あやかしと神様の昔語り

花咲蝶ちょ

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橘と威津那の陰陽寮のひととき

スパイ失格

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 橘は小休憩中の職員にお茶汲みをして、新人の威津那に、最後のお茶を渡して隣に座る。
 お茶菓子も用意してみんな雑談が始まる。
 そして、威津那の隣に座って親密になろうとして、質問をしてみようと思い、
 「威津那さんはレッドスパイなの?」
 単刀直入に聞いた。
「ん?そうだけど、ここに捉えられた人たちってそうじゃないの?」
 お茶を口に含んだものは噴き出し、ざわざわしていた空気が固まって止まった。
「そんなわけあるかァァァァ!」
 昔ながらの家系以外の新人職員たちが同時に叫んで威津那に詰め寄る。
「げ、外法陰陽師という異能者なだけで
国や皇室を脅かそうとするレッドスパイなんて組織なんか入っておらんわ!」
 と、怒鳴る。
「えっ?え?そうなの?」
 威津那は豆鉄砲を打たれたようにキョトンとして、周りをキョロキョロする。
 おもわず口が滑ったことに気づき口元を押さえる。
(まずいこと口走った…か?)
「むしろ、生きていることを感謝してもらいたいものよの」
 陰陽寮長の晴綛は苦笑して小指を見せた。
 皇室を尊ぶ職員たちは目を釣り上げ威津那に攻め寄る。
「で、威津那さんはどこらへんの幹部なのかしらぁ?」
 いつの間にか後ろに立っていた咲羅子が刀を抜いて、威津那の首元に添える。
「えーと……雇われ呪術師してたら、いつの間にか入れられてたって感じかな?」
 怖じ気もせず、素直に言う。
「そこからの情報で宮中にいたずらして今に至るんだから」
 何故か威津那は胸を張る。
「ほんと?」
 じっと…と橘は威津那に詰め寄る。
「ホントだよ?信用できないなら僕に依頼してきた人たちの名簿すべて晒してもいいよ。」
「え?いいの?仲間でしょ?」
「呪術師に仲間なんていないんだよ…」
 少し淋しげに言った風はわざとらしいと橘は感じたが何も言わないでいた。
 威津那は式神を出すと名前の書いたメモが出てきた。さらに、髪の毛まで。
「レッドスパイの依頼人の保証のため毛を内緒で頂いてたんだ。これを辿れば、僕に依頼してきた奴らは始末できると思うよ?」
「うわぁ…あんた、そんなもんいつも持ってんの?」
 咲羅子はドン引きした。
「そういえば、私の毛むしったよね?他の人もむしってんの?」
「ふふっ。どうだろうね」
 みんな青ざめてドン引きした。
 もしかして職員全員むしられてる可能性もある。
「ね?これで信用してくれる?」
「し、信用できるわけないだろ……!」
「改めて身体検査されたくなかったら、皆の今すぐ出せ。それも条件だ」
 陰陽寮長は本気で怒りのオーラを出して威津那から職員の毛を没収した。

 とあるレッドスパイの組織の一部隊では、

「大変です!呪詛返しされて、不審死のものが大量に出てます!」
 あまり力のないレッドスパイの威張り散らすだけの異能者の一部組織をまとめるものは焦る。
「威津那……自分の身を守るために組織を売り渡すとは…恐ろしい男よ……」



 威津那は呪詛返しという穢を行った為に、香茂家に一週間軟禁命令された。
 阿倍野家じゃないのは妻と娘三人と橘が暮らしているからだ。
 香茂家は潔斎する部屋がちゃんと用意されて見張るための家来がいる。
 とっておきの場所だった。
 威津那の部屋には高良に借りた本を沢山用意してもらって勉強もみてもらっている。
「まぁ、呪詛部隊が壊滅しても仕方ないよね…」
 と、本を読みながらつぶやき苦笑した。

 威津那が、本能的に一番バレたくないのは……
 
『一族が残っていること』

 であって、雑魚の敵の巣穴などどうなってもいいと思っているだけ。
(僕の目的は橘だから、レッドスパイがどうなったってどうでもいいんだよね。)

 レッドスパイ組織というは世界的組織の一部ということ自体好きではない。
 むしろ、敵国が作った組織なのだから心底心酔するほどの忠義心は持っていない。
(父は心酔しきって、むしろ乗っ取ろうと努力しているけれど……)
 異能の力を持っていつか日和を変えようとしている。
 その考えに異論はない、橘を九尾の依代として引き渡せばいずれ僕の妻になる……

 それだけが、今唯一見えている未来。

 その未来が揺らがないように陰陽寮にお世話になっているだけだ……

 自分に関わる大きな未来しか基本見る事はできない。
 他人を介してなら見ることはできるけれど、橘や、陰陽寮長はあやふやすぎて自分の運命を介する事も難しい、今後長くおつきあいしていく間柄になるのに。
 威津那の先見の瞳は父に比べてポンコツだということは自覚している。
 だがらこそ未来は楽しいと思える。
 そう思うのも殿下の包石のお力のおかけかもしれないと理解する。
 早くその未来が来ることを願いつつ威津那は夢に落ちていった。



「高良くんの毛は抜くことが難しいね」
 ザリザリ頭をなでながら威津那は残念がる。
「坊主頭でもいいかなと、思えてきましたよ……」
 頭をなでていたのは毟るためかと思うと、威津那に不信感を更に湧く高良だった。
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