あやかしと神様の昔語り

橘と威津那の巡り合いと探り合い

5☆香茂高良

「陰陽寮で不謹慎なことは禁止です。
　陰陽寮長もキリッと占めてください。」
　後ろから三人の様子を見ていた香茂高良かもたからが注意する。
　細面で色白く、つり上がった眉と目つきの鋭い十五歳の学ランを着た美少年だが残念なことに丸坊主だった。
「高良、来てたんだ。学校は？」
　高良は鼻でハン！と鼻で馬鹿にしたように笑い、
「あんな、反日教育受けてられるか。吐き気がして中退してきた」
　淡々とため息まじりに高良は言う。
　橘は体質が体質なために、教師をやっている五歳上の姉三人に勉強を教えてもらって行ったことはない。
　桜庭咲羅子はお嬢様で女学校は一応卒業したが教育がおかしくて辟易していた。
　高良もそうなのだ。
　十年前に国を愛するための教育は一切失われて、日和は悪い国と教わっているようだ。
　国や陛下や皇族を愛する宮中職員の学生には苦痛でしかない。
　むしろ信じきってしまっては皇室を守れない。
　宮中に務めるものは高校までの資格を取る愛国教育をできる特殊教育を行っている。
　世間体だけの学校入学なだけだ。
　だが、一般人には着実に反日思想教育が施されて日和国を滅ぼす要因になりそうだと高良は尚更大きなため息を吐く。
　こっそり易占いで未来を鑑定しても将来の学業に絶望しかない。
　教師になって糺すより、高良には志がある。
「将来の陰陽寮長になるために学校よりもこっちが優先だし、ライバルが入って来たなら追い落とさなければ、ならない……」
　静かにそう言って、鋭い瞳をさらに釣り上げて、威津那を睨む。
　高良は威津那が只者ではないと確信しているからだ。
　陰陽寮長の座など勉強をして本気を出せば取れるほどの実力と呪力をもっていると感じる。
　陰陽寮長だけのことじゃない、高良は橘をひそかに憧れていた。
　いつも遊んでくれる親戚のお姉さんという憧れと思春期からの淡い恋心だった。
「だが、ライバルはいたほうがいい。切磋琢磨するにはな…ふん」
　高良は大人ぶってそういう。
「ライバル？」
　橘は首を傾げる。
「好敵手のこと、学校で今はやってる向こうの国の言葉だな。」
「面と向かって、好敵手だって言うのなんだか照れるもんね！」
「そ、そういうことは、言わないでくれ！頼むから」
　橘は変に感がいいし、直接的なので、高良は度々困る。
「……僕、向こうの言葉嫌いかな…」
　威津那は笑顔が消えていた。
「……それはすまない。」
　と高良は謝りながら、ほくそ笑んだ。
　香茂家は意地悪をすることが好きなので嫌がらせができる弱点を見つけるのは基本好物だ。
　そのことをなんとなく気がついた威津那はザリザリな坊主頭をなでて、高良に本気で手を払われた。
　それでも無言で頭を撫でようとする威津那にとうとうキレた高良は容赦なく鳩尾に拳を入れて黙らせた。
「いい加減にしてくださいね、次は式神を使って身動きできなくするからな！」
　最終的に口の悪さが出ている高良だった。
「フフ、今度お手合わせ願うよ」
　威津那は高良を完全にからかっていた。
「威津那さんって初対面なのに遠慮ないわね」
　子供みたいな二人の応酬に橘はくすくす笑った。