Hearty Beat

いちる

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    校舎の屋上から校庭のキャンプファイヤーを眺める。
 学生のみ参加の後夜祭だがみちるがそのままいてもいいと言ってくれたので七生と一緒にいた。
 文化祭で使った看板や小道具を燃料に火を起こすのだ。
 昔は本当になんでもありで燃やしていたらしいが最近は色々規制があり儀礼的なモノになっている。
 それでも夜空を焦がす思い出の火の粉は美しい。

「結構食えないもんだな」
 七生はたこ焼き、焼きそばをはじめ、焼きトウモロコシにフランクフルト、その他目に付いたものを片っ端から買っては食べた。客が七生だと気づいた学生は緊張しつつも少し多めに盛ったりしていた。
 持ち帰れるようにと最初からドギーバッグにいれてくれた屋台もあった。
 射的では一発も当てられなかったが気を遣った学生がキャラメルをくれ、お化け屋敷では圭の手を掴んで離さなかった。
 プラネタリウムでは二人で寝転び星を数え、写真部の展示ではそこにある風景を見て一緒に行きたくね?と話をした。
 子ども向けの科学の実験ではスライムを造り、映画研究会の十分のショートフィルムに二人で引き込まれた。
 
「……楽しかったですか」
「ああ、高校もこういう行事参加したこと無かったし、大学はそもそも単位ギリギリにしか登校しなくて、学園祭なんてかっこうの堂々と休める日だったからな」
「よかったです」
 通りすがりに貰ったヒーローのお面をくるくると回しながら七生は手すりにもたれて楽しそうに校庭を眺めていた。
「楽しかった。お前と同じステージに立てたし」
 七生はそう言って圭を見た。
「この前も立ったじゃないですか」
「ああ、碧川圭のステージにってこと。……邪魔して悪かったな」
 気まずそうに下唇を噛むから、
「そんなこと無いです。嬉しかったし、気持ちよかったです。『光と雨』なんてハモりすごかったし。ぶっつけ本番とは思えなかったですよ」
 と慌てて肯定する。
「……大丈夫だって言ったじゃねーか。俺を信用しろ」
「しましたよ。した結果が、めちゃくちゃ気持ちよかったって話です」
「ふん」
 手すりに身体を預け、またキャンプファイヤーに視線を移す七生。
「なあ、圭」
「はい?」
「去年はお前これ見てたの?」
「え~、まあ、見てたというか、みちるにこき使われて、あっちで看板くべてましたね」
「はは。彼女と見たりしなかったのか」
「……彼女はしばらくいませんね」
 ハナコにスカウトされ毎週末と言って良いほどライブをおこなっていたので、正直彼女を作る暇もなかった。
 それにファンの子には手を出すなとハナコには口を酸っぱくして注意を受けていたのだ。
「今は?」
 どくん。
 圭の鼓動が跳ねる。
 ……七生さん、それを訊きたいの多分俺です。
「……訊きます?それ、七生さんが」
「俺が訊いたら変か?」
 視線を圭に移し、七生はキョトンと首を傾げた。
「……じゃなくて」
 はあ、とため息を付くと圭は七生の肩に腕を回し自分の方にその身体を引き寄せた。
 キャンプファイヤーの炎は遠く、校舎の屋上を見ている者などいない。
 七生の顎に手をかけ、少し上を向かせる。
 あー、なんだか、ベタで下手なキスシーンの始まりのようだと思いながらも圭はそのまま七生の唇に自分の唇を重ねた。
 七生は抵抗もせず瞳を閉じる。
 ふわりふわりと角度を変えて唇を重ね、何度か味を確かめた後、圭はとろりと舌先を七生の薄く開いた唇に滑り込ませると、歯列に沿わせる。抱き寄せた腰をもう少しきゅっと抱きしめれば七生は歯列を割り、圭の舌先を口内に誘った。
 腰に沿わせた手はいつの間にか七生の手を取り、お互い指先を絡め合う。
 指の間にすら性感帯があるかのように、ぞくぞくと甘いしびれが圭の身体を這う。
 七生の舌は艶めかしくくちゅくちゅと圭の舌を食み口内の熱さは下腹部への熱さへと直結した。
「あ……はぅ……」
 鼻から漏れる七生の甘い息づかいに圭の鼓動はさらに高鳴っていった。
「七生、さん……」
 どれくらい唇を重ねていただろう。
 僅かな時のようで、久遠の時のようで。

「……キャンプファイヤー見ながらキスするとなんか一生上手くいくとかあんの」
 唇を離し、名前を呼べば、にやりと笑い、七生は目を細めた。
「いや、知りませんけど……」
「ふうん。じゃあ、俺たちがその一号になれば、いいのか」
「え?」
「圭」
 七生はふわりと両手を圭の首に回し、抱き寄せ、もう一度軽く唇を重ねた。
「ごめん、俺、お前のこと、好きになってる」
 困ったように眉根を寄せるとじっと圭を見つめる。
「なんで謝るんですか。最初にキスを仕掛けたのは俺です。俺も、七生さんの事が好きです。その、恋愛的な意味で」
「いつから?」
 以前もそう訊かれた気がする。
「……中学の時、あなたの曲を初めて聴いたときから、ですかね」
「まじか」
「……いや、盛りすぎました。えっと、初めて七生さんの家に行って髪の毛触った日ですかね」
「なんだ、それ」
「この人俺がいないとずっと髪の毛濡れたままかもって思ったんです」
 七生は圭の答えにケラケラと笑い出す。
「やっぱりお前、世話焼きの長男だな」
「……七生さんの恋人って言ってください」
 もう一度、圭は七生を抱きしめ、唇を重ねる。
 歌を歌うときに二人の声が重なるように、唇も思いもまた重なっていった。
 しかし、少しだけ、ほんの少しだけだが、圭の気持ちの中に迷いが残っていた。

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