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桜庭の姫の婚約者を召喚してみる大魔法

5☆季節の秘密

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「……というわけで、季節さんの体の一部とかもってない?」
「なにそれ、怖いんだけど」
 という表現にドン引きしただけで、実は肌身離さず持っていた。
 陰陽寮の中庭で威津那は咲羅子にことの経緯を説明した。
「行く前に互いの髪の毛を交換したの。無事に帰ってくる約束のおまじないで……」
 十年前は必死だった。
 まだ子供だった咲羅子の精一杯だった。
 婚約者で互いに好きだと言っても当時は大人と子供、どうにもならない。
 せめて、何かで繋がっていたかった。
「髪の毛を切り、ロケットペンダントの中に互いの髪を入れてあるの。あと、写真も切り抜いて……」
 威津那は丁寧にペンダントと髪を扱う。
 写真を見れば先見でみた男に似ている。写真は若かったが……
 咲羅子は召喚する事なんてまさかとは思うけれど、期待もしてしまう。
「どうか、季節を連れ戻してください。お願いします。」
 咲羅子は深々と頭を下げる。
 嫌いな威津那に対して頭を下げるほど季節の無事の帰りを待っている。
(たとえ、死んでいたとしても、心、魂だけでも私の元に帰って来て欲しい……)
 と言う、切実な思いを威津那はしっかりと受け取った。
 その様子を見ていた橘は満面の笑みだ。
「きっと、成功するわよ。みんな待ち侘びてるんだし、なんて言っても季節さんは祈り姫の御子おこさん…っ」
 慌てて咲羅子は橘の口元を押さえる。
「それは誰にも言っちゃダメっ!橘のお母さんの友達の子どもよ!忘れて!」
 咲羅子は橘を怒る様子は、橘の言葉は真実だと、威津那は察した。
「そうなの?夭折したんじゃなかったけ?」
 ニダ国に嫁いで子供ができたけれど、生まれて一ヶ月もしないで夭折したと言う話は有名だった。
 今はニダ国が戦乱のために、日和にいらっしゃる。
「少しでも、彼の情報があった方が呪術は完成すると思うんだよねぇ…僕は彼のこと何も知らないから失敗してしまうかもよ?」
 意地悪な言い方でもあり真実だ。
 知らない人間より、想像でも妄想でも『思いの念』でその呪いたい相手の気を掴むような事をするつもりだ。
 体の一部でも呪術には支障はないが間違わないとも限らない。
「……誰にも言わない?」
 威津那に召喚してもらうのならば秘密も明かす覚悟だが、言いふらされても困る。
「言わないよ。絶対に」
「橘はぺろっと言っちゃったけどね…」
 じろっと橘を睨む。
「ごめん…母様は本当に祈り姫と恐れ多くも親友でいろいろ聞いちゃってたから……」
 言い訳しながらしゅんと狐耳と尻尾を下げる姿は可愛いと威津那も橘も思う。
「橘の名誉のためにも公言しないよ。と言うか、察しはついたけどね……」
 口元に、人差し指を当てて内緒にする仕草を威津那はして微笑む。
「じゃ、そのままの察しで彼の事話さなくてもいいわよね?」
 咲羅子は警戒心が高い。橘を信用して真実を言ったようだが、橘は調子に乗ると口が軽いと言うことに信用が少し下がったようだ。
「まぁね。色々妄想はしちゃうけど…」
 本当は夭折なのに日和で生きて、十歳違いの咲羅子の許嫁にするなんて、きっと、季節さんを救ったのは桜庭の宮で養子として育てていて、娘の婚約者にして身の補償と安定を図っていたんだろうな…という、威津那は妄想した。
 橘の母は宮中の巫女になるほどの人なのだから祈り姫とも懇意なのも想像がつく。
 いつも一人になると、闇堕ちして妄想ばかり繰り広げるから、そう言う少しのヒントでも大体は当てることはできた。
「威津那さん、威津那さん、戻ってきて!」
「はっ!ごめん、思いっきり妄想してた…」
 頭を掻いて苦笑する。
「その妄想癖怖いんだけど……」
 威津那は目を見開いて固まって脳内の中に入っていた様子が異様だった。
「妄想してると周りに人が見えなくなっちゃうの?」
 橘は威津那の様子を見て的確に当てた。
「うん、そうだね。僕の悪い癖。最近は闇堕ち予防のために橘の事ばかり考えてるよ」
 裸や、あられもない姿ばかりとは口が裂けても言えない。
「うふふふふふふふ。妄想より本物の私のこと、見て触ってくれてもいいのよ?」
 そう言って、威津那の腕を持って胸の谷間あたりに挟む。

 ブッハッ!

 威津那は橘の突然のスキンシップに盛大に鼻血をふき出して気絶した。
 相変わらず、生身の橘の体の柔らかさに対しての免疫はないみたいだ。
「あんたたちいい加減にしなさいよ!宮中を血で汚させんじゃないわよっ!」
「えへへ、ごめん!でも、咲羅子姐さんも帰ってきた季節さんにやってあげなきゃね!」
「そ、そんな、破廉恥なこと、人、前で、できるわけないでしょうがぁぁ!」
 咲羅子は顔を真っ赤にして逃げる橘を追いかける。
 乙女たちはキャッキャと威津那を放置してそのまま見回りに行ってしまって、その様子を見ていた高良と紺太に威津那は寝室に運ばれて介抱されたのだった。
「あの二人ってほんと、仲良いよな。男いらないじゃないの?」
 と、紺太は正直にいう。
「ふっ、確かにな……」
 高良は鼻で笑った。
 だが、二人とも狂おしいほどに運命の相手を望んでいた。
 橘は叶ったが、咲羅子も願いが叶うことを高良は祈るのだった。
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