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白昼夢(感染)
「ループの世界」の終焉
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目を覚ますと、ベットの中で天井を見上げていた。
午前七時前。
いつもならば五分は眠気を引きずっている太一だったが、この時ばかりは意識がはっきりとしていた。
「……思い出した」
驚愕の表情で、一人、部屋の中を見渡しながらつぶやいた。
“彼女”の説明と、取り戻した記憶で、誰がこの世界を創ったのかが理解できた。そして、その理由も。
推測だが、おそらく間違いないだろう。
記憶を思い出せば、“彼女”はこの世界から抜け出せると言っていたが、もうすでに“明日”になっているのだろうか。
カレンダーを見るがわからない。ニュースを見ればわかるが……。
思考を整理している間に、時計は七時半を回っていた。
もうそろそろ、いつものように、鈴女が迎えに来る時間だ。
玄関を開けた時、“今日”と違う挨拶なら繰り返しの世界から抜けられたという証拠だが。
淡い期待をしつつも、頭の中ではなんとなく予想はついていた。
ピンポーン
急いで食事を終わらせてから制服に着替え終わると、鈴女が迎えのチャイムを鳴らす。
「おはよう!太一くんっ、昨日の『スマートにスマッシュ!略して<<スマスマ!>>』見た?ラスト、感動しちゃったよっ」
で す よ ね
D・E・S・U・Y・O・N・E
やはり、今日も“今日”だった。
思い出さないといけないのは、僕ではなく、この世界を生んだ人間だ。
「いってきます」
「あ、太一、今日は夕方から雨が降るっていうから早く帰ってくるか、折りたたみ傘を持っていきなさいね」
「はーい」
母に挨拶をしてから、鞄を肩にかけると、覚悟を決めて駅まで歩き出した。
いつものように、鈴女の話に相槌をうち、いつも使う通学路でチンピラにぶつかって、ひたすら謝る。
風で舞う女子高生のスカートを目で追っていると、「エッチ!」と鈴女に鞄で殴られ、駅の改札口では定期券とゲーセンのカードを間違えて機械を止めてしまう。
うん。いままでは意識的に避けてきた“今日”の朝だ。
「なんか、今日はツイてないね」
鈴女がなぜか不安そうな顔で見つめる。
「よう。太一とすずちゃん」
いつもの電車には当然のように新谷直哉がいた。
「聞いたか?静矢が自分をストーカーしてた女と付き合うってさ」
「ええーっ、マジかよ!」
「ありえるか?」
「いや~、どうだろ。可愛いなら考えるけど」
「ストーカーする女がもしお前を好きになったらやべえぞ。いつもすずちゃんが側にいるから狙われちゃうかもな」
「おいおい、脅かすなよ」
いつものように、直哉と馬鹿話をする。
呼び戻した記憶を頼りに“今日”の会話をそっくりそのまま再現できた。
「…………」
「どうしたの?」
いつもより無口な鈴女を、直哉が心配そうに問いかけた。
「ううん」
否定するが、少し顔色が悪い。
無意識的に太一が何を考えているのか理解したのだろうか。
「あ、僕はコンビニ寄ってから行くよ」
「おう。俺は先行ってるな。すずちゃんはどうする?」
「う、うん。私も太一くんとコンビニ寄ってから行くよ」
「そうか」
二人でコンビニに入り、真っ先にジュースを買うと、今日発売の漫画雑誌を手にとる。
「太一くん。もう行かないと……」
「まだ大丈夫だよ。これだけ読ませてくれ」
「だめだよっ!」
いつもの鈴女らしくない、強い口調で言うと、返事も聞かずに太一の腕を掴んで学校へ連れて行こうとする。
「わかった。わかったから」
しぶしぶコンビニを出ると、近くに自転車が落ちているのに気づいた。
「さぁ、早く行こうっ」
鈴女はコンビニから出ても腕を離さず、太一に自転車を見せないように、急ぎ足で引っ張る。
それに気づいていたが、太一には覚醒させるために言うしかなかった。
「あ、あんな所に自転車が。あれに乗れば学校に早くつく……」
「だめっ!」
さらに腕を掴む手に力をいれ、ぎゅうっっと押さえ込み、自転車へ行かせないよう、激しく拒絶した。
「あ……あれに乗ったら……た、太一くんは……」
