あやかしと神様の昔語り

花咲蝶ちょ

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橘の狐の嫁入り

8☆橘の狐の嫁入り

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「うん。すごいきれいな花嫁さんだね」
「わしも紺太の親を産む時に花嫁衣装を着て嫁いでやったぞ。まぁ、着たかっただけなんじゃかな」
「へーそうなんだぁ。」
という会話が聞こえてきて、橘は意識を取り戻した。
「私は…あれ?どうしたんだろう…」
 突然の眠気で気を失った事はわかったけれど、手の袖を見ると花嫁衣装着ていた。
 だが、人の世の婚礼衣装とは異なり、単と打ち掛けだけのような感じだ。
「ほれ、化粧もし直しておいたぞ」
 鏡を目の前に、真っ白のお白いに目元に赤いくまを葉っぱの形にスッと抜かれていて、口紅も同じ色の赤で、爪を見ると同じ艶やかの赤色に塗られていた。
 袖から除く赤い小袖と相まって、均衡がとれている美しさだった。
「橘、とてもきれいだよ」
 そういう紺太も花婿衣装を着ていた。
 まだ少年だから様になってない。
「微妙な顔されちゃったなぁ。僕も元服みたいだなぁと思うけどさ……」
 そう言って、葉っぱを口に挟んで何やら唱えると煙が出てきて、橘と同い年くらいの男性の姿になった。
 更に、背が高くて美男子である。
 子供っぽさはニコッと笑ったときの笑顔が十四歳の紺太の面影を残す。
「これでいい?」
 声まで色気のある男らしい声になっている。
「うん……」
 橘は顔を染めて恥ずかしそうにうなづいてしまった。
(あれ?なんで、紺太にドキドキしてるんだろう……私が好きなのは…紺太?…アレ?)
 頭にもやがかかって思い出せない。
 とても思い続けて忘れたことがなかった人なのに……
 そう思うと胸が、魂からズキズキとどこかしら痛みが刺してくる。
「橘?どうしたの?」
「まぁ、紺太は未熟ものじゃから。完璧に術がかかっておらぬのだろう。」
 と、ウカ様は仕方ないというように言う。
 紺太は一瞬ムッとして、ふっとため息を吐くと、
「まぁ、結ばれてしまえば、橘は僕にメロメロだよ……大丈夫、解けない術をかけてあげるよ」
 紺太はあやしげに微笑む。
「ねぇ、私達、まだ今日、会ったばかりよね?なんで結婚衣装着なきゃいけないの?なんでこんなことになってんの?」
 好きだった人のことは忘れても現実的なことは忘れていない。
 豊作の神狐の結婚儀式は終わったのだから、もう帰らせてほしいと思う。
 なのに、自分の結婚式が始まってしまう事に疑問と不安……むしろ勝手に始まって決まっていることに腹が立ってくる。
「これは次なる祝皇の寿ぎのために必要な儀式じゃ……この紺太と結ばれて子供を沢山作り、その中の一人を『瑞兆』として寿ぐ存在になる重要なことだ。阿倍野殿も承知するだろうよ」
「それって父様は何も言ってないってことじゃないの?」
「まぁ、娘の命を削るような男とは結ばせたくないというのは本心らしいがの?」
「は?」
「まぁよいよい、今宵は二組の愛でたい祝言になるのだ!不吉なことはいいっこなしじゃ!」
 ウカ様は気分を上げるように周りにいる神狐たちに号令をかける。
「紺太も異論はあるまい?」
「うん、橘は可愛いし、おっぱい大きいしっ!末永くお願いしちゃうよ!」
 と、やる気満々だった。
「ちょ、私は……私は…」
 言葉が出てこない。
 青い瞳で紺太はこちらを見て言霊を出さないように術をかけているようだと感じる。
「内緒で結婚しようと思ったけれど、人間たちの営みを神狐のみんなに結ばれた証をみてもらうよ」
(なっ、そんな恥ずかしいことヤダ!)
 橘はサーっと青ざめる。
「おー!我らとは違う結ばれ方を人間も半妖もするらしいですからなぁ」
「なかなか見れたものではないので、楽しみですなぁ」
「ですが、人間の後尾は長い間するとも聞いてますわよ?」
「子供がその日に出来るとも限らないので、我が社では子宝祈願をする夫婦が訪れることも度々……」
「まぁ若い二人なのだから、いずれできるであろうよ」
 神狐たちはワクワクが止まらないようだ。
(ひっ、ひえぇぇぇぇ!誰か助けて!紺太と結婚するにしても、人前はいやぁァァァ!人じゃなくてもやだぁぁ!)
 いろいろな恐怖で胸が一杯になる。
 
