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橘の狐の嫁入り

2☆威津那の好奇心

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「という事で明日から結婚式に参列してくるの」
 陰陽寮長と橘の会話が耳に入っていた威津那の瞳はキラキラ輝いていた。
「そこには妖狐がたくさんいるの?
 その妖狐の世界の結婚式ってどんなものなのかな?』
「妖狐じゃないわ、神狐よ。」
 さらに威津那は頬を紅潮させて、
「すごいじゃないか!僕も付いていきたい!」
 威津那は三十路近いのに子供みたいに興奮している。
 そんな威津那も素敵と思えてしまうのは惚れているせいだろうか?
「イヅナ権現の血筋の者が狐の異界に行ったらテロリストが潜んでいるようなものだ」
 高良は呆れて言った。
 この数日、高良は威津那の陰陽寮での仕事を仕込むためにつきっきりだ。
 だいぶ打ち解けてきたようだが、未だに高良は隙あれば威津那の心を覗いてやろうと狙っている。
「たしかにそうかも……」
 橘も高良が言うことに同意する。
「テロリスト?なにそれ、僕は狐を狙う猟師だよ。」
「なお悪いわ。」
 橘と高良は同時に言った。

 威津那の一族…イヅナ権現の修験者の一族は式神の如くに狐の御魂を操り呪術を使うという。
 威津那の姓の『黒御足』はヤタ烏の末裔であり、威津那の式神は烏の《かーちゃん》だ。
「そういえば威津那は狐の式神…管狐を持たないの?狐が烏に化けてるの?」
 式神の存在は主人の具現化によっていくらでも変えられると陰陽寮長が言っていた。
「かーちゃんは生まれた時から僕に憑いてる烏の霊獣だよ。」
 かーちゃんは式神というわけではなく、家系から憑いている守り神みたいな存在だということか。
「僕は管狐にするなら最強に強い妖狐がいいと思っているからね…実は、まだ持ったことがないんだ。」
 そう言って赤い瞳を一瞬煌めき橘をみた。
 その瞬間橘はどきりとする。
 恋心のドキリとは違う、心臓を突き抜けるような怖さだった。
「それは…九尾の狐しかいないのでは.…?」
 高良はそう言った。
「そうだね、彼女は我ら一族が昔討ち取ってしまって、もう伝説上の存在だけれどね……」
 討ち取ったが、正確には逃げられ、香茂と阿倍野が匿ったという伝承を威津那は知っている。
「そうよね。阿部野家はウカ様の遠い家系の末裔だから、九尾の狐とは関係ないわよ?」
「その阿部野に香茂家が天文学を分けたんだよ。歴史上でもそう記されてる……」
「私たちの家系はとても近いのよね。私は高良のお母さんと従姉妹だし」
「どうりで勘の良いところが似ていると思った。」
 と、威津那は納得した。
 阿部野晴明のことは知っている、九尾が封印されたのは百年以上経ってからだ。
 二つの家は帝の命で九尾を匿った。
 そして、阿部野があやかしの血が強くなって今に至るはずだ。
 その二つの家の秘密を知れば九尾を復活させることができると威津那は確信しているが赤い瞳はそのことを見せてくれない。
 橘と高良がちょうど二人そばにいるので赤い瞳で二人の未来を見るがモヤがかかる。
 橘が半妖のせいだろうと、諦めた。
(もしかしたら白狐ならば橘じゃなくても故意的に九尾を作ることができるかもしれない。橘じゃなくても同じ狐で神狐のほうがもっと九尾ににした時に力を発揮するのではないか?)
 と、ふと、そう言う考え過ぎるが、白狐になった橘と結婚する未来は変わらない、変わってほしくない……

「正直、その九尾以外を僕の管狐にする気はないかな?」
「じゃ、一生無理だな。もう存在しないんだから……」
 高良は妄想なんて無駄な事だと思う。
「無理なら、その異界にいって狐の尻尾九本うばって自分から作ってもいいよね」

「はぁ!なに怖いこと言ってんの?やめてよ!そんなことしたら日和の米が実りがなくなっちゃうじゃないの!」
 橘はあまりの発言にカッとなって怒る。
「ある意味陛下の代行でもあるんだから!冗談でもやめて!絶対にあなたはついてきちゃダメよ!」
 かなり怒っているらしく狐の耳も尻尾がいつになく逆立つ。
「ふふっ。どうかな?僕は好奇心に心が弱いからね……」
 威津那ならやりかねない……と橘も高良も思う。
 職員の毛を密かにむしったり、職員になるために闇を仕掛けたり、自分の目的のためなら躊躇わない人物だと見抜く。
「高良。よく威津那さんを見張っていてね」
「わかった。橘は早く行ったほうがいい」
 高良はそう言って威津那を蛇の式神で縄にして縛った。
 高良は式神を操る能力に非常に長けていた。
 香茂の能力者は代々香の煙を具現化させる力か、式神を操る力が備わるのだ。
 高良は式神の能力を高めようと努力を怠らない。ライバルの威津那を負かせてやると心の底で闘志に燃えている。
「お土産は神狐の毛数本でいいよ?」
「そんなおみあげ、あげませんよーだっ!」
 橘は簾から顔を出してあっかんべをする。
 もう怒ってないと感じて、威津那はほっとした。
「そんなことよりも、威津那殿はきっちり仕事を覚えようなぁ?」
 高良は、フフっと意地悪な顔をして威津那を逃さないのであった。
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