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桂と薫と野薔薇の異界探検
5☆黒狐さま
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「か、桂くんと薫くんが迷子になってしまいました……」
野薔薇の声は戸惑い焦っていた。
暗い世界だとは想像をしていなかったようだ。
初めて異界に入り込んだのは夕方ごろ。
そのために、朝日が昇るように薄暗いが、灯りが照らされていた。
(だから怖くなかったのに……)
一人になると心細くなってウルッと涙が出て来た。
「うぇっ……どうしよう…迷子でつ…迷子はやだヨォ……」
いつも陽気で強気な野薔薇でも寂しいのは一番嫌なのだ。
さらに一人ぼっちで行く道もわからなくて後悔に苛まれる。
「私のバカ!安易なこと言ってこんなことになるなんて!ほんっとばかやろうですぅうう!」
と、独り言を叫ぶように癇癪をしていると、
「お前は女の子なんだから野郎ではないだろ」
「ふぇ?」
声がした方を見上げると、頭上に灯りが照らされていた。
手のひらから狐火を出し、癖っ毛の強い短い黒髪に狐の黒耳黒尻尾を生やした長身の男の人…野薔薇が探していた『黒狐さま』だった。
「まったく…つい、さっき送ったばっかなのにまた迷い込んだのか?」
呆れた調子で前髪をかき上げて黒狐さまは、しゃがんで野薔薇の涙を優しく拭う。
「ふぇ?」
野薔薇はまた同じ、言葉にならない音を再び発して首を傾げて黒狐さまをみつめる。
「……黒、狐さま?」
「また、迷ってきたのか?振袖を着てるな……お前の時間では半年過ぎたのか?」
黒狐さまは顎に手を当てて考える。
「はい!もう半年経っているんですよ!」
野薔薇は瞳をキラキラさせて言う。
半年ぶりの再会に野薔薇は感動しているのだが、黒狐さまは複雑な顔をした。
「一時間もしない間に私はお前と再会してしまった……」
「え、そうなのでつか、感動の再会は私だけでつか……」
野薔薇だけ感動していることにしゅんとする。
「いや、また逢いたいと思っていた…だから嬉しい」
そう言って、ふっと笑い優しくポンポンと頭を撫でる。
「私もとっても嬉しいでつ!」
野薔薇は満面の笑みをして、黒狐様の腕に遠慮なく抱きついた。
「で、今度こそ一緒に現世に帰りましょう!私一人だけ、じゃ、なくて……!はうっ!」
野薔薇はだんだん青ざめる。
「どうした?」
「私、桂くんと薫くんを迷子にさせてしまったんでつ……」
「野薔薇の弟分のすごい従兄弟か?」
「はいっ!現世に黒狐さまを連れて帰る前に見つけ出さなくてはなりません!」
「そうか、その二人も野薔薇のように泣いてるかもしれんからな。早く見つけてやらねばな……」
黒狐さまは野薔薇を抱き上げて真っ暗な異界を狐の金の瞳に輝かせて辺りを見回す。
浮遊する形なきあやかしたちは見えるが、迷子の二人の姿はやはり見えない。
いや、それどころか、野薔薇を再び現世に帰らせる術も実はない。わからないのだ。
野薔薇を返せたのは野薔薇の異界を迷いなく歩ける能力のおかげだが、なぜだか黒狐さまだけ弾かれこのまま彷徨っている。
理由はわかる。
神誓いを失敗したせいだと……
だが、幼い野薔薇にその事を告げてもわからないだろうと思い黙る。
「黒狐さま…?」
不安な顔をしてじっと野薔薇はこちらを見つめてくる。
これ以上不安にさせてはいけないと思う。
「大丈夫だ。お前たちだけは現世に帰らせてやるから…」
「黒狐さま、あそこ!光ってます!こっちに向かってきます!」
野薔薇は白く光を放ち向かってくる何かを指差す。
「……白狐?」
黒狐さまは不思議そうに…だが、希望の光のように感じた。
野薔薇の声は戸惑い焦っていた。
暗い世界だとは想像をしていなかったようだ。
初めて異界に入り込んだのは夕方ごろ。
そのために、朝日が昇るように薄暗いが、灯りが照らされていた。
(だから怖くなかったのに……)
一人になると心細くなってウルッと涙が出て来た。
「うぇっ……どうしよう…迷子でつ…迷子はやだヨォ……」
いつも陽気で強気な野薔薇でも寂しいのは一番嫌なのだ。
さらに一人ぼっちで行く道もわからなくて後悔に苛まれる。
「私のバカ!安易なこと言ってこんなことになるなんて!ほんっとばかやろうですぅうう!」
と、独り言を叫ぶように癇癪をしていると、
「お前は女の子なんだから野郎ではないだろ」
「ふぇ?」
声がした方を見上げると、頭上に灯りが照らされていた。
手のひらから狐火を出し、癖っ毛の強い短い黒髪に狐の黒耳黒尻尾を生やした長身の男の人…野薔薇が探していた『黒狐さま』だった。
「まったく…つい、さっき送ったばっかなのにまた迷い込んだのか?」
呆れた調子で前髪をかき上げて黒狐さまは、しゃがんで野薔薇の涙を優しく拭う。
「ふぇ?」
野薔薇はまた同じ、言葉にならない音を再び発して首を傾げて黒狐さまをみつめる。
「……黒、狐さま?」
「また、迷ってきたのか?振袖を着てるな……お前の時間では半年過ぎたのか?」
黒狐さまは顎に手を当てて考える。
「はい!もう半年経っているんですよ!」
野薔薇は瞳をキラキラさせて言う。
半年ぶりの再会に野薔薇は感動しているのだが、黒狐さまは複雑な顔をした。
「一時間もしない間に私はお前と再会してしまった……」
「え、そうなのでつか、感動の再会は私だけでつか……」
野薔薇だけ感動していることにしゅんとする。
「いや、また逢いたいと思っていた…だから嬉しい」
そう言って、ふっと笑い優しくポンポンと頭を撫でる。
「私もとっても嬉しいでつ!」
野薔薇は満面の笑みをして、黒狐様の腕に遠慮なく抱きついた。
「で、今度こそ一緒に現世に帰りましょう!私一人だけ、じゃ、なくて……!はうっ!」
野薔薇はだんだん青ざめる。
「どうした?」
「私、桂くんと薫くんを迷子にさせてしまったんでつ……」
「野薔薇の弟分のすごい従兄弟か?」
「はいっ!現世に黒狐さまを連れて帰る前に見つけ出さなくてはなりません!」
「そうか、その二人も野薔薇のように泣いてるかもしれんからな。早く見つけてやらねばな……」
黒狐さまは野薔薇を抱き上げて真っ暗な異界を狐の金の瞳に輝かせて辺りを見回す。
浮遊する形なきあやかしたちは見えるが、迷子の二人の姿はやはり見えない。
いや、それどころか、野薔薇を再び現世に帰らせる術も実はない。わからないのだ。
野薔薇を返せたのは野薔薇の異界を迷いなく歩ける能力のおかげだが、なぜだか黒狐さまだけ弾かれこのまま彷徨っている。
理由はわかる。
神誓いを失敗したせいだと……
だが、幼い野薔薇にその事を告げてもわからないだろうと思い黙る。
「黒狐さま…?」
不安な顔をしてじっと野薔薇はこちらを見つめてくる。
これ以上不安にさせてはいけないと思う。
「大丈夫だ。お前たちだけは現世に帰らせてやるから…」
「黒狐さま、あそこ!光ってます!こっちに向かってきます!」
野薔薇は白く光を放ち向かってくる何かを指差す。
「……白狐?」
黒狐さまは不思議そうに…だが、希望の光のように感じた。
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