3 / 14
3
しおりを挟む
十八歳になったとき。
とうとう鏡が言った、らしい。
「鏡よ、鏡。この世界で一番美しいのは誰」
『それはお妃様です。でも白雪様は貴女の千倍も美しい』
いやー、だから。
忖度しようよ。忖度。
鏡。
現妃(おかあさま)の怒りで割られたりしなくて本当に良かったと思うよ。
まあでも、十年は命拾いをしたわけで。
十八歳の俺の誕生日、お城で盛大に成人の儀が執り行われた明くる日。
俺はいつもと同じように森に行った。
エルフ達もお祝いしてくれるって言ってたし、城にいたら見合いの釣書を山のように押しつけられるから。
見目麗しいこの国の第一王子。
政略結婚は仕方ない。
でも持ってこられる釣書はどこの国のお姫様でも王子様でもすべて俺が嫁に行くか婿に行くかになっている。
王子や姫ならまだましでどこぞの男爵の長男とか商人の長女とかも混ざっている。
王位継承権は一位の筈なのに、どうなってることやら。
王様(おとうさま)骨抜きにされてるよなあ。
いつもは俺の事を完璧に無視するどころか迫害している現妃(おかあさま)が釣書片手に迫ってくるんだ。
どう考えても格下の相手ばかりを選んで。
「せめて釣り合いの取れる相手にしろってーの」
森の入口の近くの倒木に座ってリス相手に愚痴をこぼしていたら狩人が現れた。
「白雪」
「狩人!」
わーいと俺は狩人に抱きついた。
狩人もそのまま受け止めてくれて背中をやんわり抱きしめてくれる。
「白雪、誕生日おめでとう」
「ありがとう。狩人!」
狩人の逞しい胸に抱きしめられると俺は安心する。
あの釣書の中に狩人がいればいいのに、なんて事を考える。
だって、そうしたら俺は狩人を選ぶ。
森で倒れているのを見つけた時から俺は狩人に片思いしているんだから、さっさと告白して十八歳になったからには、俺は狩人と大人の付き合いを始めたいと思っていた。
狩人だって俺の事憎からず思っている…はず…
…いや、もしかしたら未だに近所の子供カテゴリーかな。
悩んでも先には進まん!と俺は一か八か俺は狩人に迫ってみることにしたんだ。
「狩人、誕生日の贈り物、ちょーだい」
俺は狩人の胸に抱かれたまま強請った。
もちろん心臓はバクバクだよ。
「何が欲しいんだ?」
「狩人が欲しい」
「は?」
ぴきっと俺を抱きしめていた腕が、固まった……気がした。
「俺、十八歳になったんだ……狩人と大人の付き合いがしたいんだ」
狩人は抱きしめていた俺の身体を離すと、口元に手を当てて顔を赤らめた……と思う。
髭でよく見えなかった。
絶対俺、好かれてる!
そう喜んだのもつかの間。
「それって…」
困ったように眉を垂らして俺を見つめる狩人。
大好きな琥珀色はゆらゆらと視点を定めていない。
「俺は狩人が好きだ。…恋愛的な意味で」
だから、狩人も。
俺の事、好きでしょう?そう問いかけようとしたのに。
「あー、」
歯切れの悪い困ったようなうめき声。
え、あ、ちょっと待って。
もしかして。
「俺とお前じゃ、釣り合いが…」
「へ?」
思ってもみなかった返事が返ってきて俺はきょとんと狩人を見上げた。
そんなこと?
好きとか嫌いじゃなくて。
ここにきて、身分違いとか言うわけ?
「釣り合いって、年齢?身長?身分?気持ちの重さ?」
「いや、まあ、色々……まだ子どもだと思ってもいたし」
でも。
狩人は俺の背中に手を回して、ぎゅっと、尻を撫でた。
撫でたのに、ぎゅっとはおかしいけど、掴むのと撫でるのの中間くらいな。
ちょっと大事な物を確認するような。
そんな撫で方。
「…大きくなってたんだなあ」
しみじみと狩人は俺の尻を何度か撫でて、言った。
ゆっくりと俺は狩人の身体から自分の身を外した。
感じていた温もりがすっと冷めていく。
どう考えても、親戚のおじさんが久しぶりに会った時に呟くような台詞を聞かされてさ。
まさかの、片思いだった…。
鏡がどれだけ俺の事を美人だともてはやしても、本命がなんとも思ってないなら意味なくない?
