眠り姫は子作りしたい

芯夜

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第一章 眠り姫は子作りしたい

43 シャルロッテの意思

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一か月近く花街に籠っていたシャルロッテとリュクスは、先に【氷刃】のホームに寄ってから、久しぶりに孤児院に顔を出した。

「ねーちゃ!おかえりー!」

「ただいま、皆。ちゃんといい子にしていたかしら?」

わーっと小さな子供たちが駆け寄ってきて、女神のような姿をしたシャルロッテは食堂でもみくちゃにされている。
チビ達は大好きなシャルロッテが戻ってきて嬉しいのか、逃がすまいと四肢に張り付き、絵本を読んでもらうべく椅子に誘導している。

リュクスはというと、大きな子供たちに取り囲まれていた。
その中にはシャルロッテのお守り役であるテッサとマリンの姿もある。

「シャルちゃんは反動を理解できたかしら?」

「リュクスにぃには分からないと思うけど……まだ発情臭がしてるんだけど?」

「ちゃんと避妊魔法使ったのか?使ってなくても喜ばれるだけだけど、まだそこまでの覚悟はねーんだろ。」

「そんなことよりっ。ちゃんと告白はしたの?シャルお姉ちゃんが大事よって伝えた??俺意外と子作りしないでーってちゃんと言ったわよね!?」

「一気に色々言われても返事が難しい。まだ少し怖がってるが反動はとりあえず理解できたし、ようやく日中はキスだけで散らせるようになった。まだ夜は必要だから、部屋にチビ達が押し掛けないようにだけしてくれ。匂いは多分そのせいだ。かなり落ち着いてると思ったんだが、獣人の傍は避けた方が良いか?」

「んー……ローレンにぃがコンラッドにぃにつける匂いほど濃くはないけど、ちゃんとリュクスにぃの匂いが染みついてるから大丈夫。発情臭がしても、他の雄の匂いが付いていれば問題ないから。でも僕がいいよって言うまでは、ちゃんと毎晩マーキングしてね。人間は獣人より匂いが薄いから、毎日マーキングしないと薄れちゃう。マーキングしてるのに獣人が絡んできたら、その喧嘩は買ってやれば良いと思うよ。シャルねぇがリュクスにぃのモノだって分かって絡んでるんだから。力でねじ伏せれば、実力主義の獣人は大人しく従う。」

匂いについては全く分からないが、獣人の鼻は敏感だ。
マーキングと言われるとそれはなんだか違う気がするが素直に頷いておいた。
少なくとも反動中だったとしてもこの程度なら、リュクスの匂いがついていればローレンの前に出しても大丈夫なのではないだろうかという返答だ。

「魔法は使ってる。シャルには反動を早く散らすためのおまじないだと言ってある。告白はしていない。恋人にしたいし囲いたいと思うが、家庭を築くことは考えられないんだ。シャルのことだから、恋人になったら子作りをして貰えると思いそうだろ。」

「相手はあのシャルお姉ちゃんだもんねぇ。今度ラブロマンスを読ませるべきかしら?」

「それはそれで、シャルちゃんが恋人に間違った知識を持ちそうじゃない?小説みたいなプロポーズとか甘いセリフを言われないと口説かれてるって感じなくなっちゃったら、ものすごーく危険よ。そうでなくても下心満載の視線や言葉に疎いのに。今以上に鈍感になっちゃったらどうするのよ。」

「ラブロマンスって、マリンとかルイアの好きな幻想の塊だろ?あんな男いねぇって。」

「リュクスにぃがあれを求められたら不憫……。」

「お願いだから余計なことをしないでくれ……。急いで分かって貰おうとも思ってないんだ。心の成長が伴ってなければ、また泣かせてしまう。」

それは問題だねと、ようやくリュクスは解放された。
ビオラや神官長はもちろんのこと。最近では大きな子供たちまでシャルロッテの保護者のようだ。

女性陣は恋の行方も気になっているのだろう。キャッキャと盛り上がっている。
昔から思う事だが、何故女性はああも恋バナが好きなのか、理解に苦しむ。

ほったらかしにしてしまっていたシャルロッテを見ると、絵本の読み聞かせをしてあげながらもチラチラと視線が飛んでくる。
ホームでたっぷりキスをしてきたのに、そわそわしているところを見るにキスをして欲しいのだろう。

