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橘の狐の嫁入り

9☆神狐VS大烏

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 威津那は赤い瞳をさらに見開き、殺気がみなぎっていた。
 体から邪気が揺らいでいるように見える。
 まるで真っ黒い炎に赤い瞳を持った化物に見えてもおかしくない。

 その様子に、橘も紺太も黙って身動きを取ることすら忘れてしまっていた。
「孫の結婚をぶち壊すとは覚悟ができておるのか……?」

 ウカ様は普通の神狐たちの四倍の大きさになって威津那に唸る。
 真っ白な体中に炎のような紋様が現れ本気で怒り、威津那を威嚇する。
「覚悟?そんなの必要ない。偽りの結婚に意味はない……」

 威津那は腕をスッっとウカ様に向けて指先まで前に伸ばすと、影が揺らめき大ガラスがあらわれる。
 威津那の闇の影を吸収してウカ様並の大きなカラスに成長して大きな翼を羽ばたくと瞬時にウカ様に向かって襲う。
 何度も飛行して、翼の羽に足がぶつかると、ウカ様の白い体に模様じゃない赤い血が滲む。
 威津那はその様子を無表情で見つめて追い詰めていっている。
 伸ばす指先を一度ハサミのように人差し指と中指を、離してつけると更に鋭いくちばしになって矢のような鋭いピストルの弾丸のような形になった。
 貫かれたらひとたまりもないだろう。
 ウカ様はそんな異様な形になったカラスと向かい合い、飛んでくるカラスを迎え撃つ。
 ウカ様は大カラスの鋭い鋒をギリギリで避けて、青い瞳を煌めかせてカラスを留めさせ金縛りにし、大カラスの喉元を力の限り噛み付くと大カラスはすっと消える。
「グッ……」
 威津那の喉元に獣に噛まれた後と血が滲む。
 威津那は首から滴る血を手のひらで覆う。
「うふふ……ウカの『化身』である私に叶うと思うてか?」
 ウカ様は余裕の笑みをして、臨戦態勢を取る。
 今度は威津那自身を消すつもりだ。
「……ウカノミタマ…すごい神様だね。古い神の一柱か……」
 稔を司り豊穣を寿ぐ神でありながら、人の願望を叶える神とも言われている。
 そのために人々は稲荷社を作りたてまつり願い祈りと念で神狐として繁栄している……だが、ウカ様は獣の肉体を持った古い神狐。
 ウカノミタマの『化身』……

……『神の化身の器』……

 晴綛の言葉をふと思いだす。

「ということは、あやかし狐から神の化身になったということか……?」
 と、威津那はウカ様の経緯を推測する。
「そんな大昔の事など忘れたわ。『今ある』わしがわしであることに変わりはないからの?」
 ウカ様は自分を威張ることをあまりしないが皆が崇めたててくれることで存在を強くする神なのだ。
 御霊でもあり現存する古狐の一柱であることは変わりない。
 威津那はにやりと口元が笑う。
「……本当は世界を混沌に落とす九尾がよかったんだけどね……」
 それは陛下の統治なさる日和を破壊するという宣言にも聞こえる。

(……そうなのよ……それが威津那の目的……)

 直感を確信すると橘は胸が痛い、怒りのような悲しみが胸を締める。
 威津那は橘の複雑な顔を見ると悲しそうな顔をして、
「本当は……橘を管狐にしたかったんだけどね……」
 とつぶやいた。
(それは、出会ったときに言っていた謎の言葉だ……)
 橘が白狐じゃないから管狐にしないと言っていた。
(威津那は私を九尾にしようとしていた?そして、日和に牙を向こうとしている?ウカ様は神様だからこそ、未来を見る事が出来るから私の縁を紺太に変えさせたかった?)
 ウカ様は優しい神様、ご先祖様でもあるのだから子孫を少しでも不幸にさせたくはなかったのかもしれない……

(ウカ様の気持ちを知ると嬉しいけれど……)
 橘は怒りと悲しみと不安に苛まれていた心がすっと決まる。

(私が威津那を止めればいい)

「ウカノミタマは九尾と対象的に日和を寿ぐための力を僕の意のままにするのもいいよね?」
 といいながら、日和の豊穣を思いのままにできれば『九尾』でなくてもレッドスパイの計画は成就するだろう……

 だが、強い力を得たのならレッドスパイなどに属さなくてもいいとも思う……

 他外国の支配下の組織と、偽りの平和を破り陛下のために強い日和にすることすらできる……

 むしろ、陛下の為にこの力を献上したい……

 内心苦笑する。

(本心はギリギリでないと出てこない……)

 豊かさも破壊もかわらない。
 祈りと呪いのように
 稔の神、破壊の神…

 己自身曖昧でいたけれど、


 やはり陛下の側にいたい……
 本心から陛下を敬愛している。

 そして、橘に対しても曖昧な関係だった……

 橘との運命が変わったときに自分の気持ちが正直にわかった。

 橘に本気で心惹かれていると……

 晴綛が注意したように橘を白狐にするならば『命を削る』と言うならば削らない未来を作るしかない。

(あのクソガキ狐に未来を変えることができたのだから……)

「……神を操ろうとは不遜だな…」
 ウカ様の体から青い炎が浮かびあがる。
「私の計画通りお前を消し去り橘を紺太と無理やり結ばせ日和を寿ぐのだ。そのためにやはりお前が邪魔だな……」
 ウカ様の青い瞳がキラキラと光る。
 それは体中にキラキラと輝く光に満ちる。
 神の力で闇を司る一族の威津那を消すつもりだ。
「僕が消えるなら、紺太も消える…誰にも橘を渡さない……」

 威津那は手に握った首の血を紺太に放つとカラスになり、紺太の手足を捉えて壁に貼り付けた。
「なんだ!この術!身が穢れる…うぅっ!痛い!」
「っ!紺太!」
 紺太の手首が紫色に変化する。
「十分もしないうちに腐って溶けるよ?」
 威津那はウカ様を見下すように微笑む。
「孫が可愛いなら僕の管狐になることを誓うんだ……簡単なことだろ……」
 威津那は西洋で言う魔王というにふさわしい悪の化身のようだと橘は思う。
 ウカ様は子孫に甘い。
 特に紺太は可愛い。
「うう、容赦のないやつよの……」
 ウカ様は炎を消し諦めた様だ。
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