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第一章
17話
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お兄様に解放されてから自分の部屋に戻った私はラナに少し休むから一人にしてほしいと頼んだ。大きめのソファに身を沈めてため息をつく。お兄様とのことが解決したのは嬉しいけれど、私にはまだ考えないといけないことが残っているのだ。
「何でルカルド…様が私を訪ねてきたのか、よね」
それからルカルド様の発言のこともある。
『兄上の婚約者にはしっかりしておいてもらわないとね、僕のためにも、貴女自身のためにも』
なぜ私がしっかりするとルカルド様のためになるのか。「しっかりする」というのはどういう意味で使ったのか。だいたい私はルークベルト殿下の婚約者であってルカルド様には関係ないのに……。あ、「ルーク様」だったわ。
「いや、今それはどうでもいいのよ!……そういえば『今』って……」
今、つまりこの時期は私と同い年のルカルド様がまだ十歳なのでゲーム開始の五年前ということになる。第一王子派と第二王子派に分かれていた派閥が無くなるのはゲーム開始の……何年前だったかしら?とりあえず、今はまだ派閥が無くなっていない可能性は大いにある。むしろ……
「無くなっていないからこそ、私の行動がルカルド様にも関わる……?」
ルカルド様には婚約者がいない。これは私の勝手な推測だけれど、その理由はルーク様の王位継承を優位にするためではないだろうか?王妃がいなくても王にはなれる。ただ王妃となる者がいる方がやはり優位だ。
それにラブリリのシナリオから見るとルカルド様は本来の能力を発揮しようとしない。ルーク様を超えない程度の力のみ発揮するのだ。つまりは元々ルカルド様には王になりたいという欲がない、ということ。実際人間嫌いのルカルド様よりは、一見冷たくても人のために働きたいという意思が強いルーク様の方が王には向いていると思う。ちなみにルーク様の人柄はラブリリのシナリオでのものなので実際がどうかは私は知らない。吹雪のようなオーラしか見たことがないもの……。
「とにかく!ルカルド様を王にしたい人達が増えないようにするにはルーク様の王としての素質が高い方がいい。その要素に婚約者の私も含まれる……ということ?」
確かに未来の王妃は立派な方がいい。病弱だったり頭が悪い人は向いていないだろう。だから本来頭の方はともかく病弱な私は向いていない。けれど最近お散歩を始めて少し健康になりつつある。予想の域を出ない話だけれど、私がずっと病弱なままだったらたぶんルカルド様は私の顔を見には来なかっただろう。王妃になることなくどこかしらで死ぬものとして切り捨てられていただろう。ところがこのままいけば死ぬだろう人間がいきなり健康になろうとし始めたものだから未来の王妃になる可能性が出てきたのだ。そのため、それがどんな人間か確かめておく必要が出たのかもしれない。下手に派閥を動かす源にならないかどうかを、自分の目で。
「つまり私は、試されていたのね……」
頭が真っ白になるほど緊張したこちらとしてはたまったものではないけれど、あちらとしては必要な訪問だったのだろう。アポなしだったのは準備できない状況の、より素に近い私を見て判断したかったからなのかもしれない。
「ふぅ、疲れた……」
合っているかは分からないけれど、自分の中ではどこぞの名探偵並みの推理を繰り広げたつもりの私は思い切り息を吐きながらこめかみを押さえた。
『またね』
最後のルカルド様の言葉を思い出す。これはきっと、とりあえずは私が邪魔にはならないと判断された、ということなのだろう。それにしても……また来るの?それを考えた瞬間、胃が痛むのを感じた。
「何でルカルド…様が私を訪ねてきたのか、よね」
それからルカルド様の発言のこともある。
『兄上の婚約者にはしっかりしておいてもらわないとね、僕のためにも、貴女自身のためにも』
なぜ私がしっかりするとルカルド様のためになるのか。「しっかりする」というのはどういう意味で使ったのか。だいたい私はルークベルト殿下の婚約者であってルカルド様には関係ないのに……。あ、「ルーク様」だったわ。
「いや、今それはどうでもいいのよ!……そういえば『今』って……」
今、つまりこの時期は私と同い年のルカルド様がまだ十歳なのでゲーム開始の五年前ということになる。第一王子派と第二王子派に分かれていた派閥が無くなるのはゲーム開始の……何年前だったかしら?とりあえず、今はまだ派閥が無くなっていない可能性は大いにある。むしろ……
「無くなっていないからこそ、私の行動がルカルド様にも関わる……?」
ルカルド様には婚約者がいない。これは私の勝手な推測だけれど、その理由はルーク様の王位継承を優位にするためではないだろうか?王妃がいなくても王にはなれる。ただ王妃となる者がいる方がやはり優位だ。
それにラブリリのシナリオから見るとルカルド様は本来の能力を発揮しようとしない。ルーク様を超えない程度の力のみ発揮するのだ。つまりは元々ルカルド様には王になりたいという欲がない、ということ。実際人間嫌いのルカルド様よりは、一見冷たくても人のために働きたいという意思が強いルーク様の方が王には向いていると思う。ちなみにルーク様の人柄はラブリリのシナリオでのものなので実際がどうかは私は知らない。吹雪のようなオーラしか見たことがないもの……。
「とにかく!ルカルド様を王にしたい人達が増えないようにするにはルーク様の王としての素質が高い方がいい。その要素に婚約者の私も含まれる……ということ?」
確かに未来の王妃は立派な方がいい。病弱だったり頭が悪い人は向いていないだろう。だから本来頭の方はともかく病弱な私は向いていない。けれど最近お散歩を始めて少し健康になりつつある。予想の域を出ない話だけれど、私がずっと病弱なままだったらたぶんルカルド様は私の顔を見には来なかっただろう。王妃になることなくどこかしらで死ぬものとして切り捨てられていただろう。ところがこのままいけば死ぬだろう人間がいきなり健康になろうとし始めたものだから未来の王妃になる可能性が出てきたのだ。そのため、それがどんな人間か確かめておく必要が出たのかもしれない。下手に派閥を動かす源にならないかどうかを、自分の目で。
「つまり私は、試されていたのね……」
頭が真っ白になるほど緊張したこちらとしてはたまったものではないけれど、あちらとしては必要な訪問だったのだろう。アポなしだったのは準備できない状況の、より素に近い私を見て判断したかったからなのかもしれない。
「ふぅ、疲れた……」
合っているかは分からないけれど、自分の中ではどこぞの名探偵並みの推理を繰り広げたつもりの私は思い切り息を吐きながらこめかみを押さえた。
『またね』
最後のルカルド様の言葉を思い出す。これはきっと、とりあえずは私が邪魔にはならないと判断された、ということなのだろう。それにしても……また来るの?それを考えた瞬間、胃が痛むのを感じた。
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