Hearty Beat

いちる

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七生がスタジオを飛び出してから三日目。
 圭がスタジオのドアを開けたら今日は葛城もいた。
 そして、七生の姿はやっぱりない。
 こそこそと大人達の話題に混ざらないようにと壁伝いに歩き、自分のキーボードまでたどり着く。
「とうとうスマホの電源が切れてな……」
 葛城は苦笑いを浮かべて矢作を見る。
「俺、様子見になんていかないですよ」
「俺も」
 矢作と、タクも小さく手をあげ同意する。
 ドラムのダイスケも目をそらす。
 皆で何かを押しつけ合っているようだ。
「……私が行っても追い出される可能性が高いからなあ……」
 はあ、と葛城はため息をつくと、ちらりと圭を見、「ああ」と良い餌があったとばかりに笑みを浮かべた
「ミドリがいたか」
「はい?」
 ぱらぱらと楽譜を見ていた圭はいきなり自分の名前を呼ばれて顔を上げた。
 銀縁のメガネの奥の悪そうな輝きをした瞳が圭を見つめる。
 葛城は圭の傍に近づくと、目の前に一枚のカードを差し出した。
「これ、七生のマンションの鍵」
「……はあ」
 今どきのマンションって鍵がカードなのか、と、違う部分で感心する。
 受けとると負けなような気がしてそのまま手は出さない。
 だって、さっき、ここの大人達、御堂さんのお迎え、みんな押し付け合っていたよな。
 じり、っと葛城がにじりより、目が笑っていない笑顔で圭にもう一度ぐっと、鍵を押しつける。思わず受け取れば、満足そうに頷かれた。
「今日は帰っていい。というか今から七生のマンションへ行け。明日は練習休みにするから、明後日必ず七生を連れてこい。もうそろそろ七生がいないと練習にならん」
 にやりと笑って葛城が言う。
「は?」
「頑張れよ」
 ポンポンと肩を叩かれる。

 迎えに行け、はなんとなく分かる。
 なんで明日休み?

 頭をはてなマークで一杯にしているとピロリとポケットのスマホが小さく鳴る
 見ると葛城から七生のマンションの住所が送られてきていた。
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