あやかしと神様の昔語り

花咲蝶ちょ

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橘の狐の嫁入り

7☆策謀と計画と未来と今

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「なぜだ…?運命が変わった…?」
威津那は運命が変わったことに焦る。
 なかなか寝付けなかった威津那は、今日一日橘の姿が、声が聞こえないのはどことなく寂しく感じ、赤い瞳で
将来伴侶になる橘を見るために手相を見れば橘の姿は消えていた。

 自分の目的は橘を『白狐』にさせること……
 手相から見えていた『白狐』の橘の未来が消えた。

 声を聞くことはなくても橘の姿を見ることはできたのに……
 これは、橘に何かあったに違いない……
「陰陽寮長……いいですか?」
 少し焦りを感じた声で寝ているであろう、晴綛に襖越しに声をかける。
「なんだ?何かあったか?」
「娘さんに関してなのですが……神狐の世界で何かあったのかもしれません」
「なぜ、そう思う?」
「橘さんと僕の未来が見えないのです」
 威津那は正直に心配事を打ち明ける。
「….嫁になってない姿がか?なら、わしやお前より強い能力者が橘を嫁にするって未来じゃろうよ」
 晴綛は心配するでもなく、あっさり結論を言ったことに、威津那は落胆する。そして怒りが湧く。
「大切な娘が知らぬ男に、あなたに力比べをしていない男に寝取られても心配ではないんですか?」
「ふん、誰であろうと心配じゃ。特にお前より心配のある男はいないだろうよ」
 晴綛は襖を開けて、正座して晴綛の様子を伺っていた威津那を一九八cmの身長で見下ろす。
 その瞳は青に煌めき怒りすら感じる。
「『白狐』じゃない橘ではお前の望むものは手に入らないのだろう?」
 言葉が冷静な分、怒りがわかる。

 威津那の目的は白狐どころではなくむしろ九尾にする予定だ。
 そして使役して自分のものにする……
 だけど、それで橘と幸せになれるのか?と疑問が湧く。
 組織の目的は九尾だ。
 それが威津那に課せられた使命。
 父の命令は絶対だった。
 おさである父に逆らえば不幸しかもたらさない。
 また闇の中に落とされる……それは恐怖だ……

「わしは娘を白狐にしたくないのだ。」
 晴綛は足先で、グイッと威津那の顎を持ち上げた。
 人の心に鈍い威津那でも、晴綛の怒りを買ったと察する。
「そんなに橘のことを思うのならば橘のことを諦めろ、白狐に…九尾にしようとするな。」
 威津那の目的をピタリと言い当てる。
 そのことがバレている事に威津那は戸惑うよりも殺気を湧く。
 計画がバレてしまえば何もかも台無し……奥の手を使うしかないと覚悟しながら、
「そこまでわかっていて何故、ここに僕を置くのですか?」
 と、疑問に思うことを聞く。
「わしが、お前を陰陽寮においているのは『神の化身の器』にするためだ。」
「神の化身の器?」
 聞いたこともない話だった。
 それは現人神とも言われた陛下の事だろうとも思う。
 だが、陛下は『神に平和を祈るもの』神の化身にはなりえない。
 神の子孫とはいえど……
「お前は陛下を守る神を宿すものにふさわしいのじゃよ。」
 殺伐とした雰囲気を晴綛は少し和らげて言う。
「黒御足はもともと『神の化身』にふさわしい家系、肉体だと『ハルの神』が言うのでな、命を奪わず軟禁しておるのだよ。橘をにな」
 自分の娘を餌にするとは…と思うもののそれは成功していると思う。
 捉えられた時に宣言された『橘をがいる限り悪さができない』との言葉を思い出す。
「神憑きの家系は戦後の世の中どれほどいるかわからぬからな。お前はふさわしいのじゃ」
 陰陽寮長にもそういう計画があったのかと威津那は腑に落ちるが、今の問題はそこではない。

 橘との未来が変わってしまうことに魂から引き裂かれる焦りを感じているのだ……
「で、橘を手に入らないのならば、お前の使命は無に期す……そしたらお主はどうするかの?」
 晴綛は威津那の反応を試している。
 橘が手に入らなけば、陰陽寮にいる必要もない。
 ただ使われるだけの操り人形になるだけ……
 父の元に帰っても任務を果たせなかった自分は消されるだろう……

 それでも構わないとは思うが……

 いや、闇の中の光を…見失うことは出来ない!その光を手に入れたいと望んだのだから……

 まだ間に合うはずだ……間に合わせてみせる。

 たとえ、一度、他の男のものになろうと橘を手に入れる。

「橘は僕のものになる運命です!
 僕が見る未来を今から取り戻します!」
 威津那はそう強く宣言する。

(殺意も意図もない、真剣な瞳だの)
 威津那の真意を強い思いを晴綛は認める。

 橘でなくては、嫌なのだ…
 橘さえ…
 橘が、そばにいてくれなくなったら…闇しかない………

 闇は一筋の光すら見せない……
 未来は今変えるしかない。
 十年前、橘を攫わなかったときのように変わるものだと思うから……

 そう思うと、胸に焦燥感が強くなる。
 早く橘の運命を取り戻したい気持ちに駆られる。
 晴綛は威津那の顎から足を外して、狩衣の懐を漁る。
「ならば、橘のいる異界への案内をつけてやろう……」
 そう言うと、懐から狐の耳をつけた女の子の式神人形を威津那に手渡す。

「あとはお前の未来を取り戻して、陰陽寮に帰ってこい。でなければ小指の命の糸を切るからな」
「はい!ありがとうございます!」
 威津那は素直に感謝した。
「ふん…あと、お前に一言、言わねばならぬ事がある。」
 早く橘のもとに行きたい威津那に晴綛はかなしげな真剣な顔をして、

「橘が『白狐』になる事は、橘の『命を削る』と言うことを心得ておけよ……」

 その言葉は、目的を未来を手に入れたい威津那の心に最大限の迷いを与えたのだった。
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