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第二章

3話

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 私たちが今いるのは食堂近くの廊下。そしてそのすれ違い様に彼女が見えた。もう声をかけても気づかれないくらいの距離に行ってしまったけれど。

「どうかしたの?フィリア嬢」

 私が一人の少女に視線を奪われているとルカルド様が不思議そうにこちらを覗き込んできた。

「あ、いいえ、なんでも」

 そう答えながらも私の視線は彼女から動かなかった。それを不思議に思ったようで他のみんなも全員リリーちゃんの方に視線を向けた。

「私たちと同じ、新入生の方ですね」

 メルルは私の背後からピョコッと顔を出してそう言った。

「あぁ、オルコック家の令嬢だね。確か入学試験は次席だったと記憶しているけど」

「次席……賢い方なんですね」

 ルカルド様の説明にレオン様が相槌を打つ。私はその中でもただ彼女の背中を見つめ続けた。なるほど、リリーちゃんは次席だったのね。ということはリリーちゃんが賢いことには変わりないし、今回ズレが生じていたのはルカルド様の方かもしれない。とりあえず、リリーちゃんはゲーム通りに進んでいるような気がする。

「フィリア様、そろそろ次に行きましょう?」

「あ、えぇ、そうね」

 メルルがなかなか動かない私を連れて行こうと私の腕に彼女のそれを絡めた。いや、可愛すぎるでしょ。

 話を戻そう。今物語にズレを生じさせているのはルカルド様。なら、本人に聞いてみるのが一番早そうだ。校庭の温室に行くとレオン様がメルルを連れて先に行ってしまったので早速聞いてみることにした。

「ルカルド様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「?……何でもどうぞ」

「あの、珍しいな、と思いまして……」

「あぁ、僕が試験に本気を出したこと?」

「っ!……はい」

 何がというまでもなく核心をつかれた。エスパーか何かなのかしら。

 でも実際、ゲームの世界だけでなくルカルド様はこれまで全力でやればもう少し上までいくだろうことに手を抜いていた。それはもちろん本人にも自覚があるだろう。

「まぁ、手を抜く理由がなくなったからね。それに、兄上を支えられるようになりたいし」

 ルカルド様は憑物が落ちたようなすっきりとした顔でそう言った。ルカルド様が手を抜く理由、それは私が考える限り第二王子派以外にはあり得ない。私が誘拐されてから第一王子派が本格的に第二王子派を潰しにかかったというのは聞いている。それでもこの5年間ルカルド様はあまり本気を出していなかった。おそらく様子見だろう。そしてやっと手を抜かなくて良くなったと判断できた、ということ……ずいぶんと慎重な性格なのね。

「もう!レオン様、いい加減になさってください!」

 ふとメルルの声が聞こえてきた。あぁ、レオン様がまた揶揄いすぎたのね。レオン様のおかげなのかせいなのか分からないけれど、メルルは本当にしっかり者になった。特にレオン様に関しては。

「怒らないでくださいよ、メルルさん。でも、怒っていても可愛らしいですね」

「お世辞は結構です。そろそろ行きますよ?」

 もう可愛いと言われたくらいでは恥ずかしがらなくなった。たぶんレオン様が言いすぎて本気にしなくなったのだと思う。まぁ、私がたまに言うと真っ赤になってくれるのでレオン様に対してだけだけれどね。

 それから校内も大体回り終わったので寮に帰った。明日からは授業も始まる。リリーちゃんとも仲良くなりたいけれど私があまり関わらない方が良いような気もするし、遠くから見守りつつ手助けができたらそれが理想だ。勉強も頑張るけれど、何よりみんなの幸せのためにも上手く立ち回れるように頑張ろう!
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