あやかしと神様の昔語り

花咲蝶ちょ

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阿倍野家の中秋の明月にご招待

7☆守りたいもの☆エンド☆

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 深夜、威津那は一室を借りて久々に人の気配のない部屋で休むことになった。
 部屋はアンティーク調の家具が揃っていていつもの純和風というより基調と屏風に囲まれた部屋と雰囲気が違い西洋に来た感じがする。
 もともと、西洋人が住んでいた家なのだから仕方ないが……
 西洋人、敵国だった人間は今でも苦手だ。
 だが……アンティークのデザインは好きだ。
 おしゃれに感じる。
 むしろ趣味で好きになるかもしれない。
「威津那が気に入ってくれたらいいんだけど……和風のお部屋も一応はあるわよ?」
 橘は威津那の西洋嫌いを知っているから心配して聞く。
「うーん…お手間をかけさせたくないから、このままでいいかな。机も椅子も足が伸ばせてちょうどいいし、ありがとう」
 宮中では正座で仕事をしていたので足を伸ばせるのはありがたいと思う。
「ずっとこの部屋使っていいからね!あ、隣の部屋は私の部屋だから、何かあったら声かけてね?」
「うん、ありがとう」
「中秋の名月の日は朝日が登るまで徹夜してお酒飲みまくるのが恒例だから、威津那は寝てていいからね。」 
 といいながら、何か思いついたみたいに、橘は耳と尻尾を立てて、
「またね。」
 といって、素早く扉を閉めた。
 一人になると少し寂しいような……やっと落ち着くような妙な感覚になった。
 一人になると色々思考する。
 レッドスパイからは完全に手を引く、そのためになるべく自分一人で黒御足率いる組織を滅ぼす。
 それが、黒御足の宿命を変える力だと心に決める。
 未来で見える橘は白狐なのは変わらない…妻になることも……
 とにかく橘と結婚するためにはレッドスパイを殲滅させ、神誓いをする。
 それしかない…だが…できるだろうか…と、胸に不安がよぎる。
 組織は巨大だ。
 世界大戦にまで導き日和を戦果に巻き込むほどなのだから……
 だからこそ、目に見えない力を使い日和を革命することに威津那自身力を貸していたではないか…
 その力を貸す組織が陛下のために仕事をする陰陽寮になっただけのこと。
(この身に宿る有り余る力を思う存分使える……本当の大義名分ができただけだ…不安になることなど無い)
 威津那は呪詛の暗い炎を僅かに揺らめかしてみせる。
 烏は門の外で威津那を待っているのがわかる。
 阿倍野家の中には入れないらしい。
『阿倍野殿』の異界なのだから仕方がない。
 威津那は父が育てた呪詛みたいな体を持つ。
 呪詛そのものを取り込み操ることのできる特殊な体。
 普通の人間では恐ろしくて近づいてこない。
 人との縁ですら、持てないほどだ。
 けれど、阿倍野家や陰陽寮に住む者たちは特殊なのでこんな自分ですら受け入れてくれたことに感謝だ。
 レッドスパイは自分を一番だと考え、人を下に見るものが多い。
 互いを尊重しない。
 威津那は組織の命令通り陛下おわす宮中の周りに念の呪詛を仕掛けることを一人でやっていた。
 ことごとく橘と桜庭の姫に邪魔された事を思うとフフッと笑ってしまう。
 二人のことを仕事がてらに見ていた。
 どれほどの事ができるのかと……けれど晴綛に捕まって今に至ることは宿命であり今ここに至ることになったのだから……

 橘を好きだ。
 この気持ちは変わらない。
 だからこそ、この力は橘の為に…
 陛下のために……
 幸せを守るため……

 窓から月が優しく部屋を照らす。
 本当にあの月のような存在になりたい……
 体が闇、呪詛に蝕まれていても、魂は月のように清くありたい……
 それはやはり橘がいるからそう思えるのだ……
 橘を自分だけのものにしたい……

「……早く橘を抱きたい……はっ!」
 本心が言葉に出たのを手で塞いて恥ずかしくなる。
 誰も聞き耳をたてない、自由な空間なのだから何を言っても構わないのだけれど……
 フーっ…と、とため息と苦笑をして、とりあえず眠ることにした途端、扉をノックされた。
「威津那、起きてる?」
「う、うん、起きてるよ?」
 さっき口走った言葉が聞こえたかと思うと焦るし恥ずかしい。
 橘は扉の近くにある電気のボタンを押すと部屋が明るくなる。
「見てみて。ワンピース!私も持ってるんだからね!」
 水色に青のドットのワンピースだった。
 白い襟元のレースと濃い青いリボンがおしゃれさを感じる。
 更に狐の耳と尻尾のおまけ付き。
 それにスタイルが狩衣よりわかりやすい。
「とてもかわいいよ。似合ってる」
「でも。真夏用なのよね。秋や冬の服を持ってないの。宮中の仕事が忙しくて……」
「今度、外出ていい許可が出たら、一緒に買いに行こうか?」
「うん!約束ね!」
 そういって橘は威津那の隣に腰掛ける。
 そして、電気を消しても明るく部屋を照らす月を眺める。
「二人っきりで見る月もきれいね」
「そうだね…」
 なんとも言えない雰囲気に二人ドキドキする。
 それと同時に前世からそばにいることが当たり前のような気がする。
 二人でいると話が尽きない。
 話さなくてもそばにいるだけで落ち着くと威津那は思う。
「結婚したら、抱いてね?」
 と、橘は威津那の肩に頭を寄せてつぶやく。
「えっ。まさか……聞こえてた?」
「うふふふふふっ、狐耳なもので。」
 威津那は顔を真っ赤にする。
「阿倍野屋敷も油断ならないな……」
 一人になると、つい暗い考えが頭をよぎってしまうが誰かが、橘がそばにいるだけで暗い考えなんか消えてしまう。
 むしろそのほうが安心感があると思う。
 安心感かあったのは橘も同じで、威津那の肩に体を預けたまま寝息を立てている。
「ちょ…橘、起きて…」
 威津那はどうしたはいいのか困惑する。
「あ~…寝ちゃったのね。この子お酒飲むと毎年こうだから、そのまま寝させちゃって」
 姉三人と母とついでに晴綛も部屋を覗いていた。
「手を出したら小指の糸切るからな?」
「は、はい…」

 家族公認の添い寝をすることになって、威津那は照れながらも、眠る橘を月明かりが優しくてらして可愛らしい寝顔を思う存分眺めたり、顔を指でつんつんとつついてみたり耳を思う存分なでたりしながら、威津那も眠りに落ちた。

 起きた時は互いに抱き枕のごとくによりそって寝ていた事に二人本気で照れたのを家族に話題にされていたたまれないけれど楽しい朝食を頂いた。

 何気ない家族団らんこそがこんなにも幸せで守りたいものなのだと威津那は心に刻んだのだった。
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