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中庭にあるステージでは文化祭一日目はダンス系の、二日目は音楽系のパフォーマンスが開催される。
申し込みの上、抽選で参加が認められる出演者には人気のステージだ。
今回圭はアコースティックライブを行うことにしている。
HEARTYBEATと違う色を出したいと思ったし、正直HEARTYBEATの後にまた機材を準備する気力が無かったからだ。
実際はギター一本というわけにはいかないけれど、ほぼそれと同じ状態で圭はステージに上がる。
持ち時間は15分4曲の予定だ。
ステージに上がるとさっきのHEARTYBEATの客の二十分の一程度……要は五十人程度の客が集まってくれていた。
今回で四回目だが一番人数が多い。
自分の前のバンドが校内では人気だし、自分もまあおかげさまで全くの無名では無くなったのでこれだけ集まってくれたんだろう。
「どうも、ありがとうございます。碧川圭です」
わーミドリく~ん、なんて黄色い声も聞こえて嬉しい。
「ラストなのに申し訳ないんですけど、今日はアコースティックでいきます」
いいよ~、しっとり聴かせて~、なんて歓声に軽い笑いも起きる。
HEARTYBEATではやらないようなバラードナンバーを二曲演奏したところで、客席からざわめきが起こった。
その後に歓声。
「え?」
気づけば舞台に七生がギターを片手に上がってきている。
「な、七生さん、何?」
「楽しそうだったから邪魔しに来た」
「へ?」
七生は客席に向かい手を振った。
「お邪魔しちゃうけど、いい?」
大丈夫~、と拍手に迎えられて七生はさっさとギターを構える。
七生に気付いた通行者が客席に徐々に集まってくる。
いつの間にか最初の三倍程度の観客になっている。
「こっちは碧川の許可を取ってないから撮影はNGね。みんなの記憶にだけきっちり焼き付けて」
わかりました~、と拍手が起きる。
そしてステージ上ではなぜかさっきまでは無かった二本目のマイクがセッティングされていた。
「どういうことですか?」
「えー、みちるちゃんにサプライズお願いしといた」
ちらりとステージ脇を見ればみちるが手を振っている。
「いつの間に仲良くなったんですか?」
「えー、教えねー」
クスクスと笑って、ギターをポロンとつま弾く。
「『光と雨』と『evergreen』やるんだろ?大丈夫、練習してきた」
圭のオリジナル曲のタイトルを言われてその通りですと頷くと七生は笑ってギターの端を叩きカウントを始めた。
「いや、えっと」
「……大丈夫、俺たちだから」
ふっと笑い七生がマイクに向く。
七生さんが大丈夫というなら大丈夫か、と、圭は歌い出した。
全く二人で合わせる練習などしていない。
HEARTYBEATの練習の休憩時間にスタジオの隅っこでちょこちょこと弾いていただけだ。
七生なんて多分それを聴いていただけなのに。
でも。
二人のギターも歌声もキレイに合い、重なり、中庭に広がった。
ああ、本当に。
圭は歌いながらちらりと七生を盗み見る。
心地よい。
七生の声と重なる自分の声がいつもの自分の声じゃ無いようだ。
HEARTYBEATではメインは七生だ。
それに自分の声がコーラスで重なる。
でも今日は自分の声に七生の声が重なる。
その見た目よりも深く甘い七生の声が柔らかに自分の声を包む。
七生が圭をみる。
な、大丈夫だろう?
イタズラが成功した、そんな顔で笑うから。
目が離せなくなって、そのまま見つめ合って歌ってしまった。
「ミドリ、お疲れ。よかった。最高。やっぱり碧川圭も、いいね」
ラストだったので時間を延長してもいいとみちるから合図があり、アンコールに応えて HEARTYBEATの曲を一曲やって終わりにした。
ステージを降りるとみちるが声を掛けてくる。
「……みちる、どういうことだよ」
「御堂さんの頼みを断れるわけないじゃない。昨日連絡があってね」
ね、っと、七生とみちるが笑い合う。
いつの間にこんなに仲良くなったんだろうかといぶかしがる。
「御堂さん、さっきのステージ、データ送りました」
「ああ、ありがとう」
スマホを確認すると七生は満足げに頷いた。
「データ?」
「せっかくだから、動画チャンネルにアップしたいんだよね。さっきのアコースティックver『HEARTYBEAT』。でも基本は圭のステージだったから本人の許可取らないと駄目だよな。学校側の許可は取ってるから」
さすがプロの大人抜かりない。と、圭は妙なところで感心した。
「……駄目なんて言えないですよね」
「ありがとう。矢作さん喜ぶな。レア映像だよ」
いつかはこんなスタイルで二人でライブをしてもいいかもしれない。圭はそんな未来を想像した。小さなライブハウスで二人だけでステージに上がるのだ。
「一応ミドリの最初から録画してますので好きにして下さい」
「みちる俺にもくれよ」
「えー、御堂さんの依頼だからね。御堂さんに貰って」
「……どうしようかな。まあ、いいや、ほら、圭、さっさと行こうぜ」
圭の頼みには応えずに七生は話を変えた。ギター片手にさっさと歩き出す。
「じゃ、みちるちゃん、またね。ほら、行くぞ」
「え?どこに」
「模擬店巡り。俺一番楽しみにしてたんだからさ」
ぺらりと、手からチケットを出す。
「え?タクさんと行ったんじゃ……」
「早く行かないと売り切れるだろ。ほれ」
手が差し出される。
「はい」
