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橘と威津那の巡り合いと探り合い

19☆恋には恋、上には上は重なりて

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「宮中に闇を仕掛けていたのは、威津那だって父様は知ってたの!?」
 橘は驚いて大声で言った。
 狐耳にはキツイらしく晴綛は耳をふさぐ。
 威津那はおとなしく縄で簀巻にされてにこにこと微笑んでいる。
 異能持ちにこんな原始的な縛り方をされるとは思ってもいなかった。
 縛ったのは槐寿だが。
 陰陽寮長の部屋に威津那をぐるりと円陣で囲むのは、橘、槐寿、咲羅子、高良、晴綛だ。
 他の職員も何事かと周りで見張っていて逃げる余地もない。
 高良はため息を吐いて、
「やっぱりね…あやしいと思ったけれど本当にあっち側の人間だったとは……」
 フフッと密かに笑い自分の感の良さに自信を持つ。
「まぁ、外交官に悪いことをしていたことまで知らんかったけどな……」
 と、ため息を吐いて、
「そういえば、言っておらんかったかの?
お前たちが見つけた式神でお前らじゃ、手が余ると思ったのでな、わしがチョチョイとやっつけて、陰陽寮職員として連れてきたんじゃ。」
 たしかにそういう経緯だった気がするけれど、宮中の周りの悪さをしていたのが威津那本人とは聞いていない。
「なんで、こんな不敬なことをしてたの⁉信じらんないんだけどっ!」
 まだ橘は怒り狂っている。
 そんな橘を威津那はじっと見つめて、
「……前にも言ったよね?噂で陰陽寮長を倒したら狐の姫が手に入ると聞いてね、十年ぶりに美しく成長した君に逢いたかったからわざと仕掛けたんだよ」
 首を傾げて微笑んで悪気がないと感じる。
「で、計画通り橘と再び出逢えたと?それだけがあなたの望みなの?それとも陛下のお命を狙うための下手な言い訳じゃなくて?」
 桜庭の姫は刀の切先を威津那の鼻面に向ける。
 咲羅子は決して気を許さないところが頼もしい。
「そんなことは絶対にしない。陛下に近づくようなことがあれば刺殺してくれたって構わない」
 ヘラヘラしていた表情が引き締まり真剣な顔をしていた。
「そういう掴みづらいところが信用できないんですけどね」
 と一言言って刀を鞘に収める。
「まぁ、その心意気が真か偽りか、いずれ神に誓ってもらうから覚悟しておくことだな……」
 晴綛はボソリとつぶやき何か思惑がありそうだった。
「まぁ、今回の件は職員になる前の悪さだから不問で、自ら責任を取ったならそれで良い。
 他の異能の職員もそんなもんで、わしが呪をかけて縛っておる。
 威津那も等しく平等だ。その命をどうこうするのもわしの考え一つじゃから安心せい」
 と晴綛は小指を立てて威津那にニヤリと笑ってやった。
 その小指に何本もの糸が繋がれているのが威津那に見える。
 その糸一つ切れれば命もきれると、脅されている。
(悪さなどできるわけがない…今は……)
 己の腹黒いものはまだ昇華されていないと確信し内心自嘲する。
 橘は急にしゃがんで威津那を見つめる。
「その瞳に私はあなたの妻になって見えてるの?」
 橘は不思議そうに聞いた。
 出会った頃の浮かれた表情はなく無表情で聞かれて、威津那は胸がズキズキ痛くなった。
 これは、自分に恋が冷めている……
 そう思うと、またズキリと痛い。
(こんな感覚初めてだ……呪詛の痛みとは違う……自分の心が痛い…)
「そうだよ、僕の瞳は未来が見える、先見の瞳だ…」
 先見の瞳ということは誰にバレても支障はない。
「私が威津那さんのことを本気で『嫌いで結婚しないっ!』って決めたら未来は変わるの……?」
 橘は意地悪だ。
 胸がズキリと痛むことを言う。
 そんな未来は見られないことはわかっているが、見たくないし、したくない。
「……変わらない…僕が君を手放さないから……」
 威津那は真剣に本心でそう告げていた。
「………ふっ…」
 橘は顔をにやけて、
「ふふふふふふふふふふふふ……」
 不気味な笑い方をした。
「ど、どうしよう……許さない気でいたのに……なんだか嬉しすぎる……」
 助けを求めるように、嬉しさで潤んだ瞳で咲羅子に言う。
「駄目よ!騙されちゃ!スパイの手口よ!」
 咲羅子はハッキリ注意をする。
 橘を、正気に戻そうと肩を揺さぶる。
「君が僕のものになってくれるなら誠心誠意陰陽寮の仕事に命を捧げると約束するよ!」
 威津那も必死だった。
 こんなに、本心で言葉を発したのは初めてかもしれないほどだ。
 包石の光のせいで自分を呪い縛る力が緩んでいるせいかもしれないと気が付く。
 ただ素直に橘に嫌われたくなかった。
「でも……もう少し…あなたのことを知らない限り信用はできない。
 やっぱりあやしいところあるし……」
 橘の直感は当たっている。
 半分嘘ということを……
(彼女はギリギリのところで騙されない……)
 だからこちらから惚れさせなくては……
「これから、僕を知ってもらえると嬉しい。僕も君のことを知っていくから…どうか信頼してほしい…」
 威津那はそう言うしかない…信頼を恋心を取り戻すためにも……
 橘はうーんと考えて、縛られてる威津那の頬に手を当てて、口づけをした。
「なっ!」
「なにしてんの!橘!」
「今度は本気であなたが私を思う番よ……ずっとあなたを忘れられなかった私の思いを償ってちょうだい。ね?」
 橘は色っぽく唇をなめてイタズラっぽく微笑み顔を赤くした。
 そして、可愛く真剣に見つめる姿に本気で惚れてしまうではないか……しかも先見で見えなかった予想外の行動に頭と心がついていかない……
「威津那?返事は?威津那?あれ?気絶してる……」
 可愛すぎるし、幸せすぎて、力を得るために不幸しか身に取り込むことしか知らなかった威津那はあまりのことの嬉しさに、気絶した。
 
「皇族のシラスの力は、闇を操る呪術師にとって毒よ…たが、心を取り戻す薬になるがな…その分、器としては十分な依代になるじゃて」
 陰陽寮長は青い瞳で威津那を見て言った。
 青い瞳は神を見定める。声を聞く。
(本当は処罰してやりたいところだが神は威津那をほしがっている。だから不問にしてやってる……それだけじゃて……)
 半妖で審神者の晴綛はほくそ笑んで威津那がこれからどう動くのかを見ることにした。
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