あやかしと神様の昔語り

花咲蝶ちょ

文字の大きさ
上 下
81 / 161
ドキドキデートと不穏の影

3☆ドキドキと恐々

しおりを挟む
 もう夕暮れになっていた。
 街灯の明かりがつきはじめている。
 帰宅するときにはきっと真っ暗になっているだろう…
 真っ暗になったら、人目も憚らずカーちゃんに乗って阿倍野屋敷に帰ることができる。
 夜の街を満喫するのも大人の雰囲気で楽しいよと威津那が誘ってくれた。
 英国風のバーに入ってお酒飲むのもオシャレかもしれない。
 橘は映画の中と似たようなデートをしたいと思って、映画が楽しかった事に満足だった。
 人気なのもうなづけて、興奮冷めやらなかった。
 外国人嫌いな威津那も面白かったと言ってくれたことも良かったと思う。
 他にも日和時代劇映画もやっていたし、街を破壊するのを救う映画もやっていて威津那は次これ観に行こうね?と誘ってくれたのも嬉しい、嬉しいづくしだった。

「とても素敵な恋愛映画だったわ。王子さまと一時の恋。憧れちゃうわね」
 うふふっ!と映画の出来事を自分に重ねて言ってみた。
「僕というものがありながら、そんなこと言うの?」
 威津那は少しムッとした顔をして言う。
「あら?ヤキモチ?」
「わざと煽ったの?」
 わざとではないけれど、不服になってくれるのが嬉しい。
「ふふ、どうかしらね。映画観た後だと、皇太子殿下に迫られたら私もドキドキしちゃうかもね。」
 今度はわざと煽った。
 威津那は橘の悪ふざけだとは思うものの何か引っかかるし、本当にそうなってしまっては困る……
 ずっと僕一人を見て欲しいと思うのは男のみっともない嫉妬だ。
 橘が、皇太子殿下と皇后なんてそんな未来ありえないのに……
 人目のない裏路地が近くにあり橘の手を急に引き、引き込んだ。
 そのまま手を優しく取りなおし、映画の王子がやっていたよう手の甲にキスをする。
「な、何を…」
 橘は急な事に戸惑うしドキドキする。
 赤い瞳を煌めかし、凛々しい男らしい態度に胸のドキドキが止まらない。
 幼い頃の想いを思い出す。
「君の心を手に入れられるなら、僕は君のものになるよ……」
 手の甲だけじゃなくて、手を愛おしく握り指先にキスをする。
 威津那の唇の柔らかさにドキッとさらに高鳴る。
 キスをしたのは一度だけ……あれからしてないし、感覚に敏感な手に唇を寄せられるなんて思ってもみなかった。
 さらに、愛撫をするようになんども唇を寄せて、頬を愛おしげに擦り寄せられる。
 橘が耐えられなくなるまで……
「や、は、恥ずかしいわ……」
 橘は顔を思いっきり赤くしている。
 手を、思う存分何故られキスされるのがこんなに愛おしさと恥ずかしさを感じるなんて、考えてもなかったというより、正直忘れてた……近すぎて…
「フッ。やっと、橘から照れたね。」
 威津那は満足といった顔をした。
 少し悪戯ぽい雰囲気もある。
 してやったりといった子供みたいだ。
「だ、だって…」
(威津那が色っぽいから……)
 と、言葉に出なかった。
「最近、恋人としてじゃ無くて、家族として見られてるようで…橘の恋のドキドキ無くしちゃったのかと思ったよ…」
「そ、そんなことないもん…」
 でも、再開した時のようなドキドキは、なかなかなかった気がする。
 自分をさらけすぎて恥ずかしいという気持ちが無かったのは否めない。
「僕だけが橘にいつもドキドキさせられていると思ってたから……」
 キスされたり、胸触らされたり、この間は乳房見ちゃったり…肉体的にドキドキでいっぱいすぎる……
「そ、そんなことないわよ。わ、私だって照れ隠しするんだから……」
 と、反論する。
「そうなの?」
 威津那は全くそんなそぶりを橘はしてないと思い首を傾げる。
「…威津那は照れ屋だし…早く威津那には家族に馴染んで欲しかったの」
 だけど、威津那は家族にすんなり馴染んで、陰陽寮にも馴染んで、いつのまにか人と仲良くなる素質があった。
「それに、それにっ!」
 橘は、だんだん力を込めて真剣に
「正々堂々と男女の夜の営みを致したい!」
 と、切実な想いを一息で言霊に出して告白した。
「それ、女の子が言う言葉じゃないから……」
 威津那は一瞬ドン引きしたけれど、色考えて顔を赤くする。
 橘は、恥ずかしさがやはりちょっと飛んでると思う。
 橘はそういうことをいろいろ知っていると察すると複雑で疑問に思う。
「………そう言う知識って、どこからもらってるの?」
「耳に入ってくるのよ!色々!実際見てないけど!大体わかるじゃない!」
 橘は恥ずかしさのあまり声が大きくなっていう。
 本当は処女じゃないと思われるのはとても心外だ!
「そ、そうだよね…」
「昼なら人の耳だけど、夜は宮中じゃないと眠れないのよ、家で父様いると母様とイチャイチャして…悪くはないけど……」
 橘は難しい顔した。
「本当の耳年増…なんだね」
 いや、狐耳の地獄耳でもあるけど。
「うう……」
 橘はとんでもないことを暴露して顔を赤くする。
 恥ずかしいしことだけど、憧れもあって年頃で複雑な想いをずっと持っていたようだ。
 威津那は今は狐耳じゃない橘の耳をそっと触れて、唇をよせて、キスをした。
 そして、そっと囁くように、
「じゃ…今夜結ばれちゃう……内緒だったらバレないかもよ……」
 これはわざと橘もっと、顔が赤くなるように囁く。
 本気でそういうことをしようと思ってないから言える軽口……だ。

