あやかしと神様の昔語り

花咲蝶ちょ

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九尾の狐の菊の陰謀

13☆十年越しの思い人

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 威津那がカラスを使って殿下と同じペンダントを持っている、遠子を召喚する事を早速やってみることにした。
 殿下のペンダントは皇族ならば誰しも持っていると、皇太子殿下は仰った。
 最初のものは遠子にあげてしまったので、新しく作ってもらった特別なものだった。
 純金で作られて精巧なものだった。
 皇族以外で持ってる人を、カラスが加えて陰陽寮の庭に召喚する事に成功する。
 三つ編みおさげの品の良い侍女の遠子がカラスの背中に乗せられて殿下はお手を差し出して遠子を下ろした。
 二人とも瞳をキラキラさせて、かける言葉を見失ってただ見つめ合っていた。
 その二人は今はそっとしておいて、威津那はカラスを首を絞めてペンダントを奪い返した季節を見て首を傾げる。
「隊長?なんでいるんですか?」
「しるか。ペンダントをお前のカラスに取られたから追いかけてきただけだ。」
 そういえば、祈り姫、宝子の子息でその証としてペンダントを持っていた事事を忘れていた。
 季節のようにある事情で身分すらわからない時には役に立つ代物でもあるようだ。
 皇族以外で持っているのは遠子しかいないと思っていたから、まさか季節が釣れる事を考えてはいなかった。
 季節はペンダントを取り返すと首にかけて服の中に隠した。
 誰にも見られたくないし大切なもののようだった。
 その様子を殿下はしかと見ていて何か思い当たる顔をしていたが、人目を感じるといつもの朗らかな表情に戻っていた。
「もう、あんた!橘が殿下のものになっちゃったからって、また宮中に悪さ仕掛けんのやめて諦めなさいよ!」
 カラスを必死に追いかける季節を追って咲羅子もついてきて、威津那の仕業だとわかると鞘から刀を抜く勢いだった。
「殿下の思い人は私じゃないわ!あの二人をよく見てよ!」
 橘は咲羅子から威津那を守るように立ちはだかって殿下と遠子さんを指さす。
「君はあの時の…遠子…だよね…?」
 殿下は頬を赤らめてじっと真剣な眼差しで遠子を見る。
 その熱い視線に応えるように遠子も恥ずかしがっていたのを意を決して見つめる。
「殿下とのお約束を果たすため、また侍女として働かせていただいておりました。
 いつか会える日を信じて……」
 その日がこんな不思議な形で出会えるとは思ってはいなかったけれど、殿下のお優しい凛々しくなられたお姿を間近で見て涙があふれて止まらなくなっていた。
 そんな遠子に戸惑いながらもハンカチで涙を優しく脱ぐって殿下も涙を一筋流した。
 互いに想い続けていた相手に会える幸せは、この場にいるカップルにはよくわかる心境だった。
 二人の想いは縁は本物だと思われて、橘と殿下との婚約など忘れてしまうほど不思議と和むお二人だった。
「変わらず元気でよかった…いや、女性らしく美しくなられたね…」
「そ、そう言ってもらえるのは、殿下だけです…わたし、皆んなから子供っぽいとか、昔と変わらないとか…言われてて……」
「確かに、幼い頃と変わらないような気もするね」
 と、にこにこと微笑まれておっしゃられたら、遠子はしょぼんとした。
 気品はあるけれど表情豊かで、愛嬌があって可愛らしい方だと思う。
「僕が好きな遠子が変わらないでいてくれたから、ぱっと見でも君がいるとわかったんだよ。」
「す、好きって……」
 かぁぁと顔が赤くなる。
「あらためて……僕の妃になってください…」
「えっ!」
 遠子は二つのおさげがうさぎの耳のように飛び跳ねるほど驚く。
「そんな、恐れ多すぎますっっぅ!」
 殿下は振られたかと思って笑顔がかたまる。
「それに、橘さんとご婚約されているんですよね!それなのに突然そんなこと言われても困ります!」
 遠子は不道理だと思って必死に断る。
「不道理な事をして、皇室を貶めてまで殿下に結婚の申し出を簡単に受け入れるほど私、不敬なことできません!恐れ多すぎます!」
 さらに、想像して畏れ多すぎで体を小刻みに震えている。
(そうだった……まだまやかしは解かれていなかった。)
 遠子の様子が哀れになり、
「僕は橘と婚約はしてないよ。」
「で、でも……」
「橘には他に婚約者がいるし…」
 そういって、殿下は橘と威津那を指さす。
 遠子の体の震えを抑えるために包み込んであげたいとお思いになられ、だきしめ、ちょうど耳元で
「僕には君が必要なんだ……ずっと、君のことを忘れられなかった……」
「で、殿下……」
(殿下って…意外とたらしよね…)
 狐耳の橘は素直にそう思ったが口に出さず、頬が緩むニヤニヤが止まらなかった。
 遠子は顔を真っ赤にして、殿下のお気持ちと自分の気持ちが同じ事に感無量で涙をボロボロとあふれさせながら、
「はいっ!こんな私でよければ……ずっと、殿下のおそばでお支えさせてください」
「うん……ありがとう…」
 ぎゅっと抱きしめてさらに大胆なお願いを殿下はする。
「みんなの誤解を解くために、僕の口付けをもらってくれないだろうか……?」
 殿下はチラッと威津那に目くばせする。
 威津那は、それに気づき、橘とタイミングを合わせる。
(殿下は外見に似合わず抜け目がないお方だ)
 と、威津那は感心した。
 正直、何もかも人の言うことを聞く自分の意志もあまり強く出ない方だと勘違いをしていた。
 強かしたただ……
 それほどの方が皇太子、後の祝皇になられるとは一国民として心強く感じた。
「えっ、そんな…今ですか…?」
 遠子は戸惑う。
 再開して間も無くで唇を交わす事になるなんて戸惑わない方が無理というものだ。
「さらに、人前でキスなんて……」
「いやかい……?」
 殿下は悲しそうなお顔をなされると胸が痛い。
「いいえ…光栄でございます…」
 承諾をいただくと、殿下は遠子の唇に軽くキスをした。
 そして、同時に照れる。顔を真っ赤になるが、目の前で同じタイミングでキスをした橘と威津那はディープキスを繰り返していた。
 その事に殿下と遠子さんは呆れて顔をさらに顔を真っ赤にしていたけれど手はしっかりと握っておられた。
「任務完了ってとこかな?」
 紺太はほっと一安心のため息をはいて、それぞれの縁を見る。
 その指には、しっかりと紅い糸賀結ばれていた。
 そして、威津那と橘の縁の薄さは元に戻っていた。

(眠る狐の悪さよりも僕とばーちゃんの作戦勝ちってところかな?)
 無事に縁結びの任務を果たせた紺太はほくそ笑んだ。

 幸せなひと時も束の間だった。

『ウカの血族め!せっかく我が望みを叶える機会をじゃましおって‼︎』
 ヒステリックに叫ぶ響く声は不穏な空気となって、その場をピリピリ威圧を感じさせだのだった。
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