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第二章
13話
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ラズリアさんの後を必死に追って彼女の部屋に到着した。
「ラズリアさん、足が速いのね……」
肩で息をしながら部屋の壁に手をつく。ラズリアさんの方を見ると彼女はまるでここまでの全力疾走がなかったかのようにけろっとした笑顔でこちらを振り返った。
「領地が山の方で、よく駆け回っていましたから。体力だけはあるんです。ラインホルト様はどうかこちらの椅子にでもお掛けになってお待ち下さい」
「え、ええ、ありがとう」
私が座ったのを見ると、彼女は書き溜めた手紙から事件の手掛かりになりそうなところを抜粋し始めた。
彼女と過ごしてみて分かったことは彼女がとても気配りができる優しい人だということ。そして見ていて気持ちの良い笑顔でたくさんの面白い話を聞かせてくれる素敵な人だということ。正直、自殺を図るような人には到底見えない。だからこそどうしてあんなことになったのか、事件の真相はひどく気になった。ゲームの一番重要な真相の部分を忘れてしまっている自分がもどかしい。
「あ!」
ラズリアさんの声でふっと思考の波から引き戻される。
「見つかったの?」
「はい。六日前の手紙が」
「……見せてもらってもいいかしら?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとう」
あくまで調査には加わらない。邪魔は絶対しないけれど、こうやって見るくらいなら許されるはず。そう自分に言い聞かせながら丸みを帯びた字の羅列を辿った。
<今日はたくさんの方に誕生日を祝っていただきました。領地を離れて暮らすのは寂しく感じますがこうして色んな人に仲良くしていただけるのはやっぱり嬉しいです!明日買いに行く本は友情を描いた物語にしようと思います。
あ、そうそう。あまりお話しをしたことがないあの方にも祝っていただいて嬉しかったな……また帰ったら詳しくお話しいたしますね!>
「あの方、とは?」
私が読み終わって返した後、元々いた食堂に戻ってルカルド様とリリーちゃんに手紙を渡すと、ルカルド様が真剣な表情でラズリアさんに聞いた。
「……ごめんなさい、思い出せません」
「六日前の記憶は残っていたんですよね?」
リリーちゃんが首を傾げて尋ねる。さすがはヒロイン。そんな仕草すら愛くるしい。
「それが、私の記憶では祝っていただいた方の中にあまりお話しをしたことがない方というのはいらっしゃらなくて……」
「そうですか……」
私は話を聞きながら考え込んでいた。推測できることは記憶の改変。でもそんなことが実際にできるのだろうか。できたとしてどのタイミングで?それに、本当に記憶の改変が起きていたなら六日前の記憶すら正確なものかどうか分からないということ。だとしたら、何を手掛かりにすればいいのか……。
「フィリア嬢はどう思う?」
ふとルカルド様の声が聞こえて頭を上げる。他の二人の視線もこちらに向いていた。
「え、あ、いや。あの、私は調査には加わらないという話ですし」
「加わる必要はない。君の考えを聞きたいだけだよ」
「……私には、あまりよくわかりません」
答えることが何か影響を及ぼしはしないかと怯えた私は苦笑いでそう答えた。するとルカルド様のいつもの爽やかな笑顔が少し冷めたものに変わる。
「ふーん。君は馬鹿になったみたいだね」
その言葉が放たれた瞬間、その場が凍ってしまったように感じた。
軽い口調で掛けられた言葉が刃物のように突き刺さる。ルカルド様はゲームのことを知っているわけではないし何も分からないと答えた私に対してそうおっしゃったのだということは分かっているのだけれど、それでも私はどこか見透かされているような気持ちになって何も言葉を返すことができなかった。
「じゃあ行こうか、リリー嬢」
「え……は、はい!」
ルカルド様が背を向けると、リリーちゃんはそれを追うように小走りでついて行った。ラズリアさんは私の固まった表情を伺って困り顔をしている。何か言葉をかけなければ。そう思いながらも喉に蓋がついたみたいに何も言い出せなかった。目の前が暗く染まった。
「ラズリアさん、足が速いのね……」
肩で息をしながら部屋の壁に手をつく。ラズリアさんの方を見ると彼女はまるでここまでの全力疾走がなかったかのようにけろっとした笑顔でこちらを振り返った。
「領地が山の方で、よく駆け回っていましたから。体力だけはあるんです。ラインホルト様はどうかこちらの椅子にでもお掛けになってお待ち下さい」
「え、ええ、ありがとう」
私が座ったのを見ると、彼女は書き溜めた手紙から事件の手掛かりになりそうなところを抜粋し始めた。
彼女と過ごしてみて分かったことは彼女がとても気配りができる優しい人だということ。そして見ていて気持ちの良い笑顔でたくさんの面白い話を聞かせてくれる素敵な人だということ。正直、自殺を図るような人には到底見えない。だからこそどうしてあんなことになったのか、事件の真相はひどく気になった。ゲームの一番重要な真相の部分を忘れてしまっている自分がもどかしい。
「あ!」
ラズリアさんの声でふっと思考の波から引き戻される。
「見つかったの?」
「はい。六日前の手紙が」
「……見せてもらってもいいかしら?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとう」
あくまで調査には加わらない。邪魔は絶対しないけれど、こうやって見るくらいなら許されるはず。そう自分に言い聞かせながら丸みを帯びた字の羅列を辿った。
<今日はたくさんの方に誕生日を祝っていただきました。領地を離れて暮らすのは寂しく感じますがこうして色んな人に仲良くしていただけるのはやっぱり嬉しいです!明日買いに行く本は友情を描いた物語にしようと思います。
あ、そうそう。あまりお話しをしたことがないあの方にも祝っていただいて嬉しかったな……また帰ったら詳しくお話しいたしますね!>
「あの方、とは?」
私が読み終わって返した後、元々いた食堂に戻ってルカルド様とリリーちゃんに手紙を渡すと、ルカルド様が真剣な表情でラズリアさんに聞いた。
「……ごめんなさい、思い出せません」
「六日前の記憶は残っていたんですよね?」
リリーちゃんが首を傾げて尋ねる。さすがはヒロイン。そんな仕草すら愛くるしい。
「それが、私の記憶では祝っていただいた方の中にあまりお話しをしたことがない方というのはいらっしゃらなくて……」
「そうですか……」
私は話を聞きながら考え込んでいた。推測できることは記憶の改変。でもそんなことが実際にできるのだろうか。できたとしてどのタイミングで?それに、本当に記憶の改変が起きていたなら六日前の記憶すら正確なものかどうか分からないということ。だとしたら、何を手掛かりにすればいいのか……。
「フィリア嬢はどう思う?」
ふとルカルド様の声が聞こえて頭を上げる。他の二人の視線もこちらに向いていた。
「え、あ、いや。あの、私は調査には加わらないという話ですし」
「加わる必要はない。君の考えを聞きたいだけだよ」
「……私には、あまりよくわかりません」
答えることが何か影響を及ぼしはしないかと怯えた私は苦笑いでそう答えた。するとルカルド様のいつもの爽やかな笑顔が少し冷めたものに変わる。
「ふーん。君は馬鹿になったみたいだね」
その言葉が放たれた瞬間、その場が凍ってしまったように感じた。
軽い口調で掛けられた言葉が刃物のように突き刺さる。ルカルド様はゲームのことを知っているわけではないし何も分からないと答えた私に対してそうおっしゃったのだということは分かっているのだけれど、それでも私はどこか見透かされているような気持ちになって何も言葉を返すことができなかった。
「じゃあ行こうか、リリー嬢」
「え……は、はい!」
ルカルド様が背を向けると、リリーちゃんはそれを追うように小走りでついて行った。ラズリアさんは私の固まった表情を伺って困り顔をしている。何か言葉をかけなければ。そう思いながらも喉に蓋がついたみたいに何も言い出せなかった。目の前が暗く染まった。
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