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橘と威津那の巡り合いと探り合い

8☆家庭的な陰陽寮

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「ちょっと、高良くん、あれ誰?なんで橘をあんないやらしい目でみつめてるの?」
 橘を宮中見回りに誘いに来た桜庭咲羅子は声を震わせて高良に聞く。
「橘の心を覗いたら、あいつは橘初恋の君のようです」
 高良は暦を書きながら、香茂家の代々のテレパシー能力で二人を監視していた。
 
「えっ!あの人が橘がよく言ってた初恋の人?陰陽寮職員になって偶然じゃなくて運命なんて、ちょっとロマンチックすぎるんじゃないの?」
 乙女としては憧れる展開だけれども咲羅子の心は複雑だ。
 なんか嫌だ。
 それよりもそんな簡単に初恋の人に出会えるものなのかしら?と疑ってしまう。
「……計画なんじゃないのかな?」
 と高良はつぶやいた。
「高良くん?」
 真剣な表情な高良をみて咲羅子は首を傾げる。
「……あいつの…威津那殿の心を覗こうと思ったら、心を…思考の電波をシャットダウンしたんだ。」
「シャットダウン?その横文字わかんないわ」
 高良は横文字が大好きで良く多用するがわからない人にはわからない、伏せられた言葉みたいで多用するが、
「僕の能力でも心を読めない人間は多少はいる。たぶん、威津那殿は心を読まれないように訓練もされてる……」
「そうなの?それってすごいことなの?」
 二人はコソコソ話をするように小声で話す。
「邪法を操る一族だからそういう本心を読まれない訓練をしているのかもしれない……」
「……それって、怪しすぎない?」
 咲羅子は怪訝な顔をしてはっきり言う。
 高良は最もだと言うように頷く。
「邪法を使うやつは信用できないよ…
 宮中に仕える者は清廉潔白じゃないといけない。」
 高良はそういう信念を持っていた。
 だが、咲羅子はそこは意見は違う。
「そうも言ってられないわよ、いざというときには太刀の者の私達が穢を負うのよ。
 陛下を穢させないためにね。
 さらに、穢を恐れず守れる力も必要だと思うわ」
 刀は血の穢を伴う。
 たとへ、陛下を、国を守る事が義務だとしてもだ。
 さらに今や不敬罪は撤廃されて大義名分を奪われている。

(一昔前まで制裁には正当性が認められていたのに…めんどくさい世の中だ)
 ……と刀の神は思う。
 それは咲羅子も同意である。
 陛下の命を狙うものを確実に仕留めるための刀を扱うものだ。
 人であろうと人外であろうと容赦なく刀を振るい穢を請け負い断ち切る。
「桜庭の姫はすごいよ。僕もそこまで覚悟がほしい…そうでなくてはいけないのだけど……」
 陰陽寮長になることが夢の高良は晴綛が裏でやってる本当の事を知っている。
 晴綛を捉えようとした外法陰陽師の半分は妖力で操られている、それでも従わないものはこの世にもういない……
 それは宮中に忍び込んで陛下の命を狙うスパイ共にも同様だ。
 そういうことを陰陽寮や太刀の者はそうやって皇を守ってきた。
 非常の気持ちが宮中を守るのだ。
 非常じゃなければならないのだ……と覚悟を決めようとしているが……今回は威津那に対しては違う。

「宮中の穢を請け負う陰陽寮職員として、穢をわざわざ入れてはいけないと思う。」

 心に思っていることを強く言霊にしていった。瞳はまっすぐに…
「たしかにそうよね!」
 咲羅子は頷く。
 高良をすごく偉いなと思って坊主頭をなでる。
「頑張って陰陽寮長になってね。
 よりしっかりとした陰陽寮長にれるわよ」
 力強く期待を込めて励ました。
「そこ!ワシの悪口禁止な。」
 晴綛の狐耳には二人の会話が入っていた。
「悪口は言ってませんわよ。若き陰陽寮職員を優秀に育てておいでで、素晴らしいと褒めていたのですわ」
 咲羅子は声高にオホホと笑って言った。
「ふん。まだまだ、寮長の座を譲る気はないが、高良はほんっとうに歴代優れた陰陽寮長になること間違えないのは確かだな!」
 わざと、晴綛も大きな声で返す。
「そ、そんな大声で言わないでください恥ずかしいです……」
 高良は顔を赤くしてうつむき縮こまる。
「恥ずかしがることはない事実だ。
 ワシの自慢よ。はっはっはー」
 胸を張り明るく笑う。
 陰陽寮職員がくすくすと笑うと尚更恥ずかしがる高良だった。
「……陰陽寮って家族的な雰囲気あるよね。」
 和やかな雰囲気に威津那はそう苦笑して言った。
「そういうところ苦手なの?」
「呪術師は人を呪う分、多少なりとも自分にも周りにも不幸をもたらすんだ……そのためなのか和やかな雰囲気が苦手かな…」
「幸せが壊れるのは怖いから?」
 橘は威津那が言霊に出さない本心を直感的に口にした。
「……」
 直接的一番の図星を刺されて言葉を失い、無表情になる。
「それは、心が本当にやさしいのよ。だから。怖いのよ」
 橘の言葉は威津那を包み込むように優しい言霊だった。
「……呪術師をやめて、ちゃんとした陰陽寮職員一筋の仕事をして、幸せな家庭を君となら作れるかな?」
 威津那は固くなった表情が緩んで微笑んでそういった。
 それは、結婚の告白のような言葉に橘もドキドキし始める。
「えっ…えっ?それって…」
 その様子を威津那はニコニコ笑顔で見つめてくる。
「そういう家庭……?……はぁ?」
 と不審げな声を上げたのは咲羅子。
「気がない子に浮ついた言葉吐いてんじゃねーよ……」
 威津那の耳元で小声でドスをきかせた。
 威津那はビクリとして固まった。
 本心を言い当たられたからではない。
 本物の殺気を感じたからだ。
「そういう言葉は親密な関係になってから言いなさい?」
 咲羅子は鞘の端で威津那の顎を持ち上げて言った。
「僕もそう思う。」
 高良もそばに来て肯定する。
「はは、そうだよね。これから、君のこともっと知っていかなくちゃね?陰陽師の仕事も仲間のこともね。」
 威津那は頭をかいてごまかした。
「橘、宮中見回りに行くわよ!」
 そう言って橘を引きずるように陰陽寮を出ていった。
「あの子、怖いね。いつもああなの?」
 橘と教えるのを交代してくれた高良には訊ねる。
「いつもかどうかわからないけれど、刀の神の影響もあるらしいよ」
 それに加えて、妹分で親友の橘が男に取られるのがすっごく嫌なだけだと……心を覗かなくてもありありとわかった。

「刀の神の持ち主なのか…宮中は改めて不思議ですごいところなんだね」
「黒御足で、イズナの一族のあなたにそう言われても……」
「確かに、そうだね。なかなか能力使いって会うことないからこれも陰陽寮長に喧嘩売ったいい御縁だね。ありがたいよ」
 高良は威津那の心を覗こうと試してみるがやはり覗けなかった。
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