「やっぱりお前か。この世界を創ったのは」
「わからない……でも、あの自転車はだめ。怖いの。なんだかわからないけど……あれに乗ったら、太一くんがいなくなっちゃいそうで……」
電車からコンビニへ行き、自転車に乗るというキーワードで少しずつ、太一に起きる悲惨な場面を思い出したのだろう。
鈴女はつらい現実に戻されたかのように、身体を震わせていた。
かわいそうだと思ったが、太一はこれを狙っていた。
自分がトラックに撥ねられることで、この世界を創ったのは自分だと思い出してもらい、現実に戻るために。
落ちていた自転車に乗って、楽をして学校に行こうとした太一が悪いのだ。
太一のせいで、鈴女がこの世界にこもったままで、一生をおくるなどとあってはいけない。彼女が罪の意識に苛まれる必要などないのだ。
「これは……僕のせいだということはわかっている。責任はとる。だから現実の世界へ戻ってくれ」
「だめ……あれで生きているはずがないよ……。あんなにたくさん血が出てたのに……」
泣き崩れる鈴女に、太一は優しく首をふる。
「そんなことはない。救急車の中で意識はあったんだ。助かったはずだよ」
不安がないわけではない。なぜ、自分が鈴女の世界で記憶があるのか。もしかしたら、自分は死んで、魂だけが彼女の世界へきてしまったのではないかという懸念はある。だが、何をおいても、鈴女だけは現実に帰さないといけない。
「現実に戻っても、太一くんは私より先輩のほうがいいんでしょう?実は、太一くんに内緒で会ったことがあるの……」
なるほど。そこから感染したのか。
「いや、先輩にはフラれたし、心の整理はついた。もう二度と会うことはないよ」
涙を流す鈴女に、太一はキスをした。
「…………」
いきなりのキスに、鈴女は目を見開いて驚いたが、怒るわけでもなく、黙って応じた。
「……お前のことはずっと幼馴染としてしか見てこなかった。でも、これからは一人の女の子として、僕とつきあってほしい。だから一緒に現実で生きてくれないか?」
「うん。……わかった」
すると、鈴女の心が開放されたのか、2人の目の前に、空間にひずみが生じて、真っ白い、光を帯びた、扉のような穴が開いた。
「……行くぞ?」
鈴女の身体を支えるように起こし、光の中へと入って行った。
午前七時前。
いつもならば五分は眠気を引きずっている太一だったが、この時ばかりは意識がはっきりとしていた。
「……思い出した」
驚愕の表情で、一人、部屋の中を見渡しながらつぶやいた。
“彼女”の説明と、取り戻した記憶で、誰がこの世界を創ったのかが理解できた。そして、その理由も。
推測だが、おそらく間違いないだろう。
記憶を思い出せば、“彼女”はこの世界から抜け出せると言っていたが、もうすでに“明日”になっているのだろうか。
カレンダーを見るがわからない。ニュースを見ればわかるが……。
思考を整理している間に、時計は七時半を回っていた。
もうそろそろ、いつものように、鈴女が迎えに来る時間だ。
玄関を開けた時、“今日”と違う挨拶なら繰り返しの世界から抜けられたという証拠だが。
淡い期待をしつつも、頭の中ではなんとなく予想はついていた。
ピンポーン
急いで食事を終わらせてから制服に着替え終わると、鈴女が迎えのチャイムを鳴らす。
「おはよう!太一くんっ、昨日の『スマートにスマッシュ!略して<<スマスマ!>>』見た?ラスト、感動しちゃったよっ」
で す よ ね
D・E・S・U・Y・O・N・E
やはり、今日も“今日”だった。
思い出さないといけないのは、僕ではなく、この世界を生んだ人間だ。
「いってきます」
「あ、太一、今日は夕方から雨が降るっていうから早く帰ってくるか、折りたたみ傘を持っていきなさいね」
「はーい」
母に挨拶をしてから、鞄を肩にかけると、覚悟を決めて駅まで歩き出した。
いつものように、鈴女の話に相槌をうち、いつも使う通学路でチンピラにぶつかって、ひたすら謝る。
風で舞う女子高生のスカートを目で追っていると、「エッチ!」と鈴女に鞄で殴られ、駅の改札口では定期券とゲーセンのカードを間違えて機械を止めてしまう。
うん。いままでは意識的に避けてきた“今日”の朝だ。
「なんか、今日はツイてないね」
