あやかしと神様の昔語り

花咲蝶ちょ

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高良と紺太

1☆狐と狸の恋愛事情

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「狐のお前が狸と恋愛してんのか⁉︎」
 いつも冷静を装う高良は細い目を見開いてびっくりする。
「僕は単なる狐じゃない!半妖だっ!それにウカノミタマの孫だぞ!」
 高良の口の悪さに紺太はむすっとして言い返した。
「それは……そうだけど…どうやって恋愛してんだ?タヌさんも半妖ってことなのか?」
 それならば納得するが……納得がいかない。
 タヌさんというタヌキには一度紺太に紹介してもらったことはあるが……人懐っこい普通の狸だった。
「そうなんだ……タヌさんは人間になれないから…後尾ができないんだよ」
 紺太は当然のことのように残念がる。
「それ……獣犯せる罪だぞ……」
 殺生のことを犯すことだが、そういう意味も含まれて禁忌にされている大祓の祝詞の文言だ。
「何のために獣が人間の姿に変身すると思ってんの?」
 親友の高良に禁断の恋を諌められた感じがして不機嫌にいう。
「それは種族同士の愛を乗り越えるために存在するんだよ!ばーちゃんがいつも言ってた!」
 だからこそ、半妖の紺太が生まれたのは納得いくが……
「狸と狐だろ…片方人間ってわけじゃない……」
「僕は人間の血の方が濃いの!だから狐の獣姿になれないの。獣姿だったら今頃新種の子供ができてるって!」
「人間でよかったな」
 高良は本心ですかさずいう。
「で、タヌさんも人間になれる力持ってたんだけど……」
「持ってたのか……」
 普通の狸そうだったが…
「前の陛下をたぶらかそうとして、力をふういんされちゃったんだって。」
「へぇ。」
 高良は適当に相槌を打つ。
 とんでもない昔話を聞かされて反応に困る。
 その逆に紺太は、熱弁に語る。
「その力を取り戻すにはタヌさんの力を預かった勾玉を四神から貰わなきゃいけないんだって!」
「タヌさんはどんだけ力持ったあやかしなんだ?」
 力を封印されるほど強いあやかしとは想像つかなかった。
「陰陽寮長から僕も勾玉もらってるんだけどね。」
 紺太は証拠を示すように胸元をあさって、紐をつけて首にかけていた手のひらサイズの勾玉を高良に見せる。
 それは黄色い絵の具で塗ったような勾玉だった。
 黄色は西を意味するためだろう。
「これをすべて、あやかしの四神から譲ってもらえればタヌさんは大狸として力を得て人の姿にだってなれるんだって!」
 紺太は瞳をキラキラさせる。
「そのためにはタヌさんの力を封じた者の孫の力が必要なんだ!」
 それは、二十代で亡くなった祖母のことだろう。
 宮中で、仕事をしていたとは聞いてはいたが大狸の力を封じるほどの力を持っていたとは……信じられない。
 狸は人をばかす……紺太は化かされているのではないかと高良は疑う。
「陰陽寮長、この話は本当ですか?」
 高良の祖母は…陰陽寮長、晴綛の妹だ。
「まぁ、そんなこともあったの。その名残で勾玉を紺太に渡したのだが……」
 晴綛は紺太の勾玉を見て懐かしそうな顔をして微笑んだ。
「じゃ、本当のことなんですね!」
 高良はやっと紺太のように瞳を輝かせた。
 歳若く亡くなった祖母の思い出がこんな形で残っているのは感動で、母や兄弟たちに教えてあげたいとも思った。
「で、高良…手伝ってくれる?」
 紺太は懇願するように高良の手をぎゅっと握ってうるうる目で耳をひしゃげてかわいこぶりっ子する。
「その甘え方、大人の女にしか通用しないぞ」
 高良はため息を吐いて、紺太の頭をポンポンする。
 通用しないと言いながら長男らしく甘えられることに弱い。
 紺太はその事を知っているからこそやるのだし。人を騙す狐らしさだ。
 晴綛は、ふふっと微笑んで二人の肩を同時に叩く。
「ま。面白そうだし、将来の陰陽寮長としてあやかしの四神めくりをしてこい。」
「いいんですか?四神は陰陽寮長の管理下で門外不出ですよね?」
「なぁに、将来は高良が、陰陽寮長になるのだ。今から宮中を守るあやかしのことを知るのもよかろうよ。」
 晴綛は将来の陰陽寮長の高良に出来るだけの事を教え残していきたいと期待をしている。
 まるでもう一人の父のようであり憧れの存在だ。
「は、はい。がんばります。」
 高良は期待されて緊張する。
「本来西を守る菊ですら、あまり表に出てこない存在だ。他の四神も似たような者でワシの許可なしに他の代理を立てていることがあるからの確かめに行ってこい。」
 あやかしの四神を管轄していると言っても、緩い縛りのようで、信頼している証拠だと高良は思った。
「許可も出たことだし行こう!今夜は橘も咲羅子もいないし、余計な邪魔はついてこないよ」
 今夜は橘は物忌で咲羅子の家に遊びに行って一日帰ってこない予定のようだ。
 威津那は橘に色仕掛けされて……というか、裸を見てしまって気絶中…面倒くさいからそのまま朝まで寝かせておけとの陰陽寮長の命令だ。
「威津那よりも強い力と知識を手に入れる好機じゃて、楽しんでこい。」
 陰陽寮長は心良く見送ってくれた。
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