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橘の狐の嫁入り
5☆大神狐ウカ様
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案内役の狐が襖に前足をかける。
「今回は珍しく、ウカ様は一番乗りで結婚式に来てくださっていますよ」
「ウカばーちゃんと約束もしてたからね。」
案内役の狐が同時に襖を開けると、神々しい光を放つ真っ白で毛並みから尻尾まで毛が長い狐が紫を基調とした錦織の大きいふかふかの座布団に鎮座していた。
瞳は美しいキラキラ輝く青い瞳だ。
紺太も同じ瞳をしている。
父様も審神者をしているのは青い瞳で神を見定める力があるからだと言っていた。
青い瞳は数千年経とうとウカ様の血筋が入った証拠なのかもしれない。
「ウカばーちゃん!会いたかったよ!」
紺太は遠慮なくウカさまに抱きつく。
ふかふかの体に顔を埋める。
「おう、おう、だいぶ大きくなったのぉ」
ウカさまも頭でスリスリする。
中の良い祖母と孫だとよくわかる姿は微笑ましい。
「うん、今、中学生になったよ。人間世界の学校は出ておいてほしいというのは親の望みだから大変だけど頑張ってるよ!」
唯一血縁として近いウカさまに甘えるのは紺太にとって唯一の癒やしなんだと、橘は思う。
(大人みたいな人を試す表情はまったくないもの……)
ウカ様はぺろりと紺太の顔を舐めて、
「お前はわしに似て愛嬌があるからの、モテモテじゃろ?」
「うん!いろんな女の子と結ばれたけど今のお気に入りは橘かな?」
ウカ様の孫の溺愛ぶりを見ていた橘をウカさまと紺太はキラキラな青い瞳でこちらをみる。
「お久しぶりです。ウカ様。」
橘は正座をして深々と礼をする。
「ほほー、いい女になったのぉ。
私が人間に変化した時に似ておるな。そんな短い髪の癖毛ではないがの」
「これは、今、人間界では流行りなのですよ」
と、ささやかな抗議をしてみるが、内心サラサラの真っ直ぐな髪は羨ましいと思ったりする。
「うん?たしかにな。今流行りかもしれぬが、幼い頃からその髪型じゃろ?わかりやすくていいと思うがの?」
「橘の髪型は可愛いと思うよ。似合ってるし!」
紺太はこの癖毛の髪型を褒めてくれたので無意識に微笑んだ。
威津那はそういう事言わないな…と比べてしまった。
むしろ狐にこだわってる印象が強い。
「ほほーぅ…そうか、そうか。」
橘と紺太の様子を見たウカさまは耳をピンと立ててニヤニヤとほくそ笑んだ。
「あの、一つお聞きしていいですか?」
橘はどうしても聞きたい事があった。
「ウカ様はいつ人間と結婚したんですか?」
「江戸の頃かの?まぁ、気が向いた時にたまには人間になって男をたぶらかすのも若さを保つ秘訣なのじゃ。」
あっさり答えられ、それで腑に落ちた。
「稲荷の神は『祈り』を聞き届ける日和の神の中でも『欲』という『願い』を叶えるのじゃ。
だから信仰され、我ら神狐も増えて、さらに祝皇陛下の祈りの願いを聞き入れて土地を豊かにする神でもあるのが、ウカノミタマなのじゃよ」
本来、神々は直接な願いを叶えるのは稀のこと。
神の使いでもある神狐たちは人の願いという『欲』を叶える。
見返りを求めていたずらすることもあると橘は聞いたことがある。
「食欲も金欲も性欲も、何でもかんでも『欲』は生きている糧じゃからな『欲』を無くした者はあのようにすぐに、萎む」
部屋の隅っこで毛がボサボサで暗い雰囲気を放つ爺狐に注目する。
いた事に気が付かなかった。
「あれは五百年ほど生きておる白狐じゃがの。あんなに萎みおって……」
爺狐いわく、
「恋した人間のおなごと約束したんじゃわい…来世では人として結ぼうと……それだけが、わしの『欲』…早く約束を果たしたいのぉ……」
こっちの気分も寂しく悲しくなる。
ウカ様は、爺様狐に近づき凄む。
「一途は良い事だがの、世の中楽しいことがたくさん溢れているのに楽しまないのは損なやつじゃわい……」
「ふんっ!」
といって、大きな尻尾で爺狐の体を叩くと小さな光の御霊になって天に上がって行った。
「ちょ!なんで…」
殺したの?という言葉は祝言の会場なので飲み込む。
「望みを叶えてヤったまでじゃ。来世で約束した女と欲を楽しめるようにな……」
その声には長年知っている狐の憐れみを含む雰囲気があった。
(ウカ様って楽しい方だけど怖いところがある…でも、それも優しさからなのよね。)
と橘は納得した。
「きっと来世は幸せになるって願ってあげようね」
紺太はそう言って両手を合わせて爺狐の御霊を見送った。
橘もそのことを願い紺太に習い祈る。
紺太は空気を読むのが上手い。
その機転で少し暗い雰囲気を消す。
「紺太は優しいのぉ。そういうところはわしが惚れた男に似ておるな。」
フォフォフォと恋人を思い出しウカ様は笑った。
「ウカ様、みなの衆、婚礼の儀式整いました。どうぞこちらへ…」
と案内役の狐が促した。
「さ、婚礼を祝おうぞ!みなの衆!」
ウカ様は尻尾をふりふりさせながら広間へ行った。
「僕達も行こう。」
「う、うん。」
紺太は橘の手を取ってウカ様のあとをついていった。
(紺太は明るくて雰囲気を察することのできる男の子なのね。女の子にモテる理由がわかるわ……威津那よりある意味大人かも……)
まだ会って少しの時間だけれど紺太の事を知れた気がした。
「今回は珍しく、ウカ様は一番乗りで結婚式に来てくださっていますよ」
「ウカばーちゃんと約束もしてたからね。」
案内役の狐が同時に襖を開けると、神々しい光を放つ真っ白で毛並みから尻尾まで毛が長い狐が紫を基調とした錦織の大きいふかふかの座布団に鎮座していた。
瞳は美しいキラキラ輝く青い瞳だ。
紺太も同じ瞳をしている。
父様も審神者をしているのは青い瞳で神を見定める力があるからだと言っていた。
青い瞳は数千年経とうとウカ様の血筋が入った証拠なのかもしれない。
「ウカばーちゃん!会いたかったよ!」
紺太は遠慮なくウカさまに抱きつく。
ふかふかの体に顔を埋める。
「おう、おう、だいぶ大きくなったのぉ」
ウカさまも頭でスリスリする。
中の良い祖母と孫だとよくわかる姿は微笑ましい。
「うん、今、中学生になったよ。人間世界の学校は出ておいてほしいというのは親の望みだから大変だけど頑張ってるよ!」
唯一血縁として近いウカさまに甘えるのは紺太にとって唯一の癒やしなんだと、橘は思う。
(大人みたいな人を試す表情はまったくないもの……)
ウカ様はぺろりと紺太の顔を舐めて、
「お前はわしに似て愛嬌があるからの、モテモテじゃろ?」
「うん!いろんな女の子と結ばれたけど今のお気に入りは橘かな?」
ウカ様の孫の溺愛ぶりを見ていた橘をウカさまと紺太はキラキラな青い瞳でこちらをみる。
「お久しぶりです。ウカ様。」
橘は正座をして深々と礼をする。
「ほほー、いい女になったのぉ。
私が人間に変化した時に似ておるな。そんな短い髪の癖毛ではないがの」
「これは、今、人間界では流行りなのですよ」
と、ささやかな抗議をしてみるが、内心サラサラの真っ直ぐな髪は羨ましいと思ったりする。
「うん?たしかにな。今流行りかもしれぬが、幼い頃からその髪型じゃろ?わかりやすくていいと思うがの?」
「橘の髪型は可愛いと思うよ。似合ってるし!」
紺太はこの癖毛の髪型を褒めてくれたので無意識に微笑んだ。
威津那はそういう事言わないな…と比べてしまった。
むしろ狐にこだわってる印象が強い。
「ほほーぅ…そうか、そうか。」
橘と紺太の様子を見たウカさまは耳をピンと立ててニヤニヤとほくそ笑んだ。
「あの、一つお聞きしていいですか?」
橘はどうしても聞きたい事があった。
「ウカ様はいつ人間と結婚したんですか?」
「江戸の頃かの?まぁ、気が向いた時にたまには人間になって男をたぶらかすのも若さを保つ秘訣なのじゃ。」
あっさり答えられ、それで腑に落ちた。
「稲荷の神は『祈り』を聞き届ける日和の神の中でも『欲』という『願い』を叶えるのじゃ。
だから信仰され、我ら神狐も増えて、さらに祝皇陛下の祈りの願いを聞き入れて土地を豊かにする神でもあるのが、ウカノミタマなのじゃよ」
本来、神々は直接な願いを叶えるのは稀のこと。
神の使いでもある神狐たちは人の願いという『欲』を叶える。
見返りを求めていたずらすることもあると橘は聞いたことがある。
「食欲も金欲も性欲も、何でもかんでも『欲』は生きている糧じゃからな『欲』を無くした者はあのようにすぐに、萎む」
部屋の隅っこで毛がボサボサで暗い雰囲気を放つ爺狐に注目する。
いた事に気が付かなかった。
「あれは五百年ほど生きておる白狐じゃがの。あんなに萎みおって……」
爺狐いわく、
「恋した人間のおなごと約束したんじゃわい…来世では人として結ぼうと……それだけが、わしの『欲』…早く約束を果たしたいのぉ……」
こっちの気分も寂しく悲しくなる。
ウカ様は、爺様狐に近づき凄む。
「一途は良い事だがの、世の中楽しいことがたくさん溢れているのに楽しまないのは損なやつじゃわい……」
「ふんっ!」
といって、大きな尻尾で爺狐の体を叩くと小さな光の御霊になって天に上がって行った。
「ちょ!なんで…」
殺したの?という言葉は祝言の会場なので飲み込む。
「望みを叶えてヤったまでじゃ。来世で約束した女と欲を楽しめるようにな……」
その声には長年知っている狐の憐れみを含む雰囲気があった。
(ウカ様って楽しい方だけど怖いところがある…でも、それも優しさからなのよね。)
と橘は納得した。
「きっと来世は幸せになるって願ってあげようね」
紺太はそう言って両手を合わせて爺狐の御霊を見送った。
橘もそのことを願い紺太に習い祈る。
紺太は空気を読むのが上手い。
その機転で少し暗い雰囲気を消す。
「紺太は優しいのぉ。そういうところはわしが惚れた男に似ておるな。」
フォフォフォと恋人を思い出しウカ様は笑った。
「ウカ様、みなの衆、婚礼の儀式整いました。どうぞこちらへ…」
と案内役の狐が促した。
「さ、婚礼を祝おうぞ!みなの衆!」
ウカ様は尻尾をふりふりさせながら広間へ行った。
「僕達も行こう。」
「う、うん。」
紺太は橘の手を取ってウカ様のあとをついていった。
(紺太は明るくて雰囲気を察することのできる男の子なのね。女の子にモテる理由がわかるわ……威津那よりある意味大人かも……)
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