がっくりと肩を落としたけど、だったら釣り合う大人の男になったと思わせればいいと、俺は違う方向へ頑張ることを余儀なくされた。
とうとう鏡が言った、らしい。
「鏡よ、鏡。この世界で一番美しいのは誰」
『それはお妃様です。でも白雪様は貴女の千倍も美しい』
いやー、だから。
忖度しようよ。忖度。
鏡。
現妃(おかあさま)の怒りで割られたりしなくて本当に良かったと思うよ。
まあでも、十年は命拾いをしたわけで。
十八歳の俺の誕生日、お城で盛大に成人の儀が執り行われた明くる日。
俺はいつもと同じように森に行った。
エルフ達もお祝いしてくれるって言ってたし、城にいたら見合いの釣書を山のように押しつけられるから。
見目麗しいこの国の第一王子。
政略結婚は仕方ない。
でも持ってこられる釣書はどこの国のお姫様でも王子様でもすべて俺が嫁に行くか婿に行くかになっている。
王子や姫ならまだましでどこぞの男爵の長男とか商人の長女とかも混ざっている。
王位継承権は一位の筈なのに、どうなってることやら。
王様(おとうさま)骨抜きにされてるよなあ。
いつもは俺の事を完璧に無視するどころか迫害している現妃(おかあさま)が釣書片手に迫ってくるんだ。
どう考えても格下の相手ばかりを選んで。
「せめて釣り合いの取れる相手にしろってーの」
森の入口の近くの倒木に座ってリス相手に愚痴をこぼしていたら狩人が現れた。
「白雪」
「狩人!」
わーいと俺は狩人に抱きついた。
狩人もそのまま受け止めてくれて背中をやんわり抱きしめてくれる。
「白雪、誕生日おめでとう」
「ありがとう。狩人!」
狩人の逞しい胸に抱きしめられると俺は安心する。
あの釣書の中に狩人がいればいいのに、なんて事を考える。
だって、そうしたら俺は狩人を選ぶ。
森で倒れているのを見つけた時から俺は狩人に片思いしているんだから、さっさと告白して十八歳になったからには、俺は狩人と大人の付き合いを始めたいと思っていた。
狩人だって俺の事憎からず思っている…はず…
…いや、もしかしたら未だに近所の子供カテゴリーかな。
悩んでも先には進まん!と俺は一か八か俺は狩人に迫ってみることにしたんだ。
「狩人、誕生日の贈り物、ちょーだい」
俺は狩人の胸に抱かれたまま強請った。
もちろん心臓はバクバクだよ。
「何が欲しいんだ?」
「狩人が欲しい」
「は?」
ぴきっと俺を抱きしめていた腕が、固まった……気がした。
「俺、十八歳になったんだ……狩人と大人の付き合いがしたいんだ」
狩人は抱きしめていた俺の身体を離すと、口元に手を当てて顔を赤らめた……と思う。
髭でよく見えなかった。
絶対俺、好かれてる!
そう喜んだのもつかの間。
「それって…」
困ったように眉を垂らして俺を見つめる狩人。
大好きな琥珀色はゆらゆらと視点を定めていない。
「俺は狩人が好きだ。…恋愛的な意味で」
だから、狩人も。
俺の事、好きでしょう?そう問いかけようとしたのに。
「あー、」
歯切れの悪い困ったようなうめき声。
え、あ、ちょっと待って。
もしかして。
「俺とお前じゃ、釣り合いが…」
「へ?」
思ってもみなかった返事が返ってきて俺はきょとんと狩人を見上げた。
そんなこと?
好きとか嫌いじゃなくて。
ここにきて、身分違いとか言うわけ?
「釣り合いって、年齢?身長?身分?気持ちの重さ?」
「いや、まあ、色々……まだ子どもだと思ってもいたし」
でも。
狩人は俺の背中に手を回して、ぎゅっと、尻を撫でた。
撫でたのに、ぎゅっとはおかしいけど、掴むのと撫でるのの中間くらいな。
ちょっと大事な物を確認するような。
そんな撫で方。
「…大きくなってたんだなあ」
しみじみと狩人は俺の尻を何度か撫でて、言った。
ゆっくりと俺は狩人の身体から自分の身を外した。
感じていた温もりがすっと冷めていく。
どう考えても、親戚のおじさんが久しぶりに会った時に呟くような台詞を聞かされてさ。
まさかの、片思いだった…。
鏡がどれだけ俺の事を美人だともてはやしても、本命がなんとも思ってないなら意味なくない?
がっくりと肩を落としたけど、だったら釣り合う大人の男になったと思わせればいいと、俺は違う方向へ頑張ることを余儀なくされた。
1
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしようもなく甘い一日
佐治尚実
BL
「今日、彼に別れを告げます」
恋人の上司が結婚するという噂話を聞いた。宏也は身を引こうと彼をラブホテルに誘い出す。
上司×部下のリーマンラブです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
凜恋心
降谷みやび
恋愛
ある村にすんでいる雅(みやび)。特殊な力があるために親からも見捨てられていた。そんなある日、その村に三蔵一行が現れた。それが雅の運命を変えることに…
原作の最○記さんとは全く関係ありませんが、キャラ設定等は大好きな最遊○さんをパロってます。全く無関係なので誹謗中傷は受け付けません。
もしも○○なら…の『心恋凛~If...の場合』を開始いたします!そちらの章も是非お楽しみに…
落ちこぼれβの恋の諦め方
めろめろす
BL
αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。
努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。
世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。
失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。
しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。
あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?
コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。
小説家になろうにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる