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番外編
令嬢と剣術
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(レイチェル視点)
(フィリアが攫われてから少し経った頃のお話です)
最近、フィリアちゃんが我が家によく遊びに来る。どうやら私に会いに来てくれているらしいけど、そんなに私に構っていてこの人はいいのだろうか。一応未来の王妃なのに。
「レイチェルちゃん、こんにちは!」
「う!」
「あなたは本当に賢いのね!こんなに可愛らしいのにその上賢いだなんて、本当に素敵!」
「うー」
まあ、そう言われて悪い気はしないよね。にしても本当に元気だな……あの小説で読んだフィリアとはまるで別人。
「私ね、今日こそは剣術を習いたいってカイ様に言ってみようと思うの!」
「うー?」
「あら、まるで疑っている顔ね。大丈夫よ、これでも体力は付けたんだから!」
うーん、病弱だった令嬢が付けた体力で剣術って厳しいと思うんだけど。それに何だか剣を持ってるフィリアちゃんなんて想像つかないし。
「上手く行ったらまた報告にくるわ。期待しててね!」
……まあ、砂糖一粒分の期待ならしとこうかな?そう心の中で告げながら意気揚々とお兄ちゃんのもとへ行く彼女の背中を見送った。さて、そろそろお昼寝と行きますか。私もすくすく育たなくちゃいけないからね。
******************
ふぅ、よく寝た。驚くほどぱっちりと目が覚めて少し辺りを見回すと、ベビーベッドのすぐそばにお兄ちゃんが立っていた。何だか……疲れているような……。
「レイチェル、起きたのか」
「う!」
「起き抜けに悪いんだが、少しだけ話を聞いてくれないか?」
「うー」
なになに?どうしたの?気になって耳を傾けると、お兄ちゃんはゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「カイ様!私に剣術を教えていただけませんか?」
剣を磨いていたところに満面の笑みでそう言うフィリアちゃんが突然現れたらしい。いきなりのことで訳がわからないお兄ちゃんはもちろん何も言えなかった。そして少し経ってから話を聞くと……
「私は、自分で自分の身を守れるようになりたいのです。もう、あんな風にはなりたくありませんし……それに体調も随分良くなったので体を動かしたいんです!」
真剣な顔で語るフィリアちゃんにお兄ちゃんは断るなんてできるわけもなく、しばらく考えてこう提案した。
「では、フィリア嬢に剣の素質があるか少し確かめてみましょう。それで素質がないと俺が判断した場合には諦めていただきます。よろしいですか?」
フィリアちゃんは少し顔を強張らせて頷いたらしい。
それからやったことは子ども用の軽い剣で練習用の人形を切る、という簡単なテスト。その動きを見てお兄ちゃんはフィリアちゃんに素質があるか判断しようとしたらしい。
「えい!……やあ!…………あれ?」
「これは……」
10分近く格闘していたらしいけど、結果人形は無傷。何とフィリアちゃんには壊滅的にコントロール能力が欠けていたらしい。
「何とお声がけしたらいいか分からずにいると、フィリア嬢はお礼だけ言ってお帰りになったよ。……レイチェル、俺はどうすれば良かったのだろうか?」
「うー!う!」
私は心の底からの「アンタは悪くない」をお兄ちゃんに送った。誰も悪くないよ。強いて言うならフィリアちゃんにコントロール能力を授けなかった神様が悪い。だから元気出して!
「レイチェル……励ましてくれているのか?お前は優しい子だな」
「うー!」
そうだよ。自慢の妹でしょ。その私が悪くないって言ってんだから大丈夫だよ。ほら、さっさと部屋に戻って寝な!
それから後日。フィリアちゃんが私のところに喋りにやってきた。だいたいはお兄ちゃんの話と同じだったけど。
「でね、そのことをジェイくんに話したら、『そんなことだろうと思った』なんて言われちゃって。肥料を撒くときとか水やりのときとか、そういうお手伝いをしていた時に薄々感じてたんですって!」
「うー」
……ジェイって誰?っていうかそんな作業の時にすらノーコン発揮するって相当だな。これで剣なんて持ってたら味方まで攻撃しちゃいそう。やめといて正解だね。
(フィリアが攫われてから少し経った頃のお話です)
最近、フィリアちゃんが我が家によく遊びに来る。どうやら私に会いに来てくれているらしいけど、そんなに私に構っていてこの人はいいのだろうか。一応未来の王妃なのに。
「レイチェルちゃん、こんにちは!」
「う!」
「あなたは本当に賢いのね!こんなに可愛らしいのにその上賢いだなんて、本当に素敵!」
「うー」
まあ、そう言われて悪い気はしないよね。にしても本当に元気だな……あの小説で読んだフィリアとはまるで別人。
「私ね、今日こそは剣術を習いたいってカイ様に言ってみようと思うの!」
「うー?」
「あら、まるで疑っている顔ね。大丈夫よ、これでも体力は付けたんだから!」
うーん、病弱だった令嬢が付けた体力で剣術って厳しいと思うんだけど。それに何だか剣を持ってるフィリアちゃんなんて想像つかないし。
「上手く行ったらまた報告にくるわ。期待しててね!」
……まあ、砂糖一粒分の期待ならしとこうかな?そう心の中で告げながら意気揚々とお兄ちゃんのもとへ行く彼女の背中を見送った。さて、そろそろお昼寝と行きますか。私もすくすく育たなくちゃいけないからね。
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ふぅ、よく寝た。驚くほどぱっちりと目が覚めて少し辺りを見回すと、ベビーベッドのすぐそばにお兄ちゃんが立っていた。何だか……疲れているような……。
「レイチェル、起きたのか」
「う!」
「起き抜けに悪いんだが、少しだけ話を聞いてくれないか?」
「うー」
なになに?どうしたの?気になって耳を傾けると、お兄ちゃんはゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「カイ様!私に剣術を教えていただけませんか?」
剣を磨いていたところに満面の笑みでそう言うフィリアちゃんが突然現れたらしい。いきなりのことで訳がわからないお兄ちゃんはもちろん何も言えなかった。そして少し経ってから話を聞くと……
「私は、自分で自分の身を守れるようになりたいのです。もう、あんな風にはなりたくありませんし……それに体調も随分良くなったので体を動かしたいんです!」
真剣な顔で語るフィリアちゃんにお兄ちゃんは断るなんてできるわけもなく、しばらく考えてこう提案した。
「では、フィリア嬢に剣の素質があるか少し確かめてみましょう。それで素質がないと俺が判断した場合には諦めていただきます。よろしいですか?」
フィリアちゃんは少し顔を強張らせて頷いたらしい。
それからやったことは子ども用の軽い剣で練習用の人形を切る、という簡単なテスト。その動きを見てお兄ちゃんはフィリアちゃんに素質があるか判断しようとしたらしい。
「えい!……やあ!…………あれ?」
「これは……」
10分近く格闘していたらしいけど、結果人形は無傷。何とフィリアちゃんには壊滅的にコントロール能力が欠けていたらしい。
「何とお声がけしたらいいか分からずにいると、フィリア嬢はお礼だけ言ってお帰りになったよ。……レイチェル、俺はどうすれば良かったのだろうか?」
「うー!う!」
私は心の底からの「アンタは悪くない」をお兄ちゃんに送った。誰も悪くないよ。強いて言うならフィリアちゃんにコントロール能力を授けなかった神様が悪い。だから元気出して!
「レイチェル……励ましてくれているのか?お前は優しい子だな」
「うー!」
そうだよ。自慢の妹でしょ。その私が悪くないって言ってんだから大丈夫だよ。ほら、さっさと部屋に戻って寝な!
それから後日。フィリアちゃんが私のところに喋りにやってきた。だいたいはお兄ちゃんの話と同じだったけど。
「でね、そのことをジェイくんに話したら、『そんなことだろうと思った』なんて言われちゃって。肥料を撒くときとか水やりのときとか、そういうお手伝いをしていた時に薄々感じてたんですって!」
「うー」
……ジェイって誰?っていうかそんな作業の時にすらノーコン発揮するって相当だな。これで剣なんて持ってたら味方まで攻撃しちゃいそう。やめといて正解だね。
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