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第一章
36.5話②
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(レイチェル視点)
小説で読んだフィリアという名の少女の人生はあまりに残酷だった。
ずっと病弱で外にも出られずにいたかの少女はどこか自分の人生を諦めていた。けど、彼女の状態があまりに良くないと感じた父や侍女たちに説得されて少しずつ外に出るようになる。その時彼女自身にはまだ生きたいという意思はなかった。でも、友達ができると少しずつ変わっていった。楽しいという感情が彼女の中に芽生えるとそれは生きる希望になった。少しずつ運動量を増やし、体力もつけてお茶会にも出るようになった。
ただ、それが全ての間違いだった。彼女自身の美しさやそのオーラに人々は魅了され、建国記念日の挨拶にまで出た彼女は誰からも愛されるようになる。しかし、それを望まない者たちがいた。第二王子派だ。フィリアが国民から支持されることは婚約者の第一王子の地位を底上げすることだった。それまでは生きるか死ぬかもわからない名前だけの婚約者だったのにあっという間に彼らにとって邪魔でしかない存在になったのだ。
それからは地獄の始まり。友達のうちの一人であったカイの家に遊びに来た彼女は第二王子派が雇った刺客によって連れ去られ、惨殺される。生きる希望を得た途端にそれを嘲笑うかのように命を奪われたのだ。そして彼女の一番近くにいたカイはそれがトラウマになり自分を責めて、狂ったように剣の稽古ばかりするようになる。そしてずっと好きだった婚約者を亡くしたルークベルトはその心を固く閉ざしてしまう。ルカルドの人間嫌いもこの事件でより大きくなったし、レオンも可愛い物好きを理解してくれる彼女を失ってすぐに陰口を言われるようになって心を病んでしまう。それにあの人も……。
つまりはフィリアの死が攻略対象たちの全てのトラウマに繋がっていたのだ。
******************
そして現在、その悲劇がそのまま目の前で起きようとしている。気がつけば変な煙が広がり始めていて反射的に息を止めた。赤ちゃんの体でよくできたと思う。そしてそれが限界に来た頃にフィリアちゃんがハンカチを口元に持ってきてくれた。おかげで少し楽になる。ただ、周りにいた侍女もフィリアちゃんもどんどんと倒れていく。このままでは誰も助けなんて呼べないし、フィリアちゃんは連れ去られてしまう。
「うああああああんっ、うああああ」
声を張り上げて泣いた。まだ刺客らしいのは来ていない。もしかしたら来た瞬間うるさいと思われて私は殺されるかもしれない。でも、それでもいい。誰かがここに来てくれれば何か状況は変わるかもしれない。誰か、お兄ちゃん!早く来て!今ここで来ないと絶対後悔するから!あんたはずっと自分を責め続けるから!早く来て!
「うまくいったみたいだな」
聞いたことのない男の声がする。たぶんこれが刺客だ。二人いる。何してんのお兄ちゃん!早く来なさいよ!
「じゃあこのまま連れてくか」
「そうだな」
やばい。このままだと本当に……。
「あんた達、私のお嬢様に何してんの?」
突然、知らない女の子がドアの前に現れた。肩にギリギリつくくらいの茶髪に緑の目。「私のお嬢様」ということはフィリアちゃんの侍女なのだろうか?けど小説の中にはこんなキャラいなかったはず。
「変な爆発音がするし、ご令嬢の泣き声がひどく響いていたから来てみれば……何でそんな汚い手で私のお嬢様のこと掴んでるの?」
「……何だお前」
「あんた達に聞かせる名前なんかあるわけないじゃん。さっさと離しなさいよ」
「そう言われて離す馬鹿はいねぇよな?ほら、行くぞ」
「そうだな」
男達がそう言うとなぜか女の子は私の顔に布をかぶせた。これでは何も見えない。それでも何か情報を得ようと耳をすます。
「っこいつ……正気か?」
唐突に金属音や何かが切れる音が聞こえ始めた。時々男の呻き声や女の子の苦しそうな声が聞こえる。まさか、戦っているの?女の子が、男二人と?しかもだいぶ持ち堪えている。ここに誰か来てくれたら……あー、もう何でほんと私赤ちゃんなのよ!