 そんな自分の性格は曲がってると思うが、橘の反応が楽しくて仕方がないのが正直のところだ。
 姑獲鳥の事件の時は最後照れが増して、大失敗したけれど、今は照れなど無いから本心で自然に言える……
(あと一言誘えば橘は今夜僕のものになってくれるのだろうか?)
 と、もう一言囁こうとしたら、橘の耳が興奮限界で、狐耳じゃになる。
「あっ!狐耳になるのもう少し先なのに!恥ずかしさ限界で狐耳になっちゃったじゃない!」
「あはは、ごめんごめん」
 二人とも照れ隠しだ。
 もっとも、そういうことを致すためには事前の準備が欲しいと思う……
 屋敷で結ばれたら晴綛に小指の糸切られるし、やはりある程度実績を積まなくてはいけないと本来真面目な威津那は理性的に冷静になる。
「もっ、もー!これじゃ最後のバーにはいけなくなったゃったわね……」
 しゅんと耳を伏せる狐耳はやはり可愛い。
「じゃ、そこの店でスカーフ買ってくるよ。それで耳を隠せば大丈夫だよ。今流行しているしね。」
 女スパイ記者がそんな格好をしていたために何故か日和の若い子にはやってしまった。
「うん、お願い」
 橘はこのまま裏路地で待っている事にした。
『大切な女狐を、一人にするなんて威津那はやっぱ抜けてるな……』
 橘は声をした背後を振り向くと狐の面を被った数人の男たちがいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

【完結】イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』

あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾! もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります! ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。 稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。 もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。 今作の主人公は「夏子」? 淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。 ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる! 古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。 もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦! アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください! では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

あさきゆめみし

八神真哉
歴史・時代
山賊に襲われた、わけありの美貌の姫君。 それを助ける正体不明の若き男。 その法力に敵う者なしと謳われる、鬼の法師、酒呑童子。 三者が交わるとき、封印された過去と十種神宝が蘇る。 毎週金曜日更新

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。 (お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです) その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。 (その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性) 物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

処理中です...