しかし大きな子供たちは良いとして、チビ達の前でディープキスをしていいものだろうか。
出来ればシャルロッテの蕩けた表情を見せたくはないが、暫く深いキスは頻繁に行わなくてはならない。
となると、孤児院の中ではどこでもすぐにキスをできる環境の方が好ましいのだ。

「少しだけ待っていてもらえるかしら?途中でごめんなさいね。」

はーいとチビ達が元気よく挨拶をする。
シャルロッテが座る椅子に群がっていたのにサッと散り、シャルロッテの邪魔をしない配慮までしている。
普段は近くに並べた椅子に座っているのだが、久しぶりにシャルロッテに会えたので離れたくないのだろう。

テクテクとリュクスに近寄ってきたシャルロッテは、そのままリュクスの手を引いて椅子まで戻った。

「いつでもキスできるように、近くにいて欲しいわ。抱っこしててほしいの。それと……今、キスして欲しいわ。」

着席を促されながら食堂に居る神父に視線を向けると、にこやかな笑顔を向けられる。
それはシャルロッテの望む通りにしていいという許可と受け取って良いのだろうか。
——紛うことなきゴーサインである。むしろやれという脅しでもある。

椅子に座ると躊躇いも恥ずかしがることもなく膝の上に乗ってくる。
キスを強請るのでてっきり向かい合って乗ってくると思っていたが、背中を預けられた。

バランスを取って座るためだろうが、大きく股を広げるのはどうにかならないものか。
女神のようなローブはスリットが両サイドに深く入っているため、脚を広げると所有印の散らばる太腿があらわになる。

「脚をっ——。」

「んっ、んちゅっ。」

注意をしようとしたのに、上半身を捻り首に縋りつくシャルロッテに唇を奪われた。
喋るために開いていた口に小さな舌が入り込んできて、懸命に吸い付いてくる。
キスに応えながら脚を閉じさせようとしたが、太腿に触れただけでビクンとシャルロッテが跳ね、慌てて手を離す。

ちらりと獣人の子達を見ると、全員が手でバツ印を作っていた。
どうも触れてはいけないらしい。

まるで男にその身体の魅力を伝えるために肢体を晒しているような状態で、シャルロッテは夢中でリュクスの唇を貪った。
どろりと蕩けた瞳も。赤く染まった頬も。荒い吐息も。
反動を理解していない子供たちですら羞恥心を抱くのに十分すぎるほど、劣情に忠実な雌の姿だった。

「っはぁん。……ありがとう、リュクス。落ち着いたわ。」

「それは良かった。だが……こんな風に大股を開くな。子供たちが真似をしたらどうする。見せたいのか?」

「何を?だって仕方ないわ。まだ絵本の読み聞かせが途中なんだもの。でもリュクスに抱っこして欲しいって思ったらこうなったのよ。」

「はぁ……一回立ってくれ。俺が抱っこしていればいいんだろう?」

立ち上がったシャルロッテの衣服を整え、横抱きにして椅子に腰かける。

「これなら問題ないだろう?……さっきの格好だと、イヤらしい音の出る場所を見せつけているみたいだった。それは恥ずかしいだろ?」

耳元で小さく呟かれたリュクスの言葉を聞いて、シャルロッテの頬が一気に赤く染まった。
まさかそんな風に見えるとは思っていなかったのだ。

「それは嫌よっ。今度から気を付けるわ。」

「是非そうしてくれ。」

気を取り直したシャルロッテは絵本の読み聞かせを再開した。
抱きかかえているとキスを要求されるまでの間隔が空くような気がする。

シャルロッテをリュクスに取られたチビ達は椅子を持ち寄って楽しそうに聞き入った。
リュクスに取られてしまったのは悲しいが、シャルロッテが嬉しそうなのでチビ達も嬉しいのだ。

そうこうしているうちにお昼寝の時間になり、何故かリュクスまで横になる羽目になった。
確かに花街で反動が落ち着き始めてからはお昼寝でも添い寝していたが、背中側から抱きしめたシャルロッテに引っ付こうと、体温の高いチビ達に囲まれてお昼寝タイムとなる。
シャルロッテが子供たちに愛されているのは微笑ましいのだが、ここまでべったりなのはそれはそれで困るものなのだなと思ったのだった。

ちなみにシャルロッテが照れた言葉は、しっかり獣人の子供が大きな子供たちに暴露していた。
かなり限定的ではあるが、ようやくシャルロッテにも羞恥心というものが芽生えたことを喜ばれた。
今後のためにもこのまま正常な感覚を身に着けてくれますようにと祈られていたことは、リュクスもシャルロッテも知らないことである。



日中はシャルロッテに要求されるがままに唇を重ね、一緒にチビ達に纏わりつかれながらお昼寝をし。
夜になると自室に戻った途端に気持ちよくしてくれと、息を荒くしながらしな垂れかかってくるシャルロッテを抱く生活を送った。

どうも自室であれば欲情しても問題ないと思っているのか、シャルロッテの自室で二人っきりになった途端に情欲に囚われるのだ。

二日目からは寝台に行く余裕があるようだったが、初日は部屋の扉に手を吐きローブのスカートをはだけさせ。お尻を突き出し下着をずらして、早く挿れてくれとおねだりしてきた。
花街ではお互い全裸で過ごしていたのでそんなおねだりの仕方を教えた覚えはないのだが、理性を飛ばして扉の前で犯してしまったのは激しく後悔している。

まだ滞在していたルークに。
「仲睦まじいのは良いことだけれど、ほどほどにね。念のため防音魔法を施しておいたけど、私の客間まで丸聞こえだったよ?」
と指摘を受けてしまったのだ。

シャルロッテの声を他の男に聞かせる結果になってしまったこともそうだが。
激しい行為からもたらされる快楽を恐怖して泣いているのに、自身の劣情が落ち着くまで全く配慮してやれなかった。
怖がって我慢して、反動がまた悪化するのではないかと危惧したが、そうはならなかったようで安心した。

【氷刃】の三人と【雷帝の裁き】、ギルマスは3週間違いで王都に戻ってきたという。
恐らく道中の依頼を消化しながら帰ってきたであろう日程だ。

グラスが最初に花街から出てきていたようで、一人で王都の雑用クエストをこなしていた。
ホームの帰還を告げる器にはグラスのサイコロだけが入っていたので間違いないだろう。

一週間ほどしてシャルロッテの反動がようやく問題なくなった頃。
ローレンとコンラッドの二人が戻ってきた。
相変わらず二人の疲労度の差が激しい。

何故か当たり前のように孤児院の食堂に集合するようになってしまった。

「シャルさんの反動はなんとかなったようですね。聞くところによるとギリギリだったみたいですけど。」

「まだリュクスの匂いが染みついてるからな。ま、これなら街中歩いても大丈夫だろ。少なくとも獣人は手ぇださねぇよ。もし獣人が手ぇ出して来たらぶっ飛ばしてやりゃあいい。その覚悟を持って手ぇ出すんだ。死んでも文句言えねぇ。」

「……物騒……。」

「あら、獣人の考えとしては真っ当だと思うわ?他の種族には分からないけれど、獣人は皆匂いで判断するらしいの。どれだけ気に入った子が居ても、番がマーキングしている子に手を出してはいけないのよ。ローレンの言う通り。もし手を出すのならば刺し違えるつもりで手を出さなくてはいけないわ。そうやって自分が強い雄だと認めてもらえれば、弱い雄を従わせられるし、番を奪えるのよ。どんな獣かで鼻の具合も変わるようだけれど、獣人全員に言える事よ。辛うじてお目こぼしを貰えるのは、他種族が番に声を掛けてきて、忠告だけで去った場合ね。しつこかったら殺されても文句を言えないわ。」

「そゆこと。こればっかりは理屈じゃねぇから、どうにもなんねぇ。逆にマーキングした相手を奪おうとしてきてるのにほっとくと、相手を付け上がらせることになる上にマーキングで牽制する意味がねぇ。自分のモノを献上して、あんたの配下になるって意思表示になっちまうから注意しろよ。」

「もし私かリュクスが獣人に番になって欲しいって言われたら、決闘したらいいのよね?……自分で撃退しては駄目なのかしら?獣人と人間とでは身体能力が違いすぎるし。皆まだ身体強化を使いこなせていないでしょう?リュクスより私の方が強いわ。」

「んーまぁ。てめぇなんてお断りだって意味を込めて相手してやるのは良いと思うぜ?弱い雄は雌に気に入られない限り番を得る権利はねぇからな。雌からお断りだって叩きのめされるってのも割とある話らしいぜ。ただ、殺すと面倒だから寸止めにしろよ。シャルが威圧するだけでも効く可能性はあるけどな。」

「その程度のことで国の宝を殺したりしないわ。当たり所が悪くて死んでしまう可能性があるとしても、本来は番になって欲しい相手へのアピールだもの。強い私を選んでくれっていうね。命を懸ける覚悟は必要だけど、命を取る必要性はないわ。」

「そういうのもマザーが教えてくれたのか?良く知ってんじゃん。」

「えぇ。マザーはとっても物知りだったのよ。例え種族が違っても、知識はないよりあった方がいい。使い方を誤った知識は恐ろしいが、無知は何よりも恐ろしいことだからって色々教えてくれたの。」

マザーを褒められたシャルロッテはご機嫌で、獣人の生態を正しく理解してもらえたローレンもご機嫌だ。
深紅の尻尾がバフンバフンと振られ、そのご機嫌具合を主張している。

そんな二人の会話を聞きながら、残る三人は溜息を吐いた。
ローレンは血の気が多くて何度かトラブルになったことがある。
——そのどれもがコンラッドに関することだったのだが、理由を知られているのは半分程度である。

そんなローレンと同調するシャルロッテは、相手の真意に気付かないが為に無自覚に煽ってしまう。
シャルロッテのことを知っている人間が見れば、ただの無知ゆえの無邪気な質問なのだが。下心満載の男達は逆上してしまうだろう。
そこにローレンが悪乗りしてしまったらと思うと、頭が痛くなりそうだ。

「リュクス。シャルさんを手にしたいと望んだ以上。責任をもって教育してくださいね。貴方が教育に悩んでいるのは知っていますが、絶対にローレン2号を作らないでください。……苦労するのは僕たちなので。」

「分かっている。」

「討伐には連れて行けそうですか?」

「ある程度は把握した。この前みたいに大量に倒さなければ大丈夫だと思う。ただ……中途半端な反動だと怖がる。」

「否応無しに反動の対応をしなくてはいけなかったでしょうけど、あれだけ倒していたとなると。理性や思考どころじゃなかったでしょうしね。シャルさん。」

「なぁに?」

ローレンの惚気をにこにこと聞いていたシャルロッテは、名前を呼ばれてコンラッドを見た。

ローレンはというと、コンラッドにちょっぴり睨まれて震えている。
先にどういった話し合いをするのか伝えていたのに脱線して盛り上がっていたのだ。しかも話題はコンラッドのこと。あとで怒られるかもと思っているのだろう。

「シャルさんは今回、初めて反動をそうだと理解して過ごしましたよね?僕達に気を遣わず、シャルさんの素直な気持ちを伝えて欲しいんです。……シャルさんは反動がどんなものかを理解しても、冒険者を続けたいと思いますか?正直なところ、本来であれば最初の反動はこれほど酷くないんです。我慢できないほどだとしても、せいぜい長くて2、3日も花街で対処すれば問題ない程度です。軽ければ交わることなく、キスだけでも十分対応できます。でもどれだけ調整をしたとしても、冒険者をしている以上コントロールできない反動に見舞われることがあります。予定外に遠征日数が増えたり、討伐数が増える事だってあります。もちろん命の危険も。もし反動が怖い、反動が来るのが嫌だと思っているようなら、僕達はシャルさんを連れていくことは出来ません。反動への恐怖心はパフォーマンスに影響しますし。戦闘中の小さなミスが命取りになることもあります。僕の言葉がきつく聞こえるかもしれませんが、冒険者になる以上。これだけはハッキリとさせておかないといけないことなんです。」

「コンラッドが言う意味は分かるわ。どれだけ力を持っていようと、その力を発揮できなければ力を持たないのと変わらないわ。そしてどれだけ力があっても……死んでしまう時は何かをきっかけに死んでしまうものよ。だから正直に話すわ。私は【氷刃】の足手まといにはなりたくないから。エリスさんにもいったけれど、反動はまだ怖いわ。私が私でなくなってしまうようで、それをどうしていいのか分からないの。交尾も子作りと基本は変わらないのに、マザーから聞いていたよりも難しそうだったわ。リュクスが対応してくれたから頑張れたけれど、見知らぬ人が相手だと怖くて怖くて仕方が無かったと思うの。何度か経験していれば慣れることが出来るのか。それとも怖いままかは今のところ判断が付かないわ。」

交尾が難しそうとは一体何をしたのかとリュクスに視線が集まるが、シャルロッテは自分の想いを伝えようと言葉を続ける。

「でも反動が怖いから魔物を討伐したくないとは思わないの。色持ちに生まれて、新しき時代に伝えるために沢山の魔法を覚えたわ。伝えられない魔法だって、いくつも習得しているの。新しき時代で生きていくために、戦闘訓練だって沢山したわ。この力を人の役に立てたいと思っているの。でないと……今までなんのために頑張っていたのか分からなくなってしまうもの。リュクスには迷惑をかけてしまうけれど、もしリュクスが反動の対応をしてくれるのなら。私は皆と一緒に討伐クエストに行きたいわ。……こんな答えでは、皆と共に戦う資格はないかしら?」

ちらっとコンラッドが視線を向けたリュクスは頷く。
リュクスの気持ちも考えれば、反動の相手をリュクスに限定してくれたのでありがたいくらいだ。

「シャルさんの気持ちは分かりました。共に活動するのも問題ないです。実力だけを見るのであれば、間違いなくシャルさんは僕達よりも強いですから。ですが、一つだけ問題もあるんです。」

「……問題?」

反動中リュクスと籠っていたし外からも中からもリュクスの魔力で守られていた。
持病は悪化していないし、今まで気づかれた素振りも無かったのだが。もしかしてコンラッドは気付いてしまったのだろうかと、シャルロッテは身構えた。
だがその口から出た言葉は予想外のもので、密かに安堵する。

「シャルさんのホームについてです。セーフティーエリアで反動は強くなります。逆に言うと、外で反動が強くなることはありません。セーフティーエリアも全てで反動が出るわけではなく、そこが故郷であったり、住んでいる場所であったり。あとは王都のようにかなり大きな街は全ての人に反動が起こる場所です。それはご存知ですよね?」

「えぇ。女性にも反動が起こるのは初耳だったけれど。古き時代から変わらない反動のシステムよ。それがどうかしたの?」

「シャルさんの場合、何処がホームか、ということが問題なんです。」

「私の?……約束の地じゃないかしら。私の故郷は、そこしか残っていないもの。」

「僕達もそう思っていました。でもオークの集落を討伐したあとに、シャルさんはリュクスの傍にいる時だけ反動の影響が出始めていました。……これはあくまでも僕達の推測なのですが、シャルさんが目覚めた時にマザーに魔力を流したのはリュクスです。リュクスの傍でセーフティーエリアであることが、シャルさんのホームになっているのでしょう。王都のような大きな街はもちろんですが。どのセーフティーエリアであっても、リュクスの傍は反動が出る、と覚えておいてください。数体の時は適宜キスで発散してもらった方がいいですが、討伐数が多い時はリュクスに近づかない。これを約束してもらえますか?」

「分かったわ。……でも、私では判断が付かないわ。」

「それについては安心してください。これでも僕達は冒険者活動が長いですから、大体の目安は分かりますから。」

「分かったわ。」

「よっし、シャルが本当の意味で冒険者になる決意を固めたことだし。さっそく雷帝のおっちゃんたちと打ち上げやろうぜ。ギルドにも夕方行くって伝えてくるわ。」

「あ、ちょっと、ローレン!……はぁ。あの猪突猛進なところはどうにかなりませんかね。」

言うが早いか、ローレンはさっさと食堂から出て行った。
一方、打ち上げが良く分からないシャルロッテは首を傾げ。グラスがリュクスをつついてアピールし、説明役を押し付ける。

「大きな討伐を。特に合同でクエストを成功させた後には、反動後に親睦とクエスト達成祝いを兼ねて飲み会をするんだ。よっぽど不仲でない限りな。食事と酒の席、といえば分かるか?」

「つまり会食をするのね。」

「そんな洒落たものではありませんが、簡単に言うとそうですね。かなり賑やかな席になりますが、基本的に冒険者しか出入りしないような酒場ですので。五月蠅いことを覗けば安心して飲み会が出来ますよ。ローレンの様子だと今夜の約束を取り付けてきそうなので、夕食は要らないと伝えてきますね。」

コンラッドが懸念した通り、その日の夜に【雷帝の裁き】との飲み会が決定したのだった。

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