あやかしと神様の昔語り

花咲蝶ちょ

文字の大きさ
上 下
45 / 161
阿倍野家の中秋の明月にご招待

6☆黒御足とレッドスパイ

しおりを挟む
「お前たちのことは認めてやるが、一年交際期間を待て、神誓いする前に清くなくなっては困るからの」
 と、晴綛はそう命じた。
「えーっ!今日にでも結婚したいっ!」
 橘は素直にそういったけれど、礼儀礼節を大切にする親はそんな即結婚など許すことは無い。
「橘は威津那さんの事をどんな人だと感じているの?」
 結婚を許すと言っても、まだ出会って日の浅いお互いことをどう思っているのか流花は聞く。
 十年思い続けたと言ってもほぼ妄想の域だった。
 約一ヶ月で、どれほど知ってるのだろうか?と好奇心も交えて母は聞く。
「元軍人さんで呪術師ですごい力を持ってて、甘い言葉で口説くのに、いざとなったら奥手で、誠実で優しい人なのに、狂気じみた赤い瞳が真逆な魅力が見え隠れするの!」
 橘は威津那を褒めちぎる。
 褒めちぎられてでも的確で、威津那は照れる。
「信用できなかったのは威津那はレッドスパイに属していたから……でも手を切るならもう疑うことなんてないわ!」
 一番引っかかっていたのはそこで今は心から信用できる。
「で。橘の事はどれほど知っているの?」
 娘のことをどれほど知っていて好きなのかが一番重要で真剣に聞く。
「……感が鋭くて、人が一番言われたくない本心を見抜く…いや、射抜く言霊を放って、心をえぐりますね…そして、女の子なのに積極的で胸まで触らせて迫ってくる可愛い女の子ですね…いや、包容力のある女の子ですね」
 威津那はわざとふざけて言っててフッと笑ってしまった。橘と違って褒めてない気がする。
 『女の子』と言うことはまだまだ子供と思っているのだろうかと橘は思うと、
「なーーーーんか、わたしのことそんなふうに思ってんの?」
 橘は不服だ。
 色々、奇天烈なことをやっている女子ということとも聞こえる。
「あってるとおもうけど…」
 三姉妹は同時につぶやく。
「ですが……いつも僕の目の前を明るくてらしてくれる唯一の希望の光だと思ってます。」
 その言葉は一番心がこもっていると橘は嬉しく感じる。
「……それだけ知ってれば交際期間いらないんじゃないの?」
「結婚してから知っていけばいいんじゃない?」
「過去のことはもう許してるなら、ねぇ?」
 姉たちは結婚を後押ししてくれている。
「……娘を嫁がせたくないわしの気持ちも察してくれ…本心では四姉妹ずっとこの屋敷に住んでほしいがな」
 子孫は作って欲しいが可愛い娘達が余計な男を連れてくるのは父親として複雑だ。
 嫁にいかれるのも同じで、ずっと手元においておきたい。

