あやかしと神様の昔語り

花咲蝶ちょ

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九尾の狐の菊の陰謀

18☆未来の不安

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「菊」
 殿下は、語気を強めて呼ぶ。
「約束は約束だよね?菊…みんなにかけた催眠をちゃんと、解いてくれるよね?」
 菊は怯むと同時に、後の皇の覇気を感じて満足気でもある。
 それは菊以外も感じた。
 いつもは温厚で優しい殿下のお言葉は誰もが断ることのできない普通の人間にはない特別なものだった。

「残念ですが…そういたしまする…」
 透明な菊はさらに空に上がると宮中を一周りして尻尾から描かれた天の川キラキラと輝くき、その星は宮中に落ちて人々の催眠を解いた。
 一回りして殿下の前に頭を下げると殿下はよくやったと優しく頭を撫でる。
 菊はそのことに満足気だ。
 そして、《ふぁぁああっ》と欠伸をする。
《我はもう少しだけ眠る。》
 やはり寝るらしい。
《西の守りは抜け目のないものがなったからの…》
 仕事は紺太がしっかりしてくれると思うから安心と思ったようだ。
《カラスの一族よ、我が半身を悲しませるなよ……》
 威津那のことはやはり信頼できないようだ。
「威津那がいればかなしいことなんてないもん。」
 橘は心外だというようにプンプンわざと怒る。
 菊は金の瞳を威津那と同じ赤く光らせる。
 菊も未来を見るようだ。
《….橘、いやその子孫も、お前が一度死ぬとき、われは目覚め、お前と一つになりて命を長らえさせることになる……》
「そんなことは絶対にさせない!」
 威津那は橘の肩を強く抱きしめキッと菊を睨む。
「威津那……」
 その力強さに橘はドキドキしてしまう。それは絶対に守ってくれるという誓いだからだ。
 菊はふん…と、悲し気に鼻で笑い、
《そんな日が来ないことを望むのならば『菊の名』として我をいつか血族…半身が后妃になることを望む恋する白狐のままでいさせよ……》
 菊は祈るように切な気に告げ、一息つくと、声色を低く変える。

《でなければ……九尾になり日和を滅ぼす…… 》
 本気の妖怪じみた言霊はその場にいるものを震え上がらせた。
 それは予言じみていてゾクッとする。
 菊は赤い瞳を合わせると威津那の赤い瞳が共鳴する。
「うっ!」
 威津那は瞳を抑える。

 赤い瞳に九尾の狐が日和を破壊しようとしているのが見えた……

この未来は……運命ではなく

変えられぬ宿命……

 橘はそばにいない……
 その絶望の苦しみを抱いている感覚に襲われる。

 未来を見る時、夢のように俯瞰してその場を見る。

 橘そっくりな白狐の九尾の尻尾を生やした娘が年老いた殿下を籠絡しているのが見える……
 
(それを操るのは……僕……?)

遠い未来か……それとも……

「威津那、威津那!しっかりして!」
「はっ、橘……」
 思わず橘をぎゅっと抱きしめる。
 心臓がバクバクする。
 橘に触れれば現実だと心が落ち着く……
 けれど息が荒いほど心臓に負担がかかるほどの怖い未来……

 こう、見たくない未来をみてはいけない未来に恐怖が胸を締め付ける。

 最近忘れていた感覚……
 不安と恐怖……

「大丈夫、落ち着いて威津那…」
 橘は威津那をぎゅっと抱きしめる。
「どうしたのよ急に、顔色悪いわよ」
 咲羅子はつい橘と威津那を引き剥がそうとしたときに威津那の顔色が悪いことに心配になる。
「具合悪いなら俺が背負うぞ。」
「威津那、僕の部屋で横になるといいよ。」
「殿下……みんな……お心遣い痛み入ります…」
 みんなの心配する気持ちが痛い…なのに……とても嬉しい……

 自分の未来は…やはり皇を滅ぼすことが見えるのに……

 未来に橘がいないということが最大の原因というのは前々からわかっていた………

 そういう自分にならないために僕は……宿命すらも変えてやる……それしかない……

 黒御足の血族は宿命を変えることができるのだから……

 ぐるぐると心の葛藤と思考で意識を飛ばした。

《お前は、私の力を受け入れるのが…宿命で後々のためなのだ……どんな未来に変わっても……》

 父のいつも言っていた言葉に似ているが、だが神々しく光る神の言葉に聞こえる……

《正式な儀式…我を受け入れるのをたのしみにしておるぞ。》

 神の声はどこか満足気だった。
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