉ!お願い!助けに行って!」
うわーーーーんと咲羅子は子供のように突然泣き出した。
そんな咲羅子を季節は背をさすり落ち着かせる。
「焔に……さらわれた…!?」
行きは異界を通ってこれたが、帰りは案内する能力者がいないと帰ってこれないので、咲羅子と高良は牡丹の折り紙の式神で宮中まで送ってもらっても三十分以上経ってしまって、不安で不安で黒御足の本拠地なんかわからない。
威津那も神誓いしてしまったならば、橘のために力を使えないんじゃないかと不安に思っていたら、皇太子殿下が、
「陛下ご自身は、大切な一人を守る為に力は使えなくても、私の為の神の化身ならば、私の大切な大御宝である民一人を助ける為の力を使えるなら使えとおっしゃられたよ」
と言って許可を得た。
「それに、レッドスパイは日和を滅ぼそうとする不定の輩だ。ハルの神も言っておったじゃろ?」
晴綛は険しい顔をして威津那に告げる。
「神の力を存分に試せと……こんな機会大戦のときにはなかったわ…」
むしろ、神誓いを失敗してしまったが……
「晴綛様、怪我は大丈夫なのですか?」
高良は晴綛の怪我を心配する。
「まぁ、この通りな…わしを負かした焔を婿にしたくないから早くやつを倒しに行け」
「負かした…?」
晴綛は小指をみせる。
小指の根元から切られた傷痕が残っている。
血が止まって指がくっついたから異界から出てきたようだ。
威津那の首もとの縛る呪術が解けているのを感じる。
神誓いしたせいではない……
晴綛の術を破るには小指を切り捨てるということをすればすぐだとはわかっていたけれど、できなかった。
することもなかった……
阿部野の婿入りする気満々だったから……
甘さに溺れた……
黒御足は裏切り者に容赦は無い一族だということを忘れていた……
それに長の命令に忠実だ。
そんな一族に橘が攫われればどんな酷いことをされるかは自分が一番わかっている……
焔は父の命令を実行するための人形も同然…橘を白狐に……九尾にする為に橘を殺すつもりだ…いや、もう手遅れかもしれない…焔の手の速さ、非人道をよく知っている……と思考の絶望の淵に落ち込んだ時……
《まだ橘は死んでいない……早く助けに行け……お前の助けを望んでいるのだ…》
眠る狐の菊は半透明で現れる。
《橘が、希望を捨てない限り……本来の我は復活はせぬのだから……》
「それは………」
菊の言葉は意味深で引っかかる。
普段は眠っている菊が半具現化している意味に運命が不吉を物語っている。
「威津那!早く助けに行きましょう!私たちも連れてって!」
咲羅子は橘は無事だという希望を持って威津那を促す。
「紺太の仇は絶対オレが打つ!」
「お前らだけでは不安だから季節と、槐寿も連れて四神の依代にしろ。」
晴綛は冷静にそう命じる。
威津那は晴綛はどことなくこういうことになることを知っていて放置したのでは無いのかと不審に思った。
だが、晴綛はハルの神の分御霊をいただく特殊な存在のため晴綛自身がどうにかしたくても動けない事があることを《ハルの神の依代》になった威津那には理解する事ができた。
そんな晴綛に妻である流花は寄り添って晴綛のやるせなさを慰めるのだ。
季節は事情を飲み込めば早く橘どんな事があろうと救いに行きたいと進み出る。
「俺には力はないと思うが、できる限りの力は全て貸す。」
季節のどっしりとした力強さは頼りになる。
「あなたの生まれ持っての祈り姫の加護はきっと役立つわ…自信を持って」
流花はそう言って季節を励ます。
槐寿は殿下と離れるのが不服だったが、殿下に「僕の友人をどうか助けてきておくれ」と、お願いされて精一杯頑張る事にした。
「で、橘が攫われた場所がどこだかわかる?黒御足の本拠地?」
「本拠地も点々として呪術がかかってて検討は難しいけれど……」
威津那は素早く着替えながら,首にかけた小さな巾着袋から髪の束を取り出して食べた。
「それ、橘さんの……?」
槐寿は嫌なことを思い出す。
「これで橘の居場所がつかめる。みんな乗って!」
威津那はカーちゃんを具現化させてみんなを乗せる。
力は神の力とは別に自分の中の生まれ持っての能力が使えるようだ。
呪詛の力もだ。
どうやって、神の依代の力を使えばいいかは実践しろということかと納得は行くが……早く橘を救いたい。
この腕に抱きしめて……言葉にできない思いを伝えたい……
その為にも……
「どうか……無事でいておくれ……」
威津那は切実に願うのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
桜井兄弟のばあい
染西 乱
キャラ文芸
桜井さんちの男三兄弟が幸せに恋愛したりする話
三兄弟の兄ハジメは小学生の頃友達だっためぐむに告白される。好きとか付き合うとかまだわからないとめぐむを振ったハジメは、もう一人の親友であるイチコに「ずっと友達でいてくれ」と頼むが、イチコには「出来ないかもしれない約束はしない」と言われてしまう。
高校受験を控えたハジメは、遅くまで予備校で勉強して帰宅していた。家の近くで揉み合っている男女に気づくと、それはイチコで……
普段はコメント欄閉じてるタイプなんですが、読書キャンペーンが同時開催しているのでコメント欄開けてます。