「あの…図々しいお願いなのですが、僕、安定した家がないんで、出来たら婿養子がいいです……」 
 少し威津那は不甲斐なさそうに言った。
「婿養子でいいのよ!最初っからそういう計画だったし!私の!」
 威津那と再会したときにもそういうふうになると妄想したけれど本当になるのは嬉しい。
「……ちょっとまって、黒御足って名家じゃないの?橘の方が嫁に行くんじゃない?」
 と、心配げに流花は言う。
 流花も宮中の巫女だったから、黒御足の本来の家の役割や凄さはわかる。
 今は宮中から離れた存在だとしても神代から続く名家だ。
「名家と言っても、一族はバラバラで、支援を受けている者は特別ですが僕はレッドスパイから抜けるとなると色々不都合があって迷惑かけるかもしれません……」
 一族全員がレッドスパイというわけではないが、長の父がレッドスパイの幹部ならばやはり迷惑をかけると思うと、婿の申し出は早まったかもしれないと真剣に考え込む。
 橘と両思いになって浮かれていたのは自分自身の方だったと改めて思う。
「じゃ、レッドスパイを始末するまで結婚しないわ!だから、せめて威津那を婚約者として認めてよ!」
 橘は必死にそういった。
 真面目な威津那が結婚を辞退する前に先手をうつ。
「では、この一年、橘と清い関係を保ったまま、レッドスパイを殲滅したら結婚を許してやる……という、条件でどうだ?」
 晴綛はにやりと笑ってそういった。
「まぁ、お前一人で、レッドスパイを駆逐することなど無理だと思うから陰陽寮総出で手伝うことにもなると思うがな。」
 レッドスパイの宮中に手を出す奴らは容赦してはいないし、一番手を焼く相手は目の前にいる威津那だった。
 敵が寝返って手の内にいる滑稽さに晴綛は苦笑しながら言う。
「陛下のおわす日和をこれ以上傷つけぬためにもな」
「はいっ!心得ております。
 僕もレッドスパイに裏切り者として狙われて宮中やご家族親戚に迷惑かけると思うので、一年のうちにどうにかします。」
 と、張り切って心意気を言霊に出すが、
「………なんか、不安なこと抜かしてるんだけど大丈夫かしら?」
 長女のアキは不安そうに言った。
「威津那はそういう人だけど、やる時はやるから安心して!」
 威津那の敵に対しての容赦のなさは神に対しても臆しないほどだ。
「まぁ、殲滅してくれたら助かるがの。わしも陰陽寮も近衛たちも皇室に歯向かう不届き者は徹底的に捻り潰してやるつもりでおるがの。」
 歯向かわない限り手出しはできないのはGHQの強い命令でもある事がもどかしくも感じる。
 先見の力をもつ黒御足の長、威津那の父は未来は占領される事を知っていてレッドスパイに入りこみ思想に取り込まれて幹部になった嘆かわしい事実を晴綛は知っているが威津那には今は言うまいと思っている。
 日和国を取り戻す名目で『革命』とやらで、黒御足の一族は日和を変えたいと思っていたのだろうが、組織は巨大過ぎて世界にはまだ敵わないだろうと晴綛は見ている。
 先見しなくてもわかる。
 命を奪うような戦で取り戻すのではなく、緩やかに守り広げる、手に届く幸せを守りたいと言う思いを威津那に感じてほしかったから家族水入らずの中秋の名月に呼んでやった。
「本気ならばこれを外してやる。」
 小指を見せる。
 威津那の命をつなぐ糸だ。
 これがある限りでも自由はできない。
「むしろ外さないで貰いたいです。
きっと裏切り者としていろんな手を使ってレッドスパイは僕を脅すでしょう。」
 威津那はレッドスパイの執拗さをよく知っている。むしろ、叩き込まれてもいる。
「もし、なにかの術で、僕を誰かが操ったならば、そのときはその糸を切ってください。」
 覚悟ができている目をしていた。
「そこまでの覚悟があるとはな」
「橘とそばに要られるなら……」
 神の宣言は絶対で橘がいる限り悪るさができない神呪いをらかけなくてもこの男が橘を愛し抜くことは宿命かと悟る、悟るからこそ、『神誓い』をできる覚悟ができるのかと不安になる。
神誓いをしたならば、橘に『愛している』という言霊を言えなくなるのだから……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

【完結】イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』

あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾! もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります! ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。 稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。 もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。 今作の主人公は「夏子」? 淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。 ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる! 古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。 もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦! アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください! では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

あさきゆめみし

八神真哉
歴史・時代
山賊に襲われた、わけありの美貌の姫君。 それを助ける正体不明の若き男。 その法力に敵う者なしと謳われる、鬼の法師、酒呑童子。 三者が交わるとき、封印された過去と十種神宝が蘇る。 毎週金曜日更新

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。 (お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです) その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。 (その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性) 物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

処理中です...