「安心して、大事なとこは見えないようにうまくするからね」
 紺太は艶っぽい声と瞳で橘を縛る。
「う。よ、よろ、しく、お願い…いたします……」
 無理やり言わされて成立してしまった。
「半妖たちの結びつきを見るのもいっきょうじゃぁぁあ!」
 ウカ様は酔っぱらって興奮してた。
「あー、ウカ様!紺太たちのお酒がなくなってしまってますよ!」
「まぁ、よい、これはわしの酒でも有り、ナリ彦とイナ姫のための盃じゃ。めでたく子が出来た時に二人に飲ませれば良い!」
 ウカ様は命令するように、
「今すぐみんなの前で子作りせよ!」
と神の言霊を放つ。
(そんな無茶苦茶な!)
 紺太は橘の前に座り直し、
「いたくしないから、安心してね?」
「いやいやいやいや!そんなこと許されるわけないでしょっ!」
 やっと必死の声が出た。
 逃げたいのに!逃げなきゃいけないのに!紺太の瞳から目が話せない。
 金縛りにあっている。
 だが、瞼や唇は動かせるようだ。
 とりあえず、唇を、ぎゅっと結んで隠すことにした。
 この唇だけは、いや、全てにいて守りたい。
 その様子に紺太は目を見開く。
「僕はまだまだほんっと未熟だなぁ…全てを縛れないなんて…まぁ、いいよ、口づけなんてしなくしなくても……」
 突然、橘の単から襟元を肩から左右に滑らせ、はだけさせ誰にも見せていない乳房まで顕にされてしまった。
 薄紅色の頂きを覗かれて恥ずかしい。
「やっぱり、大きいし、きれいだね……」
 うなじから、鎖骨、顕になった無垢な膨らみの肌は色気があった。
 紺太は首筋に鎖骨に口づけをした。
 更に慣れた手つきで橘の柔らかさを堪能する。
「うう…やだぁ……」
 好きな人だけに触れてほしい。
 ポロポロと涙が出た。
 中途半端な縛りのために強い感情は縛れないみたいだ。
「終わった頃には僕のこと好きになってるから…泣かないで……」
 溢れだす涙を紺太は困ったように優しく拭う。
 私の好きな人は、青い瞳じゃない……
 紅く綺麗で少し怖い瞳…魅了される瞳……
 漆黒の髪に掴みどころのない性格なのに優しくてかっこよくて……
 魂から求める人……
「い、い…な…威津那ぁァァァァァァァ!」
 橘は忘れていた好きな男の名前を叫ぶ。
「なっ!なんで術が解けるんだよ!橘は僕のことを好きじゃなきゃいけないんだよ!なのに……⁉」
 紺太は怒りに任せて、橘の着物の襟首を掴み怒鳴る。
「あなたは…ウカ様の孫として未熟の半妖…と言うことが嫌なのね……」
 橘は紺太の一番痛いところを見抜き言う。
「なっ……っ!それと術が解けたのは違うことだろ!なんで!忘れないんだ!」
『彼女の毛を僕は飲み込んでいるからね……』
 橘の喉から威津那の声が出た。
『彼女の喉に口づけしたよね……?僕の喉に術…呪が届いたから解いてみたんだよ……』
 橘自身もびっくりする。
 愛おしい男の声が口から出るなんて……
 そして、どことなく怒りを感じる冷静な声だった……
 これは熱い怒りを通り越して鋭い殺意だ…と橘は感じた。
 
「うわぁぁ!カラスが襲撃してきたぁあ!」
「鬼火で迎え撃て!」
外で、神狐たちが慌てている声が聞こえる。
「想像以上に、力のある男と縁が結ばれてしまっておるようだの……」
 陽気で酒で酔っていたはずのウカ様は真剣な真面目な声で、襖を蹴り破る男を睨んだ。
 襖の後ろでは無数の烏が襲撃し狐火で対抗する神狐たちが見えた。
「威津那っ!」
 助けに来てくれた事にとても安堵してなおさら惚れてしまう。
 威津那は橘の襟元を握りしめる紺太を殺気を帯びた赤い瞳で見る。
「お前が僕の運命の光を……宿命を変えさせたやつか?」
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