あやかしと神様の子供たち

花咲蝶ちょ

文字の大きさ
上 下
33 / 56
桜姫と狐姫

2☆姐さん

しおりを挟む
 それは夏の暑い盛りの昼下がりだった。
 桜庭の宮家の姫ならば召使いが、迎えに来てお車で邸に送り届けることは通常だろうが家訓で
《皇を守る宮の一族として常に気を張り自らの身はなるべく己で守れ!》
 という教えがあり、咲羅子は幼いながらもその伝えを守っている。
 桜庭の宮家と滝口家は古くから血が行き来していた。
 母の実家である滝口家は代々宮中を守る武士の家系でその屋敷の、道場で毎日剣や武術を習得することを目指している。

 なので、歩いて三十分の道のりを修行だと思い一生懸命あるいて帰るのだ。
 そして、照りつける太陽を避けるために滝口家の道場帰りには、昼でもうすぐらい神社を通って家路に帰ることにしている。
 人目のないところは危ないからと人通りの多い道を通って帰ってこいと季節にいわれているが、少しでも涼を感じたいし、もしかしたら腕試しになるかもしれないと思うと胸が高鳴るのは背中に背負った、桜庭家の血筋を引く代々女子にしか受け継がれない退魔の太刀を持っているからだ。

 まだ見たこともない人に仇なす、あやかしをこの手で仕留めてやりたいと心躍らしている。
「でも、神社なんだから、現れるとしたら神様よね?でも…神社も異界の入り口だし、ここはおいなりさんの神社だから悪いお狐様もいるわよね!きっと!」
 神社には咲羅子一人しか今の所いないみたいだから、心に溜まった思いをひでりごととして吐き出していたら……
「ねえっ!」
 突然背後から、声をかけられて、
「ひっ!」
 ビックリして鳥肌が立ったと同時に背中の刀の柄に手をかけ、振り向く。
「ねえ、いつもここ通ってるよね?」
 甘栗色のようで黄色髪に巫女装束のような、狩衣に朱の袴を着た女の子がおずおずとした感じで、訪ねてきた。
(外人さんとの間の子なのかな?)
 と、瞬時に思う。
 今は海外とつながり外国の人のエライ人と結ばれて、この日和で骨を埋める人もいれば、その逆もしかり。
 珍しいことではないと聞いていたが……目の前の女の子は日和人特有の黒髪ではないことに咲羅子は無意識に警戒してしまった。
「わ、私とお話はいや?私のこと怖い?」
 咲羅子の思ったことを察したらしく、今にも泣きそうな女の子の手を急いで取り、
「ううん!怖くないわ!珍しいこと女の子と思っただけよ」
 私は正直の気持ちを強く伝えて瞳を合わせる。
「ほんと?」
「ええ、怖くない証拠に私と遊んでくださる?」
「それ、私が言おうと思ってたのーっ!」
 女の子は泣きそうな顔を頬を染めて微笑んだ。
 その表情は今も変わらずかわいいと思う。
「私の名前は桜庭咲羅子、あなたは?」
「わたしは、阿倍野橘!よろしくね、咲羅子おねえちゃん!」
「ちょっとまって、あなた何歳?」
「七歳」
 一歳違うと言えど咲羅子の方が年上のためお姉さんぶりたいが、対等の友達にもなりたい……
「私は八歳だからお姉さんで間違えないけど……咲羅子姐さんって呼んでいいわよ?」
「ねえ?おねえじゃなく?」
「うん。《姐さん》という強い感じがかっこいいからね!」
「さきらこねえさん…!かっこいい!」
 橘は瞳をキラキラさせてこちらをみて興奮する様も可愛くて、妹が欲しかった私は満足で橘の手をとって神社の境内で隠れんぼ、鬼ごっこ、などありとあらゆる遊びをした。
 道場から帰るとお嬢様教育が待っていて,普通の遊びと,気負いなくおしゃべりがとても楽しかった。
 橘と本物の姉妹以上の縁を感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

京都かくりよあやかし書房

西門 檀
キャラ文芸
迷い込んだ世界は、かつて現世の世界にあったという。 時が止まった明治の世界。 そこには、あやかしたちの営みが栄えていた。 人間の世界からこちらへと来てしまった、春しおりはあやかし書房でお世話になる。 イケメン店主と双子のおきつね書店員、ふしぎな町で出会うあやかしたちとのハートフルなお話。 ※2025年1月1日より本編start! だいたい毎日更新の予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

処理中です...