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神輿に乗せてやると手放しで喜ぶ勘違い男

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 ドラマでの財政界を含む巨大組織ではあり得ない物語が受けている、反面、リアリティーのない時代劇のような大立回りに閉口するファンもいるかもしれない。

 明瞭な犯罪行為やパワハラならば、立ち向かうことも叶うものだか、陰湿ないじめのような実態は、教育現場の型通りの体質でなくても、個別の判定に当たっては、残念ながらどんなに社会でも組織でも明確にすることは難しい。

 仕事には論理的だけではない。仕事にも感情と言葉のやり取りでの機微があるためだ。

 その日は前日より大雨が降り続いていた。雨は街の中ではさほど酷い雨だとは感じられなかった。洪水の被害もなかった。

 しかし、雨雲は盆地を取り囲む南の比較的なだらかな山間地帯と北に位置し長く連なる山脈に大量の雨水をもたらした。

 山に吸収されなくなった雨水は濁流となり盆地の川へと流れ出る。堤防を越えるような増水ではない。極端に濁った水で河原は満たされた。

 この程度の増水では何事も問題はないと思われた。問題は思いがけなく飲み水、水道水から生じた。
 
 山間とその周辺の開発のせいかなのか川の水の濁り度合が尋常ではなかった。そのために水道局の浄水場での水のろ過が追い付かなくなり、水道水の供給不可能となった。

 山脈側の水源は豊富な湧水のため、川が濁っても何の影響もなかった。

 ただし、穂高を真っ二つに分けるように中央を流れ、はるばる太平洋の河口へと流れる大きな川の向こう側の地域は、低い山地から流れ出す山からの表流水に頼っていため、大雨の影響をもろに受け、極度の濁り水は水道水を造るようなろ過ができないため、次第に配水池の水もなくなっていき断水するのは時間の問題だった。

 だったら目の前の大きな川から水を調達すればいい、それだけのことだった。

 市町村合併以前の河内村の水源はこの川の水であり、この川を使った浄水場はボロながらまだ利用されており、いつでも旧河内村の水道管にバルブ操作で水の供給ができた。

 問題があるとすれば、一部放棄してしまっている水利権だった。

 水利権の水量が不足しているからどうしようもないとライフライン部局のブレインははなっから議論さえもしなかった。
 理系の人間しか信じないという愚かな小早川の無惨な無知と理系ブレインの融通の無さを露呈した結果だ。

 ブレイン会議の結果を聞いた僕達は唖然とした。
 基本的な水利権とはの視点が欠落していることは明らかだった。そして、それは、法律をかじらなくても、長年生きていれば経験がとして知識として身につけているようなものだった。

 僕達は会議の結果に納得がいかずに直接、トップの早川に詰め寄った。このままでは、旧河内村エリアは断水となってしまうからだ。

 しかし、早川、この男の阿保さ加減は限度を越えていた。阿保に加えてこの男特有の、例え間違っていても自分の意見が汚されることを嫌う異常な潔癖と、自分が一番でなければ気がすまない幼児性自己顕示欲とが、組織としての議論も意見を取り上げることすらも許さなかった。

 「俺は理系しか信じない。」と意味不明な事をしていたとおり、この俺は自由な言語による自由な人間の感性も感情も理解などできる人間形成など成されないままにここまできた。小早川は組織の慣例の不備の産物であり、社会システムの失敗が産み出した愚者であった。

 水利権が重要になるのは渇水の時だ。増水した川で水がじゃぶじゃぶ流れる川の水利権などなんとでもなる。

 なんとしても動かうとしない小早川を出し抜いて、僕達は直接暫定の水利権の了解を得て、勝手に水量を増やして浄水を始めて水道水を供給した。

 断水は回避された。断水していたら一週間は断水していただろう。穂高市は断水を全くすることなく、いとも簡単にすり抜けた。

 小早川は、当然、面白くなかった。
 僕達にすれば、あなたの失敗をリカバリーしてやったのだから、感謝されど叱責されるような覚えはなかった。部下の真実に耳を貸さない、あなたが悪いと僕達はいつでも言い返せた。

 「俺の言う通りにやってたら断水になってるってか、それでどの程度の被害がでるんだ。断水くらいで。」と小早川は言った。そんなこともわからないのかよ、誰もが諦めのやるせない気持ちでいっぱいとなっていた。

 険悪な職場の雰囲気の中、地元の新聞社が訪ねてきた。

 こんな馬鹿なトップの真実を伝え、濁り川に精霊を流すように、跡形もなく下流へ流してやれることもできた。

 組織の体裁もあり、小早川が自ら英断により水利権の困難な調整に乗りだし、なんとか了解を得て断水を回避できたとのストーリーを捏造して地元の新聞社の若い記者に話した。リップサービスだった。

 若い記者は鵜呑みにして翌朝の地元記事のトップに掲載した。

 記事を読んで、他の新聞社も弾みが付き取材に訪れた。今度は直接、小早川が取材を受けた。小早川もこのストーリーにちゃっかりと乗りだし、小早川は作り出された英雄のようになった。知ってる職員は、映画鉄の男のコメディ盤だなと冷笑した。

 精霊流しを瓢箪から駒の御輿に代えてやったら、勘違いし、御輿を自分で自走させ始めた。奥ゆかしさなどない。

 後に我々は大きな失敗をしたことに気付き、小早川を押さえられなかったことを後悔をすることになる。

 
 
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