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第二章
43話
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「あと、ルークベルトのことだけど……」
話も盛り上がってきた頃、その名前が出ただけで思わず反応しそうになるところを何とか抑える。流石に意識しすぎているのが自分で痛いほどわかって恥ずかしくなった。気付かれていないだろうし大丈夫だろうと思って周りを少し見回すと、レイチェルちゃんがニヤニヤと笑ってこちらを見ていた。
「あのね、ノベル…というかラブリリの世界でのルークベルトは、今あなたが思われているほどフィリアのこと好きじゃなかったと思うよ?」
ニヤニヤとした悪い笑みから優しく語りかけるような微笑みに変わったその表情に少し気を取られる。聞こえてきた言葉は私の中では考えもしないことだった。
「え?」
「それは私も思っていました。ゲームでの様子も幼い頃の淡い恋が最悪の形で壊れたからトラウマになってるって感じでフィリア単体にそこまで大きな感情を抱えていた感じは正直しなかったです」
「そう。間違いなく恋はしていたけど、この世界での彼が抱える感情は……あなたに対する想いは、もっと大きな、愛、だと思う。私は全然会って話したことないけど、お兄ちゃんとか周りの話聞いてるとそう思うよ」
二人にそう言われて頭が混乱していくのが分かった。彼女たちが言うことをまとめれば、私がフィリアだからではなく私が私であることでルーク様が私を好きになってくれたということになる。だとしたら、私は……。
思考に囚われそうになって慌てて我に帰ると、向かいのレイチェルちゃんが優しい笑みをより一層深めてこちらを見た。
「きっとここに来た理由には、そういうことが知りたかったっていうのもあるんじゃない?ただ私が転生者だってことを確かめたいだけならリリーちゃんまで連れてくる必要はないと思うし、何なら今じゃなくてもいい。他にも理由はあると思うけど、背中、ガツンと押してほしかったんでしょ?」
「そう、なのかしら……」
自分ではっきり意識していたわけではない。でも確かに背中を押してくれる言葉が欲しかったのは事実だ。それをここでも求めていたのだろうか。もしかしたら、私は私として彼のことを想っていいのか心の奥底で不安だったのかもしれない。そしてそれをレイチェルちゃんは見抜いて、こうして背中を押してくれているのだ。
「……そうね、本当はただ臆病になっていただけみたい。ありがとう、二人共」
二人は目を合わせた後、眩しいくらい爽やかな笑顔で笑った。これだけ背中を押してもらえたのだ。きっと私は大丈夫。そう実感して心の中が温かいもので満ち足りた気がした。
******************
ようやく心を決めた私は学院に戻ってルーク様に会うために生徒会室へと向かった。そしていざノックして入室してみるとそこにいたのはルカルド様ただ一人だった。
「ルカルド様、ごきげんよう」
「やあ、フィリア嬢。兄上なら今カイと一緒に先生のところに書類を取りに行っていて不在だよ」
「ありがとうございます。休みの日まで生徒会のお仕事があるんですか?」
「まあ調査にほとんどの時間を費やしていたからね。僕たち以外のメンバーが進めてくれてはいたんだけど、流石に残っている仕事もあるんだよ」
「レオン様とメルルは?」
「ああ、あの二人の仕事は会計がメインなんだけど、溜まっていたものがそんなに多くなかったらしくてすぐに終わったんだ。メルル嬢はそれでも僕たちを手伝ってくれようとしていたんだけどレオンが引っ張っていってしまったからね……」
「なるほど……」
確かにレオン様もメルルも計算が速いし一度スイッチが入ると集中が途切れないタイプだから仕事の速さは納得だった。レオン様が仕事が終わり次第メルルを連れていってしまうのも予想がつく。そんな二人の姿を思い浮かべて思わず笑みが溢れてしまった。
「ねえフィリア嬢」
少し間が空いて空気を変えるように名前を呼ばれた。思わずルカルド様の方を見る。
「僕はね、君のことを一人の良き友人だと思っているんだよ」
「は、はい。ありがとうございます……?」
話の流れが掴めないまま相槌を打つ。するとそれを気にする様子もなく言葉が続けられた。
「前に僕は君のことを『馬鹿になった』と言ったことがあったね?」
その言葉に背中をグサッと刺されたような痛みを感じた。過去のことだとしても中々に心にくるものがあるものだ。私が思わず苦い顔をするとルカルド様はそれを見て力の抜けるような笑みを溢した。
「今の君をそうだとは思っていないよ。あの時も別に心からそう思っていたわけじゃないし。君が君らしくないことに僕が納得できていなかっただけだからね。きつい言い方になってしまってごめん」