「チッ。こんなとこで時間なんかかけらんねぇんだよ。もう死ね!」
「!……うっ」
「邪魔しやがって。……よし、さっさと行くぞ」
「っ……ああ」
バタンッと鈍い音がする。聞いた感じでは女の子の方が倒れたっぽい。ってことはフィリアちゃん連れてかれてるじゃん!女の子も死にそうだし!やばい。本当にやばい。
小説で読んだフィリアという名の少女の人生はあまりに残酷だった。
ずっと病弱で外にも出られずにいたかの少女はどこか自分の人生を諦めていた。けど、彼女の状態があまりに良くないと感じた父や侍女たちに説得されて少しずつ外に出るようになる。その時彼女自身にはまだ生きたいという意思はなかった。でも、友達ができると少しずつ変わっていった。楽しいという感情が彼女の中に芽生えるとそれは生きる希望になった。少しずつ運動量を増やし、体力もつけてお茶会にも出るようになった。
ただ、それが全ての間違いだった。彼女自身の美しさやそのオーラに人々は魅了され、建国記念日の挨拶にまで出た彼女は誰からも愛されるようになる。しかし、それを望まない者たちがいた。第二王子派だ。フィリアが国民から支持されることは婚約者の第一王子の地位を底上げすることだった。それまでは生きるか死ぬかもわからない名前だけの婚約者だったのにあっという間に彼らにとって邪魔でしかない存在になったのだ。
それからは地獄の始まり。友達のうちの一人であったカイの家に遊びに来た彼女は第二王子派が雇った刺客によって連れ去られ、惨殺される。生きる希望を得た途端にそれを嘲笑うかのように命を奪われたのだ。そして彼女の一番近くにいたカイはそれがトラウマになり自分を責めて、狂ったように剣の稽古ばかりするようになる。そしてずっと好きだった婚約者を亡くしたルークベルトはその心を固く閉ざしてしまう。ルカルドの人間嫌いもこの事件でより大きくなったし、レオンも可愛い物好きを理解してくれる彼女を失ってすぐに陰口を言われるようになって心を病んでしまう。それにあの人も……。
つまりはフィリアの死が攻略対象たちの全てのトラウマに繋がっていたのだ。
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そして現在、その悲劇がそのまま目の前で起きようとしている。気がつけば変な煙が広がり始めていて反射的に息を止めた。赤ちゃんの体でよくできたと思う。そしてそれが限界に来た頃にフィリアちゃんがハンカチを口元に持ってきてくれた。おかげで少し楽になる。ただ、周りにいた侍女もフィリアちゃんもどんどんと倒れていく。このままでは誰も助けなんて呼べないし、フィリアちゃんは連れ去られてしまう。
「うああああああんっ、うああああ」
声を張り上げて泣いた。まだ刺客らしいのは来ていない。もしかしたら来た瞬間うるさいと思われて私は殺されるかもしれない。でも、それでもいい。誰かがここに来てくれれば何か状況は変わるかもしれない。誰か、お兄ちゃん!早く来て!今ここで来ないと絶対後悔するから!あんたはずっと自分を責め続けるから!早く来て!
「うまくいったみたいだな」
聞いたことのない男の声がする。たぶんこれが刺客だ。二人いる。何してんのお兄ちゃん!早く来なさいよ!
「じゃあこのまま連れてくか」
「そうだな」
やばい。このままだと本当に……。
「あんた達、私のお嬢様に何してんの?」
突然、知らない女の子がドアの前に現れた。肩にギリギリつくくらいの茶髪に緑の目。「私のお嬢様」ということはフィリアちゃんの侍女なのだろうか?けど小説の中にはこんなキャラいなかったはず。
「変な爆発音がするし、ご令嬢の泣き声がひどく響いていたから来てみれば……何でそんな汚い手で私のお嬢様のこと掴んでるの?」
「……何だお前」
「あんた達に聞かせる名前なんかあるわけないじゃん。さっさと離しなさいよ」
「そう言われて離す馬鹿はいねぇよな?ほら、行くぞ」
「そうだな」
男達がそう言うとなぜか女の子は私の顔に布をかぶせた。これでは何も見えない。それでも何か情報を得ようと耳をすます。
「っこいつ……正気か?」
唐突に金属音や何かが切れる音が聞こえ始めた。時々男の呻き声や女の子の苦しそうな声が聞こえる。まさか、戦っているの?女の子が、男二人と?しかもだいぶ持ち堪えている。ここに誰か来てくれたら……あー、もう何でほんと私赤ちゃんなのよ!
「チッ。こんなとこで時間なんかかけらんねぇんだよ。もう死ね!」
「!……うっ」
「邪魔しやがって。……よし、さっさと行くぞ」
「っ……ああ」
バタンッと鈍い音がする。聞いた感じでは女の子の方が倒れたっぽい。ってことはフィリアちゃん連れてかれてるじゃん!女の子も死にそうだし!やばい。本当にやばい。
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