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神誓いの儀式

1☆素の威津那

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 威津那はお目見えする数日間ずっと、そわそわしていた。
 仕事に身が入らないほどの落ち着きのなさだった。
 それどころではなく、身のうちに潜む瘴気が滲み出るほどだった。
「陛下の前で気絶するのは最大の不敬だからそれだけはやめておいた方がいい。晴綛さまはめんどくさがり屋でもあるからちょうどいいとか言うけどさ……」
  高良は陰陽寮長の命令に逆らうようなので遠慮がちに助言する。
「だよね!だよね!気をつけるよ!高良くんはわかってるよね!」
 的確な助言をくれる年下の高良が心強く感じてしまうほど混乱しているようだ。

 邪気が混乱して陰陽寮をうろうろしているのはやはり支障が出て、邪魔なので、落ち着かせるための更なる浄化のために香茂家の軟禁室にお世話になった。
 さらに陛下にお目見えする前までに身も清く保てとの陰陽寮長の命令だ。



 威津那は香茂家に何度もお世話になっているので、香茂家の人たちともいつの間にか仲良くなっていた。
 威津那の元来の性格は、子供っぽく純粋な優しいお兄さんなので、高良の弟たちになつかれている。
 ご飯まで仲良く一緒に食べるほどだ。その後は幼い弟たちのおもちゃにされる。
 そんな威津那を当主の高良の母、牡丹ぼたんは微笑ましく思う。
 それほどまでに警戒心も薄れていた。
 闇を抱えるのに、だいぶ浄化されて素の威津那になったと叔父の晴綛に報告を逐一入れる。
 威津那も自らが清い魂になっていると実感するほどになった。
(橘に出会った初期のような、色々策謀考えてたのが消えて、陛下とお目見えの事しか考え…られなくなってる)

 それに増して、
「ドキドキワクワク、ちょっと怖い…これが女の子が処女を捧げる感じかな……」
 高良は意地悪く笑って威津那がふと思った事を口に出して言ってやった。
「口に出して言わないでくれるかい……恥ずかしすぎ……」
 威津那は真っ赤になって顔を手で覆ってしゃがむ。
 高良はそんな威津那をいじめて満足して、フッと鼻で笑った。
 今夜は香茂の合同毎月の夕食会の日だった。
 さらに、紺太もお邪魔して大勢の食事会だ。
 晴綛は残念ながら宿直で食事会に来れなかった。
 三姉妹は母と従姉妹の牡丹と楽しく料理の手伝いをしている。
 橘はゲテモノ料理にされてしまうというので追い出されて威津那と久々にイチャイチャしようとワクワクしていた。
 だが、なんだかんだと楽しそうな威津那を見たらムスーっと不機嫌になってしまった。

「結構楽しんじゃって……私のこともう頭に入ってないんじゃないの?」
 威津那は子供たちに絡まれて適当に遊んでいる姿は楽しそうだった。
「そ、そんなことないよ、橘のことも毎日想ってるよ、だけど、陛下にお目見えするんだよ!」
 陰陽寮に瘴気を放っていた頃と緊張感は変わらないようだ。
「緊張しちゃって……死にそう…」
パタリと死んだふりをして、頬を子供たちにつつかれる。
「どんだけなのよ!もう!」
 橘は威津那の緊張強いに呆れたが、
「まぁ、私もお目見えしたら…威津那と同じことになっちゃうかも。」
 橘も、陛下に直接お会いしたことはない。
 だから、威津那の立場になって想像すれば威津那の今の気持ちを共感することはできるが……意地悪言いたくなる。
「むしろ、陛下を籠絡しちゃうかもっ!」
「だめだ!それだけは…!」
 威津那はガバリと死んだふりから立ち上がり、橘の肩を掴み、見つめ合う。
 しかも赤い瞳で……
 そんな未来は一瞬たりとも見えなかったが、菊が見せた未来を思う。
(あれは橘じゃなかったとしても…不敬すぎる。)
 胸に痛みがよぎる不吉な未来。
 黒御足家の血筋のものは未来さえ変えることができる。
 どのように変えることができるかはその時が来なくてはわからないというが……
「君が陛下を籠絡させないために、君を神使いにするために神誓いもするよ!」
 と橘の両手をぎゅっとにぎり真剣に告げる。
「そして、誰にも橘を触れさせないようにしちゃうんだ……」
 威津那は途中で恥ずかしくなって声が小さくなり顔が真っ赤になる。
「うふふ、やっと私のこと考えてくれた。それだけでも満足よ」
 橘はそういって、親戚たちが見ている前で軽く口付けた。
 相思相愛の恋人の二人は二人きりの世界に入った。
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