あやかしと神様の昔語り

花咲蝶ちょ

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橘と威津那の巡り合いと探り合い

12☆異界の道と誘惑と

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 都会は電気が通っていると言っても影の闇は深い。
 更に今夜は大きな赤い三日月だった。
 夜が不気味に笑っているように見える。
 夜の道の影、木々の影の中に人ならざる存在がさざめきあい、人を騙す。
 だが、この三人に手を出せば身を滅ぼすと、闇のものは直感でわかる。
 わからない者は人を喰らって強くなる妖怪や闇のもの悪霊と呼ばれる念の塊だ。

 きっとそれらすら一瞬にして霧散させる力を陰陽寮職員と太刀の者はもっている。

 現に闇を煌々と照らすは半妖の橘狐火だった。
 更に、橘の胸には朔羅子が殿下からいただいた包石のペンダントを胸に潜ませる。
『私があなたと仕事できないのは悔しいけど、これを私だと思って持ってて!殿下の御加護もあるしね!』
 といって持たせてくれた。

 持っているのは包石だけではない。
 陰陽寮長の特性あやかし探知機ダウジング石が反応する。
「これは本当に導いてくれているのかい?」
 威津那は不思議に思っていることを橘に尋ねる。
 槐寿も戸惑いながら頷く。
 山の中といっても、邪魔する木々や藪がない。
 とにかく道が続いていて不思議に思う。
「黙ってついてきてくれるなら、怖がらせないように内緒にしておくつもりだったけど、ここはもう異界の道なの。」
 あらためて、周りを見ると不思議な霧に包まれている。
「この道は代々の阿部野殿が開発した目的のあやかしにつく道なの。
 父様は人間よりあやかしに近くてほぼ全ての異界を網羅しているというわ。だけど、いたずらされて道に迷うこともあるから私にちゃんと着いてきてね」
 ダウジング石が左右に揺れて、ぴたりとどちらかに止まるとヤリのような先端が森の中の道を示すと目の前に道ができる。
「普通の道で目的のあやかしを探せば見つけるのに苦労するけどこれなら正確にみつけることできる。
 でも、個々のあやかしの異界はそのあやかしの領地だから何されるかわからないけれどね」
「現実よりも、危険なところに向かおうとしているんですね……」
 槐寿は顔を引きつらせていった。
「でも、愛しい人はそんな危険な場所に連れて来られて怖い思いをしているかもしれないわよ…絶対」
 橘は真剣にいう。
 幼い頃何度もあってその度に父や母にたすけられた。
「そうですね、無事であって欲しい…早く助け出さなくては…」
 槐寿は焦りを言葉に滲ませた。
「ほんと、すごいね、君の父上は……なかなかあの人に敵わないよ…手も足も出ないはずだよ」
 威津那は感嘆した。
(あやかしという穢れそのものが強すぎる……だからどんな呪術者が宮中に攻撃しても返り討ちにされるのか……)
 と、自分もその一人であるから尚更恐れ入る。
「父様は審神者で私より、あやかしに近くて、千年前活躍した稀代の陰陽師阿倍野晴明の生まれ変わりともいわれているのよ!」
 と、橘は自慢する。
 橘にとって父は誇りであった。
「では、母君は?」
 父ばかり自慢するが、母親のことも聞きたくなった。
 ……いずれ義母になる方だと思うからだ。
「母様もとっても美人で自慢の女神さまなのよ。」
「じゃあ、君は、人間じゃないの?」
 素で威津那はいった様子で、
「半妖だけど……あやかしの血筋なだけで、戸籍もちゃんとある人間よ?狐耳としっぽが夜になると出てきちゃうだけの」
 それはすでに人間じゃないと思うけど……という言葉を威津那は飲み込んで、前を歩く橘の尻尾を触る。
「きゃっ!な、なに!」
 橘は突然のことに顔を真っ赤にして振り向く。
 さらに毛を数本抜かれた気もする。
「本当に生まれつき黄色い狐なの?」
「なにそれ、黄色じゃいけないの?」
 意味不明な疑問に橘は不審に思う。
「白狐は神狐よ、半妖とは違うんじゃないの?……イズナ権現の縁故のものならわかるはずでしょ?」
 イズナ権現は狐を操る一族ということを踏まえて聞き返す。
「……………」
 赤い目を向けて黙る。
 その行動の意味がわからなさに、橘は少し慄く。
 怖いと感じる……
(なんで黙るの?質問ばかりして……
なんか、誘導尋問というか、話にのせられてる気がするわ……)
 逆に私が知りたいことを聞きいてみよう。
「ねえ、十年前、一度あったこと覚えてないの……?」
 管狐にするとか言ってごまかされたけれどもう一度聞いてみたかった。

「忘れてると思う……?」
 威津那は、口元をフッ静かに笑った。
 瞳は笑ってないのが怖いと思う。
 怒ってるわけではないみたいなのに、赤い瞳が真剣にこちらを捉えて……
(ゾクゾクしちゃうじゃないの!)
 橘はその瞳にも惚れてしまっていてなんとも微妙な気分になってしまう。
 威津那は愛おしげに橘を見つめて頬にそっと触れる。
 いやけに艶ぽい雰囲気だ。
「君は……僕の運命なんだよ……」
 その赤い瞳は今を見ていないと橘は思うと、赤い瞳が黒に変わって

「だから助けたんだ、助けに行ったんだ…君があのとき命を落としそうだったからね」
「故意的に助けてくれた……の?」
 橘はあの時の事を鮮明に思い出すことができた。
 毎日威津那を思わない日はなかったから、そして、あの日、何故か、危険だとわかっていたのに空襲の中をさまよっていた……
 どこかに行かなくては……と導かれていたと気がついた時には危険のまっただかにいた。
 そして、威津那に出会った……
 不思議な出来事…でも素敵な 出会いで今まで忘れられなかった……
 その、忘れられなかった思い人が今目の前にいる。
 威津那を見つめている。
「本気で、僕のものにならない?」
 橘の大きな狐の耳元でそう囁かれた。
 橘は顔を真っ赤にして、後ずさる。
「く、口説いてるの?」
「君に再び出会った時から、口説いてるんだけど……ここには他人の目がないからちょうど良いよね……」
「ち、ちょうどいいってなにが……」
「男女二人きり、誰も通らないような暗闇で、何もないとも思う?」
 首を傾げて悪気もなく微笑んでいう。
 殺気に似た鋭さと人を包み込むような優しい雰囲気が橘にさらなる戸惑いをさせる、焦らせる……
「はぁぁ?槐寿さんがいるから二人っきりじゃないわよ!な、なにいって、て……」
 悪ふざけに助けを求めるように槐寿をさがすが
「槐寿さん!?どこいったの?」
 いつの間にか、槐寿がいなくなっていた。
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