あやかしと神様の昔語り

阿倍野家の中秋の明月にご招待

5☆レッドスパイと決別宣言

　お酒を飲みながら澄んだ月、星空を見ているだけなのに、話の尽きない家族欄団、些細な幸せ……この温かさに安心感。
　これもやっと平和になったから……
　日和が日和であったから……
　たとえ偽りになろう平和だとしても、この幸せをまた壊してはいけない……
　いずれ日和は取り戻せる……
　守るべきは、こういう平和ではないのか？
　瞳から温かい雫が頬を伝った。
「あれ？これは……」
　威津那はポロポロと涙をこぼした。
　しかも、止まらない……溢れて溢れて止まらないのだ。
　さらに、心配してこちらを見てくれる橘が愛おしい。
　阿倍野家族が、同じように心配してくれているのを感じてぎゅっと胸が痛くなった。

「守りたい……この幸せを、橘とつくりたい……」
　と、溢れだす思いを言霊に出してつぶやいた。

　この澄み切った月の神のいたずらだろうか、慈悲だろうか……？

　思った言葉が素直に出てくる。

　十年前、日和が戦争に見舞われ、占領された時から感じていた怒りが涙になって溢れる。
　そのことが一番許せなかった。
　日和を戦火に巻き込んだ西洋や組織、罪もない人々を罪を着させて死なせた敗戦に……いや、終戦というべきか。

　この十年で日和に戦はなくなった。

　だが、この十年で日和は色々変わりつつある。
　その間にいろんな不幸があったが、この幸せを感じて味わえば、この些細な幸せというものを守りたいと強く思う。
　橘は威津那の手を取る。
「うん。私も威津那と、作りたいよ…幸せを…」
　そう言って、橘は微笑んで威津那の頬を伝う涙を何度も拭う。
　最後には唇で涙跡を拭う。
　なんか、子供返りして恥ずかしすぎるけれど、阿倍野家族は優しく受け入れてくれていたことに感謝する。
「もう、威津那さんは婿決定よ！」
「こんな美形な義弟ほしかったのよね！年上だけど！」
「なんなら、今夜子供作っちゃいなさいよー！」
「孫が早く見たいわー！」
　女たちは再び母親を混ぜてギャーギャー騒ぎ出す。
　静かに月を見ることなんて一時間もしていない気がする。
　威津那は感情がついていかずに戸惑う。
　呪いや念を取り込み、呪詛をする事に長けている威津那は本来感受性がとても強いのだ。
　姑獲鳥の怨念をその身に入れてしまうくらい、気持ちを察するくらいできてしまう人間味溢れた人なのだ。
　そんな威津那を橘は心から守りたいし寄り添いたい。
　晴綛は煙管をフーっと吹いて、娘と妻の様子に笑う。
「うるさいが楽しかろ？十年前はこんな幸せなど、二度とこないと思うほどだった……」
　まだ、十代だった威津那よりも当時責任を最大限にもつ、晴綛のほうが平和を噛み締めていると感じる。
「このような平和を守りたいなら、神に誓い日和を守れ。陛下がおわす平和を平穏を望むのだ。」
「はい……そうします。レッドスパイと手を切ります…命をかけて……」

　自分の命をとしてでも色々責任を取ってレッドスパイのすべてを始末するしかないと決意を固めた。

　赤い瞳を煌めかす……そう決意して橘を見るが白狐になる未来は変わらなかった。
　レッドスパイは橘が白狐、むしろ九尾になることを望んでいるが、それをなんとしてでも阻止しなくてはならない……

　九尾は日和を滅ぼすが、白狐ならばきっとウカ様のような寿ぎの神狐になるはずだから……と思いながら……