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第一章

32話

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「フィリア嬢が挨拶に、ですか」

「ええ。と言ってもただ立っているだけで何かするわけでもないのですけれど」

「それでも大勢の前に立つんですから大変でしょう。応援しています」

「僕たちも絶対見に行きますから頑張ってくださいね!」

 カイ様とレオン様にも挨拶のことを伝えると笑顔でそう言ってくださった。自分が多くの人の前に出ると言うことが少しずつ現実味を帯びてきて緊張が増していく日々の中でも、こうしてお友達に応援してもらえたらやはり勇気がもらえる。ただ……ジェイくんが無言でレオン様に腕をがっしり掴まれているのは少し気になるけれど。

「あれは平民でも見に行けるから俺も見る。頑張れよ」

 そんなジェイくんも帰り際にこそっとそう言ってくれた。私は本当にいいお友達を持ったものだ。そう思って心が温かくなっていくのを感じた。



******************



 それから少しして建国記念日前日になると私は王宮に向かうことになった。当日の準備が大変なので前日から王宮に泊まらなければならないのだ。ラナとリサにはついてきてもらうことにして、他の屋敷の者たちとはそこでほんの少しだけお別れだ。もちろんお父様やお兄様とも。

「君は私の自慢の娘だ。胸を張って行ってきなさい」

「私の天使ならきっと大丈夫だ。何も恐れることはないからね」

 優しい笑顔でそう言ってくださったお父様とお兄様に続き使用人たちもたくさん応援の言葉をかけてくれて、中には泣いている人もいた。離れるのはたった一晩だし私はただ突っ立っておくだけだから少し大袈裟な気はするけれどそれだけ思ってくれているのだと思うとやはり嬉しい。みんなに感謝の言葉を言って私は出発した。


 
 そして王宮に到着。私はまず国王陛下に挨拶をしに行った。

「よく来てくれた、フィリア嬢。まだ幼い君に大変な仕事をさせてしまって申し訳ない。君のことはルークベルトが責任をもってエスコートするだろう。明日はよろしく頼む」

 よく響く低音の声。ちゃんとお話をするのは初めてなので聞き慣れないそれに少し体を震わせながらも返事をしようと口を開く。

「こちらこそまだまだ未熟な身でございますが誠心誠意努めさせていただきますのでよろしくお願い致します、陛下」

「……なるほど、随分としっかりとしたご令嬢のようだ。これなら心配することはなさそうだな」

 頭を上げて見ると陛下はとても優しく慈愛に満ちた微笑みをしていらっしゃった。この方の顔に泥を塗るわけにはいかない。私はそう思ってその微笑みを目に焼き付けた。

 それから案内されたお部屋に到着し、疲れ切っていた私はすぐに眠りについた。




 そんなこんなで今現在、私は大人数の侍女たちによって磨かれている。今回は先日のお茶会よりも複雑な髪型にもなるし準備も念入りになる。確かにこれは前日から泊まっていないとしんどいだろう。自分の身なりだけではなく今日の動きやマナーの最終チェックもあるのだからだいぶ時間を取られる。

 慌ただしい空気の中ノック音が聞こえてきた。人に見られても大丈夫な姿ではあったので入ってもらうように言うと勢いよく扉が開いた。

「フィリア様!ついに渾身の作品が出来上がりました!貴女様の魅力を最大限に引き出すための貴女様のためだけに捧げるドレスが!」

 そう大きな声で言いながらやってきたのはやつれてボロボロの格好をしたルミアーノさんだった。その姿もそうだし、まず着替えの段階に入っていなかった私は今の今まで自分の着るドレスがなかったことを知らなかったのでそのことにも驚いた。けれど王宮の侍女たちが全く驚いた反応を見せないのでもしかしたらこれはよくあることなのかもしれない。もちろん、ラナやリサは私と同じく口をあんぐりと開けて驚いているけれど。

 ただルミアーノさんが両手で持つそのドレスは今まで見たことがないほど美しく自分が着るのが申し訳なくなるくらいだった。やつれてボロボロになるまで一生懸命考えてくださったルミアーノさんにお礼を言って、彼が退室したあとそのドレスに袖を通す。準備はできた。もう後戻りはできない。この日が誰にとっても素敵な思い出になるよう願いを込めて私は足を一歩前へと踏み出した。




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 いつまで建国記念日引っ張るんだよっていうくらいですが次回には確実に建国記念日を迎えます。幼少期が長くなってしまっている中根気強く読んでくださっている皆様に本当に感謝です。幼少期編はもうそんなに長引かせたくないとは思っていますがもし予定が狂ったときはごめんなさい……。
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