あやかしと神様の昔語り

橘の狐の嫁入り

1☆狐の嫁入りのご招待

「狐の嫁入りに、参加？私が？」
  中秋の名月の前の日に父の晴綛は橘に言った。
「阿倍野の代行として出席をしてほしいのじゃ！」
　と、困ったように言われた。
　代行と言っても忙しい父の代わりに橘はほぼ『阿部野』のあやかしの頭領の代行役を担っている。
「出席せぬと『来年の豊作は保証せぬ』と、夢の中でウカ様に脅されてな……」
　橘は狐耳をピン！と立てて思い出す。
「ウカ様ってウカノミタマの化身のお狐さま？」
「よく覚えておるの。幼い子少し世話になっただけなのにな」
　十年前に橘は疎開先がウカ様の異界で世話になった。
　狐の半妖の橘が他の土地に疎開出来ないので異界で疎開をしていた。
　戦争中の現世よりも安全な所だった。
　そのために現世の地獄のあり様に絶望した。
　さらにしばらくの間心の癒しとして神狐の世界にお世話になった。
　神狐のみんなは橘を受け入れてけれて優しかったことを思い出す。
　そして、狐火の出し方を教わった。
　心身ともに元気になった橘に家族はホッとした。
「その時の礼に祝い事に顔を出す約束をしたのだが、わしは陰陽寮長でいそがしく神事にはでぬが、周りをレッドスパイから守らねばならぬ日々で、流花にも会えぬのじゃ…かわいそうなわし……」
　と言って泣き真似をする。
　ウカ様はいい加減約束を守らない晴綛に豊作を脅しに来いと命令した。
　これは陛下の祈りにも影響がある。
　いくら神に祈っても豊作を約束してくれないと不作になる。
　流石にアマテラス大神のご機嫌を損ねるほどではないけれど……
「ウカ様の機嫌を損ねぬようにな、頼んだぞ」
　と、有無を言わさずに橘に頼む。
「わかったわ、家に帰って母様に着物用意してもらわなきゃね」
　父の名代、『阿部野殿』として、きちんとお役目を果たそうと意気込む事と、自分の結婚式のために勉強したいと考えた。
　橘の妄想では威津那が婿として隣に座っている。
　あやかしに近い神狐と言えど、きちんと礼儀礼節を守った結婚式をしかと見ておかねば！と思うとワクワクしてきた。
「流花も橘が帰ってくることを楽しみにしているぞ、威津那といちゃつくのが楽しいのは分かるが流花や姉たちに顔を見せに帰ってやれ。生理の日は以外でもな」
　父は娘に遠慮ない。
　しかも生理日まで把握している。
「わ、わかってるわよ……もう…。あと、今年も家族で中秋のお月見しようね」
「おう、それは家族の約束事だしな。休みを取ってある」
　晴綛はニカっ！と笑って嬉しそうだった。
　ウカ様の約束は予定に入れないくせに家族との約束はきっちり入れる晴綛だった。