あやかしと神様の昔語り

ドキドキデートと不穏の影

1☆お給料日

　十月末。
　給料日を迎えて、陰陽寮職員は浮き立つ。
　お給料が普通にいただけるようになったことを晴綛はしみじみと良い時代に戻ったと感じる。
　お給金が無かったことに妻子供に迷惑かけたことをいつも思い出す。
　日和は貧乏になってしまってみんながみんな必死だったので文句を言うものはいなかった。
　旧家の陰陽師はなんとか蓄えがあったから無償でなんとか宮中を支え仕事を頑張れたが、晴綛が拾ってきた能力者は食うに困るものたちだった。
　家も家族も失ったものもいる。
　そのものたちを囲いひたすらに陰陽寮で仕事をさせて、皇族から外されたといえど、中務の任を任されている卿に支払われる宮廷費から陰陽寮職員にお給料が振舞われる仕組みである。
　中務の宮は神職と住職も兼ねている特殊な皇族がつく職名でもあった。
　神仏が知らせる占術を精査して陛下にお伝えする重要な役職で、陰陽寮や陵墓の管理もする。
　日和は今日に至るまで役職と宮名が皇太子以外生涯変わらないのだ。
　中務卿のとなりで、晴綛は腰に手を当てて、
「ちゃんと貯金して宮中から出られるようにするんだぞ」
　まるでシャバに出るために頑張れと言うような警察の看守みたいなことを晴綛入って励ました。
「はいっ！」
　職員にとってはとても懐があったかくなる日だった。

「お給料貰ったらお買い物行きたいわよね！」
　橘も、お給料をもらえてとても嬉しい。
「そうだね、僕はカメラが欲いんだよね。この間のは壊れちゃったから…」
　と、威津那は残念な顔をする。
「いや、威津那殿が壊したんだろが…」
　壊す現場を見ていた高良はすかさず訂正した。
「まぁ、新しいカメラが買えると思うと嬉しいよね。」
「威津那はカメラが好きなの？」
　意外な威津那の趣味趣向を知れて橘は嬉しい。

「うん。カメラ買って橘をたくさん取りたい」
　と、いって、カメラを撮るような仕草を指でする。
　カメラを買う最初の理由が自分であることに橘は頬を染めて、
「嬉しい！ぜひとって欲しいわ！」
「あと、カメラで職員にみんなで記念写真も撮りたいよね。陰陽寮長はカラー写真にできるような解像できそうだよね」
　照れ隠しなのか、みんなもカメラに写したいとか言い出して橘は少し不服だ。
「もう、カメラのことしか頭がないね」
　と、ぷーっとわざと頬を膨らませて怒るが、その表情もすぐにやめて、ワクワク気分で威津那に詰め寄る。
「私もお洋服欲しいわ…！と言うか映画も観たい！カメラも買いに行くのも全部しましょう！」
「じゃ、デートついでに行こうよ。」
「うん！」
　瞳をキラキラ輝かせてデートの楽しみで胸いっぱいの二人だった。
（馬鹿ップル…）
　と高良は呆れて見る。
「外出は二人が凶の日じゃないと宮中でられないぞ。」
　凶の日は宮中にもいてはいけないのだ。
　家がない場合は、陰陽寮長が祝詞を唱えるか、鬼女将がいる霊力高まる温泉宿にご招待だ。
「何かのトラブルに巻き込まれること高いから休みを先に入れておいた方がいいとおもうぞ？」
　どうせデートするなら良い日がいいと思って気を使ったのだが、
「そんな、障害に負けてたらこの先結婚できないわっ！」
　早く買い物デートしたい橘には余計なお世話だった。
　橘の言葉や態度は陰陽師としてあるまじき発言だと思うと腹が立つ高良だ。
「あー…はいはい…勝手に危険地帯に行って地雷でも踏んでこい…」
　不吉な意地悪を言ってやった。
　凶の日、さらに凶方位に行けば何があると考えるのは陰陽師としての基本だが……橘には無いと思うと不服だ。
「高良くんって呪詛の才能ありそだよね」
「威津那殿に言われたら陰陽師としておしまいだな」
　ふんっと腕を組んで不服そうだった。

「デートもいいけど、今最近狂犬病流行ってるんだって、凶方位行って感染したら大変じゃないの？」
　紺太も会話に混ざって不吉なことをいう。
「そうだな、大変だから、オレたちは良い運気を占ってから休み取ろうな」
　と二人はわざと意地悪を言う、根性悪い中学生だ。
「なぁ、高良、僕、ばーちゃんにプレゼント買いに行きたい。付き合ってくれる？」
　高良はもちろんだといい、早速吉方位を調べる。
「橘も気をつけなきゃね、狐は犬科でもあるから怖いよね。威津那も感染しちゃって最悪なことになったら瑞兆生まれないんだから、気をつけてね」
　紺太は本当に心配しているようだ。
「ありがとう。でも、半妖には人一倍の免疫力あるから気にすることないわよ。」
「だよねー！」
　半妖の二人は、
「あはは！半妖って最強だよね！」っと笑った。
　その様子を見た、人間の威津那と高良は、
「あやかしって闇の眷属でもあるのに前向きで明るいよね…」
「オレもそう思う」
　と、呆れながら、陰陽の不思議を思うのだった。