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「ユニット名、決める」
「え?あ。どうぞ」
あ、本当に合格したんだ。
圭は心の中で安堵した。
「HEARTY BEAT」
「……ハーティビート?」
ハートビートならよく聞くけど、ハーティってどんな意味なんだろう。
よく聞く英単語のようだけどよく考えれば使ったり聞いたりした事がない。
「ハーティは『情熱的』とか『エネルギッシュ』とか『心込めた』とかそんな意味」
圭の疑問に答えるように七生は単語の意味を説明する。何故だか薄ら微笑んでいるようだ。
「お前が歌った曲、仮タイトルのHBはその略。あの曲の元々のタイトルは「HEARTY BEAT」……さっきの歌詞は悪くなかったけど、少し変えさせてもらう。お前の解釈どおり応援歌的に書いた曲だけどな。……他の曲も歌詞付けた?」
七生の言葉に、ああ、解釈は合っていたのかと圭は安堵した。
そして先日から先ほどまでほとんど口をきいて貰えなかったのにいきなり色々話しかけられ、若干戸惑う。
「あー、はい」
「歌詞、見せて……って、お前ギターの人じゃないの?」
思い出したように七生が訊ねる。
「ギターもやりますけど、今日はキーボードの方がやりやすかったので」
「あ、そ。……ユニットはツインギターでいきたいから、これからギター練習して」
「はあ……」
「あ、サポートって、タクとかにお願いできるのかなあ」
最後のセリフは一本目の電話が終わった葛城に向けられたもの。
次、とタップしようとした指を止め七生を見る。
「ああ、聞いておく。あとは、誰が希望?」
「……プロデュースは矢作さんかな。大丈夫そう?」
七生は少し考えて圭も知っている有名なプロデューサーの名前をあげた。
ずっと「LINKS」のプロデューサーをしていた人物だ。
「ナオのご指名だって言ったら何をほっといても飛んでくるよ。……でも、自分でやればいいのに」
葛城は揶揄う様な口調で問うが七生は不貞腐れように返した。
「……そういうセンス無いの知ってるだろ」
「ベースはじゃあ……」
スマホやタブレットを酷使しながら二人は完全に圭を置いて気ぼりにして話をすすめていった。
「えーと」
自分はどうすればと恐る恐る声をかければその声に七生が視線を圭に移す。
「お前曲かけるよな?五曲ばかり準備できる?」
有無を言わさない台詞に聞いたら怒られそうだと思うが期限を確認する。
「……いつまでに?」
「一週間とか……ストックねーの?」
呆れたように尋ねられ、圭は今自分が出せる未発表曲はあったかと頭をフル回転させた。
あるにはあるが御堂とのユニットの路線に合うのかが分からない。
「はあ……あるというか、ないというか……」
「じゃあ、一週間でなんとかして。また連絡する。連絡先教えて」
スマホを差し出されメッセージアプリのID交換を行えば連絡先に「御堂七生」という名前が追加された。
繋がった確認のメッセージ代わりに電話番号を送れば、「了解」と言う文字とやはり電話番号が届く。
「じゃ」
ひらひらと手を振られたから、ぺこりと頭を下げて思わずハナコを見る。
七生はもう圭には興味なさそうに葛城となにやら打ち合わせを開始していた。
ハナコはそのやり取りがおかしかったのか肩を震わせて笑うのを我慢しているようだ。
「帰っていいみたいよ。無事に天の岩戸を開けたじゃない。ミドリ、やれば出来る子だね」
うんうんとハナコは一人で頷き、
「……御堂君の再デビュー決定ね」
と嬉しそうに言った。
いきましょう、とスタジオを出るのでその後ろを付いていく。事務所のあるビルだからそのまま階段で事務所に戻るようだ。
「再デビューって……LINKSは休止中なだけですよね?」
「んー、でも、多分もうLINKSで御堂くんはやらないと思う……」
思えば三年前、突然の休止宣言だった。ツアーの途中で発表し、それ以降の日程をキャンセルしたんじゃなかったか。表向きはメンバーの病気という発表だったが、世間では結城と七生の確執が面白おかしく噂されていた筈だ。
「いいんじゃない?あんたが気に入られたんなら。踏み台にしてやる、くらいの軽い気持ちでさ」
ばん!と背中をたたかれる。
「よかった。これであんたの歌が全国区できいてもらえるね」
ハナコはなんだかんだ言っても圭の曲が好きで、これなら売れると思いスカウトしてきたのだ。それが鳴かず飛ばずのインディーズ活動を余儀なくさせていることを心苦しく思っていた。
そこに「LINKS」の御堂とユニットを組まないかという夢のような話が持ち込まれたのだ。
このチャンスをモノにしたいのは、もしかしたらハナコかもしれない。
「俺というか……御堂さんのじゃあ……」
数百人入るライブハウス、しかも対バンで埋めるのがやっとの実力しかない圭と七生では全く持っているポテンシャルが違うと思うが。
「曲、持って来いって言ってたじゃない。ということはあんたにも期待してるってことでしょう?それにさ、一緒にやりたいってもともと向こうが言ってきたんだし」
「はあ……」
「あ、そうそう。マネージャーは葛城さん直々にやるって。まあ、事務所ちがうからこちらもフォローには入るけどね。」
なにせこちら弱小だから、まあ、大手さんの言いなりかもしれないけど、精一杯サポートするからね。
「はあ……」
あのテンポについていけるんだろうか。
向こうはもう十年くらいプロだし……
胸を借りるつもりでいいのかな?