「い、いえ。私もあの言葉のおかげで色々と考え直すことができましたし、今では感謝しています」
そう言って私がお辞儀をしようとするとルカルド様はそれを手で制した。礼はいらないということらしい。
「それで本題だけど、ここには兄上に会いに来たんだよね?休みまで生徒会室にいるなんて兄上くらいだし」
「はい……」
「兄上に会いに来たってことは、気持ちが決まったってことかな?」
「っ!どこでそれを」
「悩んでることは知っていたよ。僕以外の皆には相談に行っていたみたいだし」
そう言いながらルカルド様はどことなく暗いオーラが見える笑みを浮かべていた。しかしその毒気がふっと消えて、見たことがない優しい表情が現れる。
「僕はね、君を応援しているんだ。どんな形であれ、君が幸せでいることが兄上の幸せになるし。それに見た感じ一番良い形で収まりそうだ。だから頑張って、って伝えたかったんだよ」
ルカルド様はそこまで言い切ると私の肩を軽く叩いて扉の方に向かった。まるで見計らっていたかのようにそこで扉が開いてルーク様とカイ様が帰ってきた。
「っフィリア……?」
「兄上、カイを借りていきますね。少しの間フィリア嬢と話していてください」
「え、ルカルド様?」
あっという間のことで、ルカルド様は有無を言わせずカイ様を連れて行ってしまった。扉の閉まる音と同時に静寂が降ってくる。けれどそれを長引かせまいと私は口を開いた。
「ルーク様!」
「な、何だ」
勢い余って大きな声が出てしまい、ルーク様の肩が少し跳ねたのが見えた。
「あの、今度こそちゃんとお話ししたいので、明日、ある場所でお会いしたいのですが……」
「ある場所とは?」
不思議そうな顔をするルーク様に少し照れながら「ある場所」がどこかを伝えると、彼は優しい笑顔になった。
「そこなら問題ない。念のために俺があらかじめ許可も取っておく。明日は午前は予定があるから午後でも良いだろうか?」
「はい!大丈夫です!よろしくお願いします」
話すならあの場所が良いと思っていたからホッとして肩を撫で下ろした。時間がかかってしまったけれどちゃんと伝えよう。精一杯の等身大のこの気持ちを。私は来たる明日に想いを馳せて自分を鼓舞した。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
次のお話でフィリア視点の本編は最終回にしようと考えています!本日中か、もしくは明日までには更新する予定です!
話も盛り上がってきた頃、その名前が出ただけで思わず反応しそうになるところを何とか抑える。流石に意識しすぎているのが自分で痛いほどわかって恥ずかしくなった。気付かれていないだろうし大丈夫だろうと思って周りを少し見回すと、レイチェルちゃんがニヤニヤと笑ってこちらを見ていた。
「あのね、ノベル…というかラブリリの世界でのルークベルトは、今あなたが思われているほどフィリアのこと好きじゃなかったと思うよ?」
ニヤニヤとした悪い笑みから優しく語りかけるような微笑みに変わったその表情に少し気を取られる。聞こえてきた言葉は私の中では考えもしないことだった。
「え?」
「それは私も思っていました。ゲームでの様子も幼い頃の淡い恋が最悪の形で壊れたからトラウマになってるって感じでフィリア単体にそこまで大きな感情を抱えていた感じは正直しなかったです」
「そう。間違いなく恋はしていたけど、この世界での彼が抱える感情は……あなたに対する想いは、もっと大きな、愛、だと思う。私は全然会って話したことないけど、お兄ちゃんとか周りの話聞いてるとそう思うよ」
二人にそう言われて頭が混乱していくのが分かった。彼女たちが言うことをまとめれば、私がフィリアだからではなく私が私であることでルーク様が私を好きになってくれたということになる。だとしたら、私は……。
思考に囚われそうになって慌てて我に帰ると、向かいのレイチェルちゃんが優しい笑みをより一層深めてこちらを見た。
「きっとここに来た理由には、そういうことが知りたかったっていうのもあるんじゃない?ただ私が転生者だってことを確かめたいだけならリリーちゃんまで連れてくる必要はないと思うし、何なら今じゃなくてもいい。他にも理由はあると思うけど、背中、ガツンと押してほしかったんでしょ?」
「そう、なのかしら……」
自分ではっきり意識していたわけではない。でも確かに背中を押してくれる言葉が欲しかったのは事実だ。それをここでも求めていたのだろうか。もしかしたら、私は私として彼のことを想っていいのか心の奥底で不安だったのかもしれない。そしてそれをレイチェルちゃんは見抜いて、こうして背中を押してくれているのだ。
「……そうね、本当はただ臆病になっていただけみたい。ありがとう、二人共」
二人は目を合わせた後、眩しいくらい爽やかな笑顔で笑った。これだけ背中を押してもらえたのだ。きっと私は大丈夫。そう実感して心の中が温かいもので満ち足りた気がした。
