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橘と威津那の巡り合いと探り合い

9☆威津那の目的

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(無事に陰陽寮職員になれたけど、気が抜けない日々になりそうだな)
 几帳で仕切られた布団を敷くだけの狭い部屋を与えられた。
 特に持っているものは何もない。
 着の身着のままで陰陽寮につれてこられてしまった。
 懐に数枚の人形の式神を持っているのみ。
 その一枚に術をかけて心を覗かれないようにしている。
 紙はいくらでも陰陽寮ではもらえるようだった。
 陰陽寮に入り込む事は計画だったけれど……
 自分の心を覗くことができる陰陽師やら神の刀を扱う太刀の者、半妖で耳の良い陰陽寮長……そして一番の目的の阿倍野家の姫君…半妖の橘。
 赤い瞳で手のひらを見つめる。
 そうすると、自分の少し先の未来を見ることが出来る。
 それが威津那の特出すべき能力だった。
 赤い瞳で人を見れば大抵の人の運命は見ることができる。
 人ならば……
 だけど、半妖は未来が曖昧だと思う。
 自分の運命を見れば橘は白狐のはずだった。
 黄色い尻尾は特別な神狐ではない、単なる半妖なだけである。
 だからといっても父親の晴綛が単なる半妖ではない力を秘めている。
 イズナの家系は管狐を操り人の心を操ることができる。
 だが、半妖はまだ試してみたことがなかった。
 むしろ晴綛が半妖に会うのは初めてではあった。
 半分人間の狐を操ることできなかった。そのため油断して負けた。
 普段の人には見えないだろうが、小指に呪術の枷をつけられた。
 運命の赤い糸のようで笑ってしまう。
 本気を出せばこの糸を切ることはたやすい。
 けれど今はやらない……
 威津那には目的があるからだ。
 じっと赤い糸の先の壁の向こうに本物の運命の糸が繋がっている相手がいる。
(結婚するのは…あの子…橘なのに……)
 将来結婚する相手だと分かれば運命的なものを感じて可愛く愛おしく思うから、無意識に積極的に話しかけて親密になろうとしてしまう。
 橘は高良のように人の心を見えるわけではないのに、人の心を奥にある本心をつく言霊を矢のように放つ。
(面白い子だな…映像を見るだけでは声も性格もわからない……結果はわかっていても実際会うと目的が歪んでしまいそうになる……そのことを知っていて陰陽寮長は僕のことをわざと素知らぬふりをしているのかな……)
 娘の性格や性質をよく理解している。
 陰陽師は基本人の生まれで運命を占い、人の相性を確実に当てることができる者たちだ。
 その占いで陛下から宮中職員に至るまで占いで良き日に動くようにするのが陰陽寮の主な仕事なのだから。
 さらに陰陽寮長の晴綛は生まれた日にちを妖力なのか家系なのかで当てる。
 嘘の生年月日を言うことは無意味だとバカにされた。
 晴綛はニヤニヤしながら威津那を観察して、びしりと胸に指をさした。
「お前、絶対に、橘の尻に敷かれる生まれだな。どんなに人を裏切ろうとしても、橘がいれば何もできまい」
 そう、宣言をされてしまった。
 何故かそれは呪いに似た何かにも感じた。

(僕の目的は…九尾の狐を復活させて、この偽りの作くられた脆い平和に、混乱をもたらし、真なる祝皇を擁立する事……これは宿命なんだ…逆らえない決められた未来なんだ……)
 なんどもなんども、わざと洗脳されるように……
 闇落ちした忠義心を揺らがないように……
 それが、威津那の最大の力になる。
 それが……呪術師の家系の血筋の宿命だった。
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