圭はハナコの言葉に力無く頷いた。
「え?あ。どうぞ」
あ、本当に合格したんだ。
圭は心の中で安堵した。
「HEARTY BEAT」
「……ハーティビート?」
ハートビートならよく聞くけど、ハーティってどんな意味なんだろう。
よく聞く英単語のようだけどよく考えれば使ったり聞いたりした事がない。
「ハーティは『情熱的』とか『エネルギッシュ』とか『心込めた』とかそんな意味」
圭の疑問に答えるように七生は単語の意味を説明する。何故だか薄ら微笑んでいるようだ。
「お前が歌った曲、仮タイトルのHBはその略。あの曲の元々のタイトルは「HEARTY BEAT」……さっきの歌詞は悪くなかったけど、少し変えさせてもらう。お前の解釈どおり応援歌的に書いた曲だけどな。……他の曲も歌詞付けた?」
七生の言葉に、ああ、解釈は合っていたのかと圭は安堵した。
そして先日から先ほどまでほとんど口をきいて貰えなかったのにいきなり色々話しかけられ、若干戸惑う。
「あー、はい」
「歌詞、見せて……って、お前ギターの人じゃないの?」
思い出したように七生が訊ねる。
「ギターもやりますけど、今日はキーボードの方がやりやすかったので」
「あ、そ。……ユニットはツインギターでいきたいから、これからギター練習して」
「はあ……」
「あ、サポートって、タクとかにお願いできるのかなあ」
最後のセリフは一本目の電話が終わった葛城に向けられたもの。
次、とタップしようとした指を止め七生を見る。
「ああ、聞いておく。あとは、誰が希望?」
「……プロデュースは矢作さんかな。大丈夫そう?」
七生は少し考えて圭も知っている有名なプロデューサーの名前をあげた。
ずっと「LINKS」のプロデューサーをしていた人物だ。
「ナオのご指名だって言ったら何をほっといても飛んでくるよ。……でも、自分でやればいいのに」
葛城は揶揄う様な口調で問うが七生は不貞腐れように返した。
「……そういうセンス無いの知ってるだろ」
「ベースはじゃあ……」
スマホやタブレットを酷使しながら二人は完全に圭を置いて気ぼりにして話をすすめていった。
「えーと」
自分はどうすればと恐る恐る声をかければその声に七生が視線を圭に移す。
「お前曲かけるよな?五曲ばかり準備できる?」
有無を言わさない台詞に聞いたら怒られそうだと思うが期限を確認する。
「……いつまでに?」
「一週間とか……ストックねーの?」
呆れたように尋ねられ、圭は今自分が出せる未発表曲はあったかと頭をフル回転させた。
あるにはあるが御堂とのユニットの路線に合うのかが分からない。
「はあ……あるというか、ないというか……」
「じゃあ、一週間でなんとかして。また連絡する。連絡先教えて」
スマホを差し出されメッセージアプリのID交換を行えば連絡先に「御堂七生」という名前が追加された。
繋がった確認のメッセージ代わりに電話番号を送れば、「了解」と言う文字とやはり電話番号が届く。
「じゃ」
ひらひらと手を振られたから、ぺこりと頭を下げて思わずハナコを見る。
七生はもう圭には興味なさそうに葛城となにやら打ち合わせを開始していた。
ハナコはそのやり取りがおかしかったのか肩を震わせて笑うのを我慢しているようだ。
「帰っていいみたいよ。無事に天の岩戸を開けたじゃない。ミドリ、やれば出来る子だね」
うんうんとハナコは一人で頷き、
「……御堂君の再デビュー決定ね」
と嬉しそうに言った。
いきましょう、とスタジオを出るのでその後ろを付いていく。事務所のあるビルだからそのまま階段で事務所に戻るようだ。
「再デビューって……LINKSは休止中なだけですよね?」
「んー、でも、多分もうLINKSで御堂くんはやらないと思う……」
思えば三年前、突然の休止宣言だった。ツアーの途中で発表し、それ以降の日程をキャンセルしたんじゃなかったか。表向きはメンバーの病気という発表だったが、世間では結城と七生の確執が面白おかしく噂されていた筈だ。
「いいんじゃない?あんたが気に入られたんなら。踏み台にしてやる、くらいの軽い気持ちでさ」
ばん!と背中をたたかれる。
「よかった。これであんたの歌が全国区できいてもらえるね」
ハナコはなんだかんだ言っても圭の曲が好きで、これなら売れると思いスカウトしてきたのだ。それが鳴かず飛ばずのインディーズ活動を余儀なくさせていることを心苦しく思っていた。
そこに「LINKS」の御堂とユニットを組まないかという夢のような話が持ち込まれたのだ。
このチャンスをモノにしたいのは、もしかしたらハナコかもしれない。
「俺というか……御堂さんのじゃあ……」
数百人入るライブハウス、しかも対バンで埋めるのがやっとの実力しかない圭と七生では全く持っているポテンシャルが違うと思うが。
「曲、持って来いって言ってたじゃない。ということはあんたにも期待してるってことでしょう?それにさ、一緒にやりたいってもともと向こうが言ってきたんだし」
「はあ……」
「あ、そうそう。マネージャーは葛城さん直々にやるって。まあ、事務所ちがうからこちらもフォローには入るけどね。」
なにせこちら弱小だから、まあ、大手さんの言いなりかもしれないけど、精一杯サポートするからね。
「はあ……」
あのテンポについていけるんだろうか。
向こうはもう十年くらいプロだし……
胸を借りるつもりでいいのかな?
圭はハナコの言葉に力無く頷いた。
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