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橘と威津那の巡り合いと探り合い

16☆威津那の力

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「は?命令?それって…まさか……」
 橘は口元を抑えて威津那が犯人だとわかって青ざめて絶望する。
 そんな、絶望する橘の表情に罰が悪い顔して頭をかく。
「あー……正確には、命令ってわけではないかな。」
「ごまかすつもりっ!?」
 橘は怒り狂って全身から狐火を出して、威津那に、襲いかかる寸前だ。
「勘違いされてるかもしれないけど、この式神を欲しがっていた依頼者が暴走させたんだ」
 威津那は確信的に堂々と言う。
 胡散臭い…橘は怒り狂っていてそう冷めて威津那を見る。
「……見え透いた嘘は許さないわよ!これ以上私を絶望させないでよっ!この!…初恋泥棒が!」
 橘は怒りに任せて狐火を威津那に投げつける。
 それをヒョイッと避けて、まだ生き残っていた姑獲鳥が受けて燃える。
 「初恋泥棒」という言葉に威津那は吹き出して、橘の怒りを抑えるようにまぁまぁ、と降参のように手を上げて、なだめる仕草をする。
「僕は呪術を売って生計をたてていたんだよ」
「それはだからそうよね。当たり前よね?」
 フン!と威津那を見下すほどまだ怒りが収まっていない。
「……親兄弟は戦争で亡くなって、独り身ならば気楽だったからね。」
 身の上話をするがこれは、嘘である。
 一族は誰一人亡くなっていない。
 そして呪詛返しをされたくないので自分を名乗らない、一般に混じって暮らしているものがほとんどだ。
 ただ、長が呼ぶのならば馳せ参じる。
「今の時代、呪術で人に害を及ぼしても裁かれない。自分の手を汚さないで人を呪い殺すことに力を貸すことをしていたんだ。」
「力を貸すというか、あなたが人を呪い殺してるんでしょ……?」
 橘は疑いの瞳で威津那を見るが本当は、そんなことしていると言ってほしくない……
(だって命の恩人だし、その力で敵国の兵隊をやっけていたある意味英雄でもあるのだもの…)
 邪法を扱うイズナの家系ならばそういう事をするのは仕方のないことかもしれないと思う……
「僕は例えば藁人形を売っているようなものだよ。
 恨みの念を送るのは依頼人次第……僕は力を貸すだけの仕事をしていたんだ。」
 ニコッと微笑んでそういった。
 だが瞳は笑っていないので橘は怯む。
 槐寿はなんとかしてカラスの口から逃げて一番の犯罪人の威津那を捕まえようと暴れている。
 威津那はそんな槐寿をみて、あたりを見回すと、まだ姑獲鳥が徐々に再生しようとしている。
 負の念を妖怪の体が呼び寄せて回復しこちらを睨む。
「縁とは不思議でね、同じ思いの人間が、呪い殺したい人達が僕にお願いしに来るんだ…それはもう生きてない人間もね……」
 威津那は十年前の出来事を思い出すとやるせない思いになる。
 その願いを叶えてやりたい。
「僕は人々の恨みや怨念を叶えてあげる仕事をしていたんだよ…少しの気休めにもなれば良いとね。」
「それは、あなたの気休めじゃないの?」
 橘は素で、威津那の奥底を言い当てる。
 威津那は瞳を見開いて言葉に詰まる。
(本当に…人の心の心底を射抜くな…高良より厄介すぎる)
 威津那は復活し分裂する姑獲鳥を憐れむ。
「念を送る人々はこんなに分裂するほどに恨みや悲しみが癒えていないんだね…」
 
 癒えるわけが ないのだ…癒えるために忘れようとすることは、負の念が増える原因だ……『昇華』できていないのだから……
 威津那はそんな念を使って宮中にいたずらを仕掛けた。
 この姑獲鳥のあやかしのように……
 ホントのところ隣国のレッドスパイのあやかしを売るやつから買って式神を恨みを抱く依頼人に売りつけただけだか、ただの代物ではなかったと思う。
 余計な呪術を付け足されていたようだ。今その呪詛を解読する時間はない。
 威津那の式神の人形がいつの間にか再生して念を吸い取り復活する。
 先程よりは小さくなったが、母親の嘆き悲しみの念は消せない。

 子供を返せぇええ!この恨みはらさずにおくべきかぁ!
 ぎぇぇぇ!きぇぇぇぇ!

 姑獲鳥は恨み言を叫びけたたましい鳴き声を叫び仲間たちの復活を待つ。
 卵の中に眠っている子どもたちの前にまた集まる。

 いつかはまたこの妖怪は人をさらうことだろう。
 このまま放置してもいいのだが、少しでも信頼を取り戻さなくてはいけないと思う。
 威津那はハァァァァ…と顔を両手で覆い、大きく息を吐き、うなだれてから、姑獲鳥を見る瞳に鋭い殺気をやどした。
 のほほんとした雰囲気など微塵も感じさせないあの瞳に橘はドキリとする。

「これは僕の責任だ、今から責任を取るよ……」

 威津那は姑獲鳥の羽の刃で指先三本を傷つけると、飛び散った血の影にカラスが大量に現れて姑獲鳥をことごとく貫きついばみ、式神の人形をすべて回収しカラスは黒い渦を巻いて威津那の流れる血に戻る。
「これは、辛いね……」
 威津那は今にも泣きそうな声と表情をこぼす。
 姑獲鳥を動かす念は悲しすぎる…慈愛などでは到底昇華など無理なことなのだ……
 その負の感情、恨みの願いの闇の念を威津那は体に取り込んだ。
 だが意識を乗っ取られてはいけない…気を保つために威津那は覇気を放つ。
 威津那の周りに不思議な衝撃波が何度も鳴る。

 生きている者は体が動けなくなるほどの不思議な支配力…恐怖の支配者の覇気が漂う。

 そんな覇気を放ちながら威津那は苦しそうに体を強く抱きしめる。
 指が腕に食い込むほどだ。
 みっともなくもがかないように歯を食いしばりじっとして動かないが、背中で大きく息を吐きはいている。
 さらに肌が闇の影に侵されている様子を橘は瞳を見開いて驚愕する。
「なんて、力なの……」
 威津那は闇を取込み呪術を己のものに変える能力をも持っているようだ。
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