鈴女がなぜか不安そうな顔で見つめる。
「よう。太一とすずちゃん」
いつもの電車には当然のように新谷直哉がいた。
「聞いたか?静矢が自分をストーカーしてた女と付き合うってさ」
「ええーっ、マジかよ!」
「ありえるか?」
「いや~、どうだろ。可愛いなら考えるけど」
「ストーカーする女がもしお前を好きになったらやべえぞ。いつもすずちゃんが側にいるから狙われちゃうかもな」
「おいおい、脅かすなよ」
いつものように、直哉と馬鹿話をする。
呼び戻した記憶を頼りに“今日”の会話をそっくりそのまま再現できた。
「…………」
「どうしたの?」
いつもより無口な鈴女を、直哉が心配そうに問いかけた。
「ううん」
否定するが、少し顔色が悪い。
無意識的に太一が何を考えているのか理解したのだろうか。
「あ、僕はコンビニ寄ってから行くよ」
「おう。俺は先行ってるな。すずちゃんはどうする?」
「う、うん。私も太一くんとコンビニ寄ってから行くよ」
「そうか」
二人でコンビニに入り、真っ先にジュースを買うと、今日発売の漫画雑誌を手にとる。
「太一くん。もう行かないと……」
「まだ大丈夫だよ。これだけ読ませてくれ」
「だめだよっ!」
いつもの鈴女らしくない、強い口調で言うと、返事も聞かずに太一の腕を掴んで学校へ連れて行こうとする。
「わかった。わかったから」
しぶしぶコンビニを出ると、近くに自転車が落ちているのに気づいた。
「さぁ、早く行こうっ」
鈴女はコンビニから出ても腕を離さず、太一に自転車を見せないように、急ぎ足で引っ張る。
それに気づいていたが、太一には覚醒させるために言うしかなかった。
「あ、あんな所に自転車が。あれに乗れば学校に早くつく……」
「だめっ!」
さらに腕を掴む手に力をいれ、ぎゅうっっと押さえ込み、自転車へ行かせないよう、激しく拒絶した。
「あ……あれに乗ったら……た、太一くんは……」
「やっぱりお前か。この世界を創ったのは」
「わからない……でも、あの自転車はだめ。怖いの。なんだかわからないけど……あれに乗ったら、太一くんがいなくなっちゃいそうで……」
電車からコンビニへ行き、自転車に乗るというキーワードで少しずつ、太一に起きる悲惨な場面を思い出したのだろう。
鈴女はつらい現実に戻されたかのように、身体を震わせていた。
かわいそうだと思ったが、太一はこれを狙っていた。
自分がトラックに撥ねられることで、この世界を創ったのは自分だと思い出してもらい、現実に戻るために。
落ちていた自転車に乗って、楽をして学校に行こうとした太一が悪いのだ。
太一のせいで、鈴女がこの世界にこもったままで、一生をおくるなどとあってはいけない。彼女が罪の意識に苛まれる必要などないのだ。
「これは……僕のせいだということはわかっている。責任はとる。だから現実の世界へ戻ってくれ」
「だめ……あれで生きているはずがないよ……。あんなにたくさん血が出てたのに……」
泣き崩れる鈴女に、太一は優しく首をふる。
「そんなことはない。救急車の中で意識はあったんだ。助かったはずだよ」
不安がないわけではない。なぜ、自分が鈴女の世界で記憶があるのか。もしかしたら、自分は死んで、魂だけが彼女の世界へきてしまったのではないかという懸念はある。だが、何をおいても、鈴女だけは現実に帰さないといけない。
「現実に戻っても、太一くんは私より先輩のほうがいいんでしょう?実は、太一くんに内緒で会ったことがあるの……」
なるほど。そこから感染したのか。
「いや、先輩にはフラれたし、心の整理はついた。もう二度と会うことはないよ」
涙を流す鈴女に、太一はキスをした。
「…………」
いきなりのキスに、鈴女は目を見開いて驚いたが、怒るわけでもなく、黙って応じた。
「……お前のことはずっと幼馴染としてしか見てこなかった。でも、これからは一人の女の子として、僕とつきあってほしい。だから一緒に現実で生きてくれないか?」
「うん。……わかった」
すると、鈴女の心が開放されたのか、2人の目の前に、空間にひずみが生じて、真っ白い、光を帯びた、扉のような穴が開いた。
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