Hearty Beat

いちる

文字の大きさ
上 下
15 / 32

15

しおりを挟む
「行くぞ」
 綿シャツにジーンズを身に付けテーブルに置いてあった財布を手に取ると七生は言った。
「え?」
 まだ、準備に時間がかかるのでは?と思ってダイニングの椅子に腰掛けスマホをいじっていた圭は慌てて顔を上げる。
「髪の毛、まだ濡れてますよ?」
 ざっと拭かれて軽く後ろに流した髪型は、そりゃカッコいいといえばカッコいいけど。
 ……風呂上がりって丸わかりすぎて、なんだか。

 圭の心になぜかもや、っと心に黒い靄が生まれる。
 ちょっと無防備すぎる……

「そのうち、乾く」
 財布をジーンズの尻ポケットに入れながら圭のアドバイスをさらりとかわして本人はどこ吹く風だ。
「いや、えっと……」
 七生は男の目からみても綺麗な顔をしている。と圭は思った。
『LINKS』の頃だってモデルの真似事もしてた。雑誌の表紙を飾ったり、ちょっとしたファッションショーのランウェイを歩いたり。
 ツインボーカルの片割れ、結城は『男らしいカッコ良さ』だったが七生は『中性的なカッコ良さ』がウリだった。
 ファッション誌で、到底圭のような普通の若者では手が届かないようなブランド物を着こなしていた。

 なのに、なんなんだ、このずぼらな感じ。

 圭は自分の中の「ある部分」が引き出されるのを感じた。なので生まれた靄はひとまず横に置いておく。まずは、自分が出来ることを、しなければ。

「風邪引きますし、そのままじゃ、髪の毛跳ね放題です!」
「ああ?」
 突然の圭の剣幕にきょとんと七生が圭を見る。
「座ってください」
 ダイニングの椅子を指差し自分は洗面所へ向かう。
 
 圭には弟と妹がいる。
 まだ小学生の双子だ。
 少し歳が離れているので、仕事をしている両親はよく圭に子守を頼んでいる。
 圭自身もお兄ちゃん、お兄ちゃんと懐いてくる双子を可愛く思いあれこれと世話を焼くこともしばしばだ。
 長男故の世話焼きタイプ。
 それが友人からの評価だった。
 チーム『HeartyBeat』ではそんな自分は出してはいない。
 ハナコにとにかくおとなしくしていろときつく注意を受けたからだ。
 しかし、今はプライベートタイムである。
 七生をみているとその『長男故の世話焼きタイプ』の気質がむくむくとあふれ出てくる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

ヤンデレでも好きだよ!

はな
BL
春山玲にはヤンデレの恋人がいる。だが、その恋人のヤンデレは自分には発動しないようで…? 他の女の子にヤンデレを発揮する恋人に玲は限界を感じていた。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...