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九尾の狐の菊の陰謀

3☆陰陽の理の治める日和国

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 殿下のお出まし前に、威津那は晴綛に局に呼ばれ、話し相手をさせられた。
「今はまだ『殿下』だから良いものを、陽の力が強過ぎれば、殿下自身も疲弊し、日和も世界も偏りすぎてしまうのだ。」
 陰陽道の理では陽の気は偏りすぎると人を処す。
 陰の気がそばにあれば均等が取れて世が乱れる事はない。
 日和皇族は太陽神の直系子孫だから仕方がないことだが、世の理には雨雲や夜の月が必要なのだ。
 殿下には、傍にその月が必要なのだ。
「世の流れと均衡を取れなくなったらまた戦乱の世になりかねない。」
 陰陽寮長は陰陽の理でものを言うくせがあるが、その理は説得力がある。
「逆に陰の気が多かったら?どうなりますか?」
 殿下が陽の気に偏っているのならば、真逆の陰の性質を持った方が殿下になったらどうなるのだろうと尋ねる。
「死者まで蘇り魑魅魍魎の世界あやかしの世界になり得るな。天岩戸神話がこの世に具現化するだろうよ」
 晴綛は断言してフッと鼻で笑って苦笑した。
「ですよね…やっぱり」
 威津那は神妙な顔になる。
 闇に染まった日和の帝になったのならば、混沌の闇が世の中を支配する。
 それは呪詛をその身に宿す事ができる威津那には想像がつく。
 天岩戸神話は『嘘』だと、『戯言』とかではないということはわかる。
「まだ、陰に偏った帝が治めるならマシだが、皇族が消滅すれば闇夜の世界になる…十年前はほんっと危なかったな……」
 馬鹿な西側諸国は陛下を皇族を亡き者にしようと戦争を仕掛けた。
 陛下の御心、御霊の神気に畏怖した総帥は日和を滅ぼすのをやめたのだ。
 その代わり今現在も日和の文化は破壊されている。
「そういう世界をレッドスパイは…父は望んでいる…?」
 威津那は父が常々言い、自分のような呪詛を作り出すことに精を出していたのはこういうことかとやっと腑に落ちた。
「お前の父は日和を愛していた。
 破壊されるくらいなら自らの手で破壊して戻す…と言っていたな…」
 晴綛は威津那の顔を見てそう言った。
「そうですね…僕にも常々言ってました」
 威津那は父のそういう思想は理想に思っていた。
 そして、妖魔ならぬ皇室に楯突く異能者を集めた部隊の長をしている。
 晴綛や橘のようなあやかし、半妖はいなかったけれど…
「僕もそのような異能者がもっと力を振る世界だったらよかったのに…そういう世界は他国は到底作り得ない本当の事混沌の世界で日和を守りたいと……という気持ちは強くありましたね。あはは……」
 と言って頭を掻く。
 その思いが消えた理由は橘と…陛下が収める平和な日和で過ごしたいから……

 今の世が偽りの平和でもいい…と割り切ってしまった。

 それをレッドスパイは裏切りというのだろう……

 父が作りたかった世界は永久に日和であり続けること…
 日和を守るためならば異能の力やあやかし…特に、九尾の狐を原爆のような力と対にして日和を守る。
 そう言う世界だ。

 ただ、その世界には光ある幸せは無いと思う。
『混沌』というのは『平穏』とは真逆な世界なのだから……

 父の思いは私利私欲ではない純粋で本心だと思う……
 私利私欲というより、己の力に酔って日和の絶望に狂っている。

 黒御足の力は闇を取り込みすぎて狂えばくるうほど、力をます……宿命を変えるほどの力を持つ。
 威津那もだが日和が世界に負けたことが、人々が多く悲しみ絶望の中、死んで逝ったことがとても無念で悔しい思いを皇室に向けていた。

 その事を晴綛に打ち明ける。
「あの時は誰もが一度は闇に心を乱されるだろう…未来の見えるお前の父に陛下を日和を守るために阿倍野殿のあやかしを統べる力を貸せと誘われたが、断ったら逆ギレされたな。」
 煙管をふーっとため息のように吐く。
「まぁ、昔のことだ。わしは十年もかけて平和になった日和を守りたい…それが陛下の望みで人々の望みだ。それでいいと思っておる。」
 晴綛はぶれない。
 父の望みに乗らなかった事は正しかったと確信している。
「僕も今はそう思います。今は平和な世界なのは皆の望みが導いた結果だと思うので…」
 不思議なほどそう思うのだ。
 父の思いに疑いなど持ったことなかったのに……
「お前はもっと先の未来は見えないのか?」
「見えません。」
 と、断言し、苦笑する。
 威津那が見る未来は断片的な事ばかりだ。
 威津那は宿命じゃ無い未来は変わってしまうせいで断片的になると理解して未来を見る瞳を試行錯誤中でもある。
「ただ…僕が見る未来に日和には戦はない……そこまでです」
 もし再び戦禍の時代が来るまでには寿命はないとい事なのだと威津那は思う。
 それならば、橘とともに、変わる日和とともに幸せに暮らす事が大切な望みだと思うのだ。
 だからこそ、祝皇陛下のためにこの力を使い、神誓いなるものをしたいと思う心が決まっていた。
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