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第一章

14話

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 それからというものの、私はうまくお兄様と話せなくなった。お兄様は悪くない。私が避けてしまっているのだ。お兄様に伝わるようにと一生懸命考えた言葉だったけれど、後から考えてみるとお兄様相手に生意気だったかもしれない。答えを聞かずに逃げた自分が何て話しかけたらいいのかが分からずにぐるぐると考え続けて一日が終わってしまうのだ。

「ねぇ、ラナ。私どうしたらいいと思う?」

「どうしたら、とは?」

「お兄様のことよ。何て話しかけたらいいか分からないの」

「あぁ、そういうことだったんですね!私はお嬢様がわざとロナン様を無視なさっているのかと思いましたよ」

「なんで私がお兄様を無視するのよ」

「ジェイのことでのお話を通すためかと考えておりましたが……」

「そんな方法思いつかなかったわ。でもそれって効果あるの?」

「現状を見る限り効果は絶大ですよ!お嬢様は意図せずしていたみたいですけど、たぶんロナン様はお嬢様がお怒りになられたのだとお考えになって落ち込んでいらっしゃいます。何だかげっそりしていらっしゃいますもん」

「そんな……お兄様に申し訳ないことをしたわ。どうしたらいいのかしら……」

「うーん、このままでいいのでは?」

「どういうこと?」

「このままロナン様とお話ししない状況が続いたらロナン様も耐えられなくなってお嬢様が思うように動いてくださるようになると思いますよ」

「そうね……」

 口ではそう言いながら心の中では納得のいっていない自分がいた。お兄様を傷つけたままにするのは違うと思う。でもどうすれば……。

「少し、一人にしてもらってもいい?」

「かしこまりました。何かあればお申し付けください」

 眉間の皺が取れない私をラナは心配そうに見つめながらゆっくりと扉を閉めた。

 考えのまとまらない頭が忌々しい。酸素でも足りていないのだろうか?そういえば今日はお散歩がまだだったわ!そうね、日光に当たれば少しは頭が働くかもしれない!よし、お散歩に行きましょう。現実逃避をしていることは分かっているけれど部屋でずっと考え続けるのはたぶん今の私にはつらい。

 ラナにお散歩の準備を頼もうと思って息を吸った時部屋にノック音が響いた。

「お嬢様、お客様がいらしております」

「どなた?」

「王子殿下です」

 その言葉を聞いて背筋が凍った。え?またアポなし訪問なの?頭が真っ白になる。しかしお待たせするわけにはいかないので素早く準備を済ませて応接室に向かった。





「殿下、お久しぶりでございます」

 そう言って殿下の顔も見ずに頭を下げた。すると頭上から声が聞こえた。

「えっと……勘違いしてるみたいだけど、僕ははじめましてだよ?」

 聞いたことのない声だと思って頭を上げると目の前にいたのはルークベルト殿下ではなかった。全くもって予想していなかったルカルド殿下だ。

「っ大変申し訳ございません!お初にお目にかかります。ラグナス・ラインホルトが娘、フィリアでございます」

「丁寧な挨拶をありがとう。もう分かってるみたいだけど僕は第二王子のルカルド。貴女の婚約者の弟だ。よろしくね」

 そう言ってルカルド殿下はキラキラと眩しい笑顔をこちらに向けた。ただ、ラブリリを愛する私には分かる。これは営業用の笑顔だ。確実に裏がある。まず会ったこともない彼がなぜアポなしで私に会いに来たのか。ルークベルト殿下も怖いけれどこちらは別の意味で怖い。というか兄弟揃ってアポなし訪問ってどうなのよ!心臓に悪すぎるわ!

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