感想考えるのは大変なので、ここのコメントは「読んだで、よかったで!」「おもしろかったで!」「途中までがんばったわ」ぐらいの感じでいいので、読書キャンペーン用にどうぞ。
※当方も適当に返事したりしなかったりします。私が読んで不快なコメントは予告なく削除します。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
14 Glück【フィアツェーン グリュック】
隼
キャラ文芸
ドイツ、ベルリンはテンペルホーフ=シェーネベルク区。
『森』を意味する一軒のカフェ。
そこで働くアニエルカ・スピラは、紅茶を愛するトラブルメーカー。
気の合う仲間と、今日も労働に汗を流す。
しかし、そこへ面接希望でやってきた美少女、ユリアーネ・クロイツァーの存在が『森』の行く末を大きく捻じ曲げて行く。
勢い全振りの紅茶談義を、熱いうちに。
冥府の花嫁
七夜かなた
キャラ文芸
杷佳(わか)は、鬼子として虐げられていた。それは彼女が赤い髪を持ち、体に痣があるからだ。彼女の母親は室生家当主の娘として生まれたが、二十歳の時に神隠しにあい、一年後発見された時には行方不明の間の記憶を失くし、身籠っていた。それが杷佳だった。そして彼女は杷佳を生んですぐに亡くなった。祖父が生きている間は可愛がられていたが、祖父が亡くなり叔父が当主になったときから、彼女は納屋に押し込められ、使用人扱いされている。
そんな時、彼女に北辰家当主の息子との縁談が持ち上がった。
自分を嫌っている叔父が、良い縁談を持ってくるとは思わなかったが、従うしかなく、破格の結納金で彼女は北辰家に嫁いだ。
しかし婚姻相手の柊椰(とうや)には、ある秘密があった。
恋愛が運命を決めないとしたら平和かもしれない
三谷朱花
キャラ文芸
茜はある本を読みたいと思ったことをきっかけに前世の記憶が戻ってきて、この世界が茜の知っている前世の世界とは違うことに気付く。この世界は、恋愛の概念がない世界で、「好き」も「不倫」も「略奪愛」も存在しえない。だからその本も存在しない。前世の記憶を思い出したことから茜の平穏だった生活に変化も出てきて、茜の思わぬ方向に…。そんな中でもその本を読みたい茜と、周りの個性的な人々が織りなすお話。
※アルファポリスのみの公開です。
※毎日大体夜10時頃に公開します。早かったり遅かったりしますが、毎日します。
帝国海軍の猫大佐
鏡野ゆう
キャラ文芸
護衛艦みむろに乗艦している教育訓練中の波多野海士長。立派な護衛艦航海士となるべく邁進する彼のもとに、なにやら不思議な神様(?)がやってきたようです。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
※第5回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます※
TAKAMURA 小野篁伝
大隅 スミヲ
キャラ文芸
《あらすじ》
時は平安時代初期。小野篁という若者がいた。身長は六尺二寸(約188センチ)と偉丈夫であり、武芸に優れていた。十五歳から二十歳までの間は、父に従い陸奥国で過ごした。当時の陸奥は蝦夷との最前線であり、絶えず武力衝突が起きていた地である。そんな環境の中で篁は武芸の腕を磨いていった。二十歳となった時、篁は平安京へと戻った。文章生となり勉学に励み、二年で弾正台の下級役人である少忠に就いた。
篁は武芸や教養が優れているだけではなかった。人には見えぬモノ、あやかしの存在を視ることができたのだ。
ある晩、女に救いを求められる。羅生門に住み着いた鬼を追い払ってほしいというのだ。篁はその願いを引き受け、その鬼を退治する。
鬼退治を依頼してきた女――花――は礼をしたいと、ある場所へ篁を案内する。六道辻にある寺院。その境内にある井戸の中へと篁を導き、冥府へと案内する。花の主は冥府の王である閻魔大王だった。花は閻魔の眷属だった。閻魔は篁に礼をしたいといい、酒をご馳走する。
その後も、篁はあやかしや物怪騒動に巻き込まれていき、契りを結んだ羅城門の鬼――ラジョウ――と共に平安京にはびこる魑魅魍魎たちを退治する。
陰陽師との共闘、公家の娘との恋、鬼切の太刀を振るい強敵たちと戦っていく。百鬼夜行に生霊、狗神といった、あやかし、物怪たちも登場し、平安京で暴れまわる。
そして、小野家と因縁のある《両面宿儺》の封印が解かれる。
篁と弟の千株は攫われた妹を救うために、両面宿儺討伐へと向かい、死闘を繰り広げる。
鈴鹿山に住み着く《大嶽丸》、そして謎の美女《鈴鹿御前》が登場し、篁はピンチに陥る。ラジョウと力を合わせ大嶽丸たちを退治した篁は冥府へと導かれる。
冥府では異変が起きていた。冥府に現れた謎の陰陽師によって、冥府各地で反乱が発生したのだ。その反乱を鎮圧するべく、閻魔大王は篁にある依頼をする。
死闘の末、反乱軍を鎮圧した篁たち。冥府の平和は篁たちの活躍によって保たれたのだった。
史実をベースとした平安ダークファンタジー小説、ここにあり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる