あやかしと神様の子供たち

花咲蝶ちょ

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運動会☆後編

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 ついに運動会当日。
 空は朝から晴天で、風も涼しく運動会を楽しめと神様が言っているようだ。

 父と母は夫婦仲良く毎年イベント事には盛大なお弁当を作り、ママ友と仲良く学校行事を手伝い子供の活躍を楽しみにしている。

 更に祖父母も張り切って応援に来るらしい。
 祖父は晴房に今や全てを任せて自由ができたようだ。
 子どもたちのイベントごとに参加できなかったぶん両親以上に張り切っていた。

「みんなが楽しみにしてるんだから、その期待に答えなきゃだね!」
 桂は自分に鼓舞する。
 その頭をポンポンと大きくて優しい父の手が撫でる。
「だけど、無理はするなよ?お前が楽しんでる姿を見るのが一番の楽しみなんだからな?」
「うん!」
 父にそういってもらえると、尚更励みになった。
 リレーのアンカーが決まった時はイヤイヤだったけれど、今日はとても楽しいことが起きる気がする。
(ううん!僕がそうするんだ!)
 桂はそう決心して、薫と共に学校に向かった。

 借り物競争や、障害物競走、の他に、組体操や綱引き、玉入れ、二人三脚、鼓笛パレード。

 運動会はみんなで練習して親の歓声をうける。
 誰しも親を意識する。
 親も子供の成長を素直に喜び応援する、親子の一大イベントともいえるものだと桂は改めて思った。
 そう思うと、やはりかーさんとーさんには喜んでもらいたい。
 大切な親の励みは力になるからだ。
 だが、弟の薫は応援関係なしに活躍した。
 玉入れは落とさず入れるし、親子綱引きは薫の妖力を抑えることをコントロール出来ないため、一人で引っ張り引きずり、リレーでは一人で走る。
 さすがに、瑠香も葛葉子も祖父母も苦笑いするしかなく、その反応に薫は不服だ。
「薫は凄いけど、もっとみんなと楽しむことを覚えような?」
 母にぎゅっと抱っこしてもらって諭されて薫の不服さは薄らいだ。
「ダンスは薫が一番うまかったぞ!才能あるぞ」
 と、祖父が思いっきり褒めた。
 桂は、にぱーと可愛く笑って、母の特製特大おにぎりを貰って満足だった。

 桂は弟の身体能力が羨ましいと思うが、運動会というのは改めてみんなで楽しむものだと思った。

 お昼終わって、教員と親で行う綱引き大会があった。
 もちろん、薫に注意したにも関わらず、あやかしである母が妖力を使って教師チームに勝った事は言うまでもない。
 父は人混みが苦手なので、観覧席で応援していたが、若くて美しい母にちょっかいを出してくる不貞な輩を睨み牽制していた。
 葛葉子に触れようものなら呪いをかける勢いだった。
 毎年そんな輩が出てくるので、葛葉子の後をくっっいて歩く姿はおしどり夫婦だが、神秘的な父にちょっかいを出してくるよその母親にイライラしている。
 ママ友の邪魔ばかりする父にもイライラして裏でケンカになってしょぼんとして帰ってくる父に苦笑いをすることは毎年のことになっていた。
 そんな毎年のことが続かない事が分かっているから桂は切なく思う。
(だからこそ、今日は頑張るんだ……でも緊張してくる……)
 桂は緊張を抑えるために密かにぎゅっと拳を作る。
 意気込む息子の桂の手首に青とオレンジとグリーンの鮮やかな色で編み込まれた紐を結ぶ。
 しかもオレンジ系の元気の出る香りがする。
「リレーで一位取れるように願ったミサンガだ。」
 サッカーが流行ってミサンガが流行ってた。
 ミサンガは切れると願いがかなった証だと言う言い伝えだ。
 父が作ったなら……
「神呪いはいらないよ?」
 努力してないって言われているような気分で不満だった。
「入ってない、しかも切れない家族の襷だよ。ミサンガとは真逆だから腕輪の襷みたいなものかな?」
「タスキ?」
 襷は斜めがけする紐のことだけど、腕輪かタスキになり得る訳ないので首を傾げる。
「家族の魂が入った襷代わりだ。みんなでこの一週間頑張っただろ?その証だ」
 父は優しく微笑んでそういった。
 母はニコニコと、父子のやり取りを微笑んで、
(菊のお守りみたいなものかな?緊張とか色々ほぐしてくれる瑠香のおまじない……)
 当時のことを思い出してニヤニヤしている。

「勇気出たか?緊張したらこの香りを嗅ぐんだぞ?」
「うん」
 よく緊張する自分のために作ってくれたと思うと心が温まるほど嬉しかった。
「襷というものは魂がやどる呪具だからな家族の魂が入ってるってことだな」
 と、陰陽寮長の祖父が言った。
「アンカーの襷も、そういうことなのかー……クラスみんなの思いと家族の思いに応えてみせるよ!」

 あと練習した自分の力にも……

 青いハチマキを額に巻き、襷をして気合を入れた。



「アンカーは桂くんでしたか……」
 赤いハチマキと襷をした幼なじみの野薔薇はちょっと勝ち誇った表情をした。
 今年の桂と野薔薇はクラスが違う。
 幼なじみで今でも暇さえあれば一緒に遊んでいる仲で知らないことはほとんどない。
 双子の姉弟のような関係だ。
 お互いにアンカーにさせられて、運動会ではライバルだから互いに遊ぶなよ?と釘も刺されて久々の会話だ。
 この運動会が終わったらまた遊ぼう!とは約束はしているけれど、別々のクラスだと言うだけでライバル意識が湧くものだった。
「桂くんには負けませんよ!」
 野薔薇は一応ライバル宣言みたいのをスポーツ漫画の読みすぎて言ってみた。
 そしてさらに手を差し出す。
「うん!僕だって」
 がっしりと握り合う姿は男同志の友情みたいなイメージだと互いに思う。
 他にもアンカーで早そうな子達がまだかまだかと、屈伸したり準備体操をしていた。
 野薔薇は足が早い。
 いや逃げ足が早いのは知っているが……
 次々にリレーでクラスメイトが走ってきて、桂の番になったらギリギリの最後尾だった。
 これで負けても仕方がないほどの接戦差でバトンを渡される。
 バトンを渡された時にはほかのクラスメイトの背中がゴールを目指してとうのいていた。
「後、ごめんね、遅くなっちゃって……」
 桂にバトンを渡す女子生徒は途中転んで失速した。
 膝から血が出ている。
 それでもギリギリまで追いついてバトンを渡してくれたと思うと
「君の分まで頑張るよ!」

 といい、バトンを取った瞬間、太ももの筋肉が上がるのを意識して腕を一生懸命振りながら走る。
ゴールまで、目の前を走っていた生徒を内側から抜いた。

 わぁぁぁと歓声が上がる。

 ごぼう抜きをしているすごい桂にアナウンスしている委員や見学している父兄の歓声が凄かった。

 その大勢の歓声の中によく知っている声が聞こえる。

「桂ァァァァァ!頑張れぇぇえ!桂ァァァァァ!」
 力いっぱい大きな声で応援する母の声は励みになった。
 さらに足が軽くなって早くなるのを感じる。
 次々に抜いて、一番を目指していた野薔薇をギリギリで抜いて白いゴールテープをお腹に感じてやり遂げた感で胸がいっぱいになって、涙が出た。

 努力をしてよかった。
 母の強い声援を貰えた。
 最高の運動会になった。

「よくやったな!こんなすごい走りをするやつだなんて、知らなかったぞ!」
「わー!桂くん凄い!勉強もできて運動もできるなんて!
かっこいい!」
 桂に期待をしていなかったクラスメイトとも団結して仲良くなった。
 その後、母が望むような仲良しクラスになった。

「桂くんは凄いでつね………初めてかけっこで抜かれました悔しいでつ。ちっ!」
 本気で悔しがる。
「でも、また明日から仲良く遊びましょ?それがスポーツマンシップでつ!」
 そういってまたガシッと握手をする。
 桂の手首にあるミサンガの香りが鼻をくすぐり、父がよく頑張ったと褒めてくれた気がした。



 そして、家に帰ってから一日中葛葉子と桂はベッタリな一日を過ごすのだった。
 むしろ、葛葉子が
「桂は凄い!偉い!可愛い!」
 と言って抱っこして離さない。
「かーさん、も、もうちょっと離れてよォ、ちかいよぉ。」
「いいの!一日ベッタリする約束なんだから!」
 といって、葛葉子は瑠香をちらっと見る。
 ヤキモチを妬く、夫の表情も好きだからだ。
 瑠香はその事を知ってフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「とーさんには薫がいるからいいもん。」
 瑠香は息子の薫をぎゅっと、あくらの上で抱きしめてわざと不貞腐れる。
 息子にヤキモチを焼いてるんだぞアピールは余裕の証。
 余裕がなかったら、こんな態度じゃない。
「俺も、かーたんを、独り占めしたい。とーさんひとりじめもうれしいけど、かーたんがいい。」
 と、父子揃って不服顔する。
「えへへ。羨ましいでしょ?」
 といって久々に母の胸に抱きついた。
 桂のほんとに幸せそうで嬉しそうな顔を見て、
(桂が幸せなら一日くらいいいか……)
 と思う瑠香だった。
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