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高良と紺太

3☆高良と紺太の些細な喧嘩

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「あやかしの四神に会うには、異界を通らないといけないんだ。」
 高良は紺太が開いた異界の道を通る。
 洞穴のような道で紺太の狐火が高良と紺太を守るように、丸く明るく照らすが、前も後ろも真っ暗だ。
 きっと、暗闇に飲まれたら一生現世に帰れないと高良は直感する。
「それに近道だし、遠回りしなくていいんだよね。タヌさん」
 紺太は上機嫌で、頭の上に乗る狸に話しかける。
 タヌさんと呼ばれた狸もコクコク頷く。
 西の森に狸が住む自然がありその中の長がタヌさんだった。
 紺太によく懐いた狸で頭の上や肩の方に回って襟巻きになったりして飼い主にベタベタな狸のように見える。
(よく懐いている以外普通の狸にしか見えない……)
「さらに今日は新月だから会合の日なんだよ。一気に勾玉もらえるようにお願いできるかも♪」
「そんな簡単にもらえるものなのか?」
 高良は疑いの瞳で紺太を見る。
「高良がお願いしてくれたら叶うかも~?」
 高良は紺太とは逆に機嫌が悪い。
 それは紺太が本気に感じられないし、途中で思考を読まれないように何故か自らに術をかけたことが高良は正直気に食わない。
「ほんとに、その狸と結ばれたいのか?」
 疑うことばかり問うてしまう。
「うん!運命の相手なんだって。運命の恋には逆らえないよね……」
 まだ不審な目で見る高良に紺太もムゥ……としてくる。
 二人の共通点はプライドが結構高い…
「ばーちゃんみたいだけど、タヌさんは面倒見良くて、おかあさんみたいに、やさしい狸だよ。」
 といって顔を赤らめて、
「……優しさに惚れたんだ……」
 と小さく言って照れる。
 その様子は本気で純粋な恋した少年だ。
「橘みたいに子供じゃないし、咲羅子みたいに、高飛車じゃないし、達観したお母さん…って感じ」
「そんなにお母さん系か好きなのか?」
 お母さんが好きというのは恋愛対象に入るのだろうか?と高良は冷静に思う。
 狸に化かされてるだけではと……
「僕も戦争で両親と生き別れたじゃん。母さんみたいな包み込むような優しい達観した人が好きなんだ。」
「ひと…」
 高良は、そういって、「ふっ」と、無意識で鼻で笑ってしまった。
 まずい…と思って高良は口を塞ぐ。
「……もう、そういう何もかも信じられないと言う現実主義な所は陰陽寮長になるのに失格になるよ!」
 紺太は高良に指差して怒る。
 高良はその指をバシッと叩き落として、
「陰陽道は基本統計学だ。現実の要素も必要なんだよ!」
 高良は感情的になって言い返した。
 いつもは澄まして冷静を保つことを旨としている高良は何かのキレ要素に触れられるとカッと怒り出す。
「「うーーーっ!」」
 二人はいがみ合う。
 同い年で正反対の性格だが遠慮がいらない分、喧嘩になってしまうのだ。
 それは今回だけのことではないのだが、喧嘩して異界から迷子にさせられては困ると高良は冷静になろうと、気をなんとか落ち着かせようとすると、タヌさんが高良の肩に飛び登ってほっぺたに頭を寄せてきた。
「ん…」
 まるで喧嘩はダメだと言ってるようだ。
 すりすりすりすりすりすりすりしつこくて、
「わかったよ!喧嘩は終わり!
 タヌさんはとても優しくて大人だよ……ほんとに………」
 そういうと、タヌさんは高良の頬にぺろっと舐めて紺太の方に巻きつく。
「浮気はダメだよ。浮気は…もう。」
 そう言って紺太は高良の手をぎゅっと取って、
「僕の手を離しちゃダメだからね。」
 冷静を装う高良より紺太の方が態度が余裕で幾分大人だと思ってムキになる自分が馬鹿みたいに思え冷静を取り戻す。
「ああ…」
 二人は手をさらに、ぎゅっとに握って異界を歩く。
「………タヌさんが人間になったら素敵な人間に化けるかもな……」
「うん。だから高良が四神たちにお願いしにいく目的忘れちゃダメだよ。」
「うん…絶対人間にしてやるよ…」
 まだ素直な少年たちにタヌさんは微笑むのだった。
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