あやかしと神様の昔語り

桜庭の姫の婚約者を召喚してみる大魔法

6☆策士の威津那？

　陰陽寮長の休日、阿倍野屋敷にて、晴綛、威津那、橘、咲羅子、流花、高良に紺太も呼んだ。
　阿部野家と香茂家に行き来する眼鏡橋が密かに設置されている。
　古都に住んでいた時、橋の下に異界につながる道があった。
　その橋の象徴をこの橋に映した事を婿候補の威津那に教える。
　同じイメージがあれば同じ呪術がかかるものらしい。
　香茂家の方に高良は祭壇を作り、反対側に晴綛が祭壇を作り清める。
　橋の神に祝詞を奏上する。
「陰陽師って、占いだけじゃないんだね」
　威津那は本格的な神道の祓いを見て感心をする。
「余計な邪気が占いを違わせないための清めでもあるのよ」
　と、流花は教えてくれた。
「むしろ…その邪気を僕は吸収して力に変えたいですけどね」
「威津那は邪気を常に力の糧にしているの？」
　橘は首を傾げながら呪詛を体の中に入れるのを見た事を思い出す。
　あれはすごい出来事だったので忘れられない。
　生死を分けるような危機感半端なかった。
「そうだね…邪気や念を黒御足家のものは入れることも修行をすればできるんだよ」
「ふふ、レッドスパイに身を置く前は、陛下に降りかかる闇を黒御足家は代わりに吸い取るから陛下はいつも清くいられたのですよ」
　流花は黒御足家の本来の役目を威津那に微笑み教えた。

　呪術や邪法にはもっと残酷な残忍な方法もあるが、黒御足家はもと宮中の御庭番的な存在でもあったために邪気や邪念のみでも力を蓄えることができるのもその所以だそうだ。
　流花は夫の晴綛から聞いたことですけどねと付け加える。
「そうなのですか？知らなかった……」
　黒御足家が宮中で重要な役目を担っていた事を頑なに父は教えなかった。
　それほど皇室に絶望していたのだろうか？
「陛下のそばにいるだけで陛下をお守りできるすごい家系なのね。」
「そうだね。宮中に穢れた僕がいる事は必然でもあるのかな？」
　流花から黒御足のことを聞き宮中の陰陽寮に住まわせてもらっていることに罪悪感があった気持ちが和らいだ。
「で……どうしてぼくが必要なの？」
　紺太は威津那に無理矢理連れてこられて疑問だ。
「君、縁結びできる？」と言われて
「ウカノミタマの化身の孫にできないわけないじゃないか！」
　と反射的に答えてしまった。
「僕は縁結びと縁がある狐を持ってないからね、君に頼みたいんだ。桜庭の姫と季節さんの縁は強い絆ならば、縁結びを願う引き寄せに使えるよね。いるだけでも」
「ちゃんと縁をひきあわせてみせるよ！馬鹿にすんな！」
「私たちはどうしたらいいの？」
「女性三人は、祈りの念が男よりも強いから帰ってくる事を願っていてください。」
「それは、いいわね。高良君に恐れ多くも、式神で宝子さまに手紙を送ってもらったの…きっとあの方の祈りも強い念になるはずよ」
　流花はほほ笑む。
　ずっと、彼女は心配していた事を知っている。
「それは、いい作戦ですね」
　橘は威津那の行動力に驚く。
「威津那って、指揮命令得意なのね。すごいかっこいい。」
　普段のほほんとしているのに、呪術に関することだと直感的に動くのは単独の時だけかと思ったが、大呪術を行うにも的確に配置して準備して今に至っている無意識の計画性がすごいと思った。
「人のために一生懸命の時の威津那さんってすっごく輝いてるわ…」
　橘は威津那の意外性にさらに惚れてしまう。
（ほんとは僕たちの為でもあるんだけどね……）
　とは言わず、
「他人のために進んでやる事って楽しいって改めて知ったよ」
　もう一つの本心を言って誤魔化した。
「人の祈りの念を利用して呼び戻すなんて、祈祷みたいね」
　と流花は言う。
　巫女だったので祈祷ならば元巫女として真剣にやらねば、宝子さまの分の祈りも乗せてと、意気込む。
「この呪術って、黒御足家の呪術なの？」
「そんなことないよ、単なる思いつきだよ」
「えっ……？」
　一気にみんなを不安に陥れた事は言うまでもない。
　むしろそのせいで祈りより成功する事を必死に念じる力も増したのだった。