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ようやく心を決めた私は学院に戻ってルーク様に会うために生徒会室へと向かった。そしていざノックして入室してみるとそこにいたのはルカルド様ただ一人だった。
「ルカルド様、ごきげんよう」
「やあ、フィリア嬢。兄上なら今カイと一緒に先生のところに書類を取りに行っていて不在だよ」
「ありがとうございます。休みの日まで生徒会のお仕事があるんですか?」
「まあ調査にほとんどの時間を費やしていたからね。僕たち以外のメンバーが進めてくれてはいたんだけど、流石に残っている仕事もあるんだよ」
「レオン様とメルルは?」
「ああ、あの二人の仕事は会計がメインなんだけど、溜まっていたものがそんなに多くなかったらしくてすぐに終わったんだ。メルル嬢はそれでも僕たちを手伝ってくれようとしていたんだけどレオンが引っ張っていってしまったからね……」
「なるほど……」
確かにレオン様もメルルも計算が速いし一度スイッチが入ると集中が途切れないタイプだから仕事の速さは納得だった。レオン様が仕事が終わり次第メルルを連れていってしまうのも予想がつく。そんな二人の姿を思い浮かべて思わず笑みが溢れてしまった。
「ねえフィリア嬢」
少し間が空いて空気を変えるように名前を呼ばれた。思わずルカルド様の方を見る。
「僕はね、君のことを一人の良き友人だと思っているんだよ」
「は、はい。ありがとうございます……?」
話の流れが掴めないまま相槌を打つ。するとそれを気にする様子もなく言葉が続けられた。
「前に僕は君のことを『馬鹿になった』と言ったことがあったね?」
その言葉に背中をグサッと刺されたような痛みを感じた。過去のことだとしても中々に心にくるものがあるものだ。私が思わず苦い顔をするとルカルド様はそれを見て力の抜けるような笑みを溢した。
「今の君をそうだとは思っていないよ。あの時も別に心からそう思っていたわけじゃないし。君が君らしくないことに僕が納得できていなかっただけだからね。きつい言い方になってしまってごめん」
「い、いえ。私もあの言葉のおかげで色々と考え直すことができましたし、今では感謝しています」
そう言って私がお辞儀をしようとするとルカルド様はそれを手で制した。礼はいらないということらしい。
「それで本題だけど、ここには兄上に会いに来たんだよね?休みまで生徒会室にいるなんて兄上くらいだし」
「はい……」
「兄上に会いに来たってことは、気持ちが決まったってことかな?」
「っ!どこでそれを」
「悩んでることは知っていたよ。僕以外の皆には相談に行っていたみたいだし」
そう言いながらルカルド様はどことなく暗いオーラが見える笑みを浮かべていた。しかしその毒気がふっと消えて、見たことがない優しい表情が現れる。
「僕はね、君を応援しているんだ。どんな形であれ、君が幸せでいることが兄上の幸せになるし。それに見た感じ一番良い形で収まりそうだ。だから頑張って、って伝えたかったんだよ」
ルカルド様はそこまで言い切ると私の肩を軽く叩いて扉の方に向かった。まるで見計らっていたかのようにそこで扉が開いてルーク様とカイ様が帰ってきた。
「っフィリア……?」
「兄上、カイを借りていきますね。少しの間フィリア嬢と話していてください」
「え、ルカルド様?」
あっという間のことで、ルカルド様は有無を言わせずカイ様を連れて行ってしまった。扉の閉まる音と同時に静寂が降ってくる。けれどそれを長引かせまいと私は口を開いた。
「ルーク様!」
「な、何だ」
勢い余って大きな声が出てしまい、ルーク様の肩が少し跳ねたのが見えた。
「あの、今度こそちゃんとお話ししたいので、明日、ある場所でお会いしたいのですが……」
「ある場所とは?」
不思議そうな顔をするルーク様に少し照れながら「ある場所」がどこかを伝えると、彼は優しい笑顔になった。
「そこなら問題ない。念のために俺があらかじめ許可も取っておく。明日は午前は予定があるから午後でも良いだろうか?」
「はい!大丈夫です!よろしくお願いします」
話すならあの場所が良いと思っていたからホッとして肩を撫で下ろした。時間がかかってしまったけれどちゃんと伝えよう。精一杯の等身大のこの気持ちを。私は来たる明日に想いを馳せて自分を鼓舞した。
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次のお話でフィリア視点の本編は最終回にしようと考えています!本日中か、もしくは明日までには更新する予定です!
応援ありがとうございます!
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