圭は大きく頷くとその手に自分の手を重ねた。
申し込みの上、抽選で参加が認められる出演者には人気のステージだ。
今回圭はアコースティックライブを行うことにしている。
HEARTYBEATと違う色を出したいと思ったし、正直HEARTYBEATの後にまた機材を準備する気力が無かったからだ。
実際はギター一本というわけにはいかないけれど、ほぼそれと同じ状態で圭はステージに上がる。
持ち時間は15分4曲の予定だ。
ステージに上がるとさっきのHEARTYBEATの客の二十分の一程度……要は五十人程度の客が集まってくれていた。
今回で四回目だが一番人数が多い。
自分の前のバンドが校内では人気だし、自分もまあおかげさまで全くの無名では無くなったのでこれだけ集まってくれたんだろう。
「どうも、ありがとうございます。碧川圭です」
わーミドリく~ん、なんて黄色い声も聞こえて嬉しい。
「ラストなのに申し訳ないんですけど、今日はアコースティックでいきます」
いいよ~、しっとり聴かせて~、なんて歓声に軽い笑いも起きる。
HEARTYBEATではやらないようなバラードナンバーを二曲演奏したところで、客席からざわめきが起こった。
その後に歓声。
「え?」
気づけば舞台に七生がギターを片手に上がってきている。
「な、七生さん、何?」
「楽しそうだったから邪魔しに来た」
「へ?」
七生は客席に向かい手を振った。
「お邪魔しちゃうけど、いい?」
大丈夫~、と拍手に迎えられて七生はさっさとギターを構える。
七生に気付いた通行者が客席に徐々に集まってくる。
いつの間にか最初の三倍程度の観客になっている。
「こっちは碧川の許可を取ってないから撮影はNGね。みんなの記憶にだけきっちり焼き付けて」
わかりました~、と拍手が起きる。
そしてステージ上ではなぜかさっきまでは無かった二本目のマイクがセッティングされていた。
「どういうことですか?」
「えー、みちるちゃんにサプライズお願いしといた」
ちらりとステージ脇を見ればみちるが手を振っている。
「いつの間に仲良くなったんですか?」
「えー、教えねー」
クスクスと笑って、ギターをポロンとつま弾く。
「『光と雨』と『evergreen』やるんだろ?大丈夫、練習してきた」
圭のオリジナル曲のタイトルを言われてその通りですと頷くと七生は笑ってギターの端を叩きカウントを始めた。
「いや、えっと」
「……大丈夫、俺たちだから」
ふっと笑い七生がマイクに向く。
七生さんが大丈夫というなら大丈夫か、と、圭は歌い出した。
全く二人で合わせる練習などしていない。
HEARTYBEATの練習の休憩時間にスタジオの隅っこでちょこちょこと弾いていただけだ。
七生なんて多分それを聴いていただけなのに。
でも。
二人のギターも歌声もキレイに合い、重なり、中庭に広がった。
ああ、本当に。
圭は歌いながらちらりと七生を盗み見る。
心地よい。
七生の声と重なる自分の声がいつもの自分の声じゃ無いようだ。
HEARTYBEATではメインは七生だ。
それに自分の声がコーラスで重なる。
でも今日は自分の声に七生の声が重なる。
その見た目よりも深く甘い七生の声が柔らかに自分の声を包む。
七生が圭をみる。
な、大丈夫だろう?
イタズラが成功した、そんな顔で笑うから。
目が離せなくなって、そのまま見つめ合って歌ってしまった。
「ミドリ、お疲れ。よかった。最高。やっぱり碧川圭も、いいね」
ラストだったので時間を延長してもいいとみちるから合図があり、アンコールに応えて HEARTYBEATの曲を一曲やって終わりにした。
ステージを降りるとみちるが声を掛けてくる。
「……みちる、どういうことだよ」
「御堂さんの頼みを断れるわけないじゃない。昨日連絡があってね」
ね、っと、七生とみちるが笑い合う。
いつの間にこんなに仲良くなったんだろうかといぶかしがる。
「御堂さん、さっきのステージ、データ送りました」
「ああ、ありがとう」
スマホを確認すると七生は満足げに頷いた。
「データ?」
「せっかくだから、動画チャンネルにアップしたいんだよね。さっきのアコースティックver『HEARTYBEAT』。でも基本は圭のステージだったから本人の許可取らないと駄目だよな。学校側の許可は取ってるから」
さすがプロの大人抜かりない。と、圭は妙なところで感心した。
「……駄目なんて言えないですよね」
「ありがとう。矢作さん喜ぶな。レア映像だよ」
いつかはこんなスタイルで二人でライブをしてもいいかもしれない。圭はそんな未来を想像した。小さなライブハウスで二人だけでステージに上がるのだ。
「一応ミドリの最初から録画してますので好きにして下さい」
「みちる俺にもくれよ」
「えー、御堂さんの依頼だからね。御堂さんに貰って」
「……どうしようかな。まあ、いいや、ほら、圭、さっさと行こうぜ」
圭の頼みには応えずに七生は話を変えた。ギター片手にさっさと歩き出す。
「じゃ、みちるちゃん、またね。ほら、行くぞ」
「え?どこに」
「模擬店巡り。俺一番楽しみにしてたんだからさ」
ぺらりと、手からチケットを出す。
「え?タクさんと行ったんじゃ……」
「早く行かないと売り切れるだろ。ほれ」
手が差し出される。
「はい」
圭は大きく頷くとその手に自分の